アメリカの田舎パワー

こんな話とか読んでちょっと思ったことがある。
地方暮らしが限界な話(メモ)(追加あり): やまもといちろうBLOG(ブログ)
無職の父と、田舎の未来について。(9/24追記) - どさんこ田舎者、東京でいろいろつくる

先週は、会議出席のためラスベガスに行ってきた。ラスベガスはアメリカによくある超人工都市で、私が行ってたときも昼間の地表温度は華氏111度(摂氏44度)、砂漠だから水は遠くから持ってくる必要があり、電気の力を使って無理やり人が住めるようにしたような場所だ。例えば月面や火星や海底に人が住めるように人工環境の基地を作るというSF映画とかがよくあるが、それみたいなものだ。

19世紀に幌馬車に乗って人が東からやってきて、その時代以降に可能になったテクノロジーを使って、ユニット型の町を次々と荒野に置いていき、それを20世紀にアスファルトの高速道路で結んで車で物資を運ぶことで成立したのが今のアメリカなわけだ。この国が電気やエネルギ−をものすごく使うのも無理ないなぁ・・などと、ラスベガスで改めて実感したわけだ。

さて、ラスベガスでの会議に出席していたのは、全米からやってきた地域密着型のホスティング事業者たち。シリコンバレーのよくある最先端技術のものとは違い、出席者はほとんど白人ばかり中年以上のおじさんたちで、ネクタイとジャケット着用。あー、これだなぁ。テレコム系の会議に行くとこういう雰囲気によく出くわす。アメリカを面的にカバーするサービスって、これなんだよな。ちなみに、ラスベガスにやってきている観光客も、この方々と同じ傾向の老夫婦とかが多い。シリコンバレーでは感じられない、昔初めてアメリカに来たころの感じ。懐かしい。

アメリカも田舎の生活や経済は決して楽じゃないが、農業や鉱工業の競争力があるからなんとかやっていけるんだろうな、と思う。

パワフルな「産業」としてのカリフォルニア農業 - Tech Mom from Silicon Valley
農業と半導体とヒッピーの共通点 - 北カリフォルニア1960-70年代 - Tech Mom from Silicon Valley

そして、そういう土地の人たちが、エネルギー多消費型のライフスタイルに依存せざるを得ず、気候のいいわが北カリフォルニアのように、のんきに「エコ」だの「ロハス」だの唱えるヤツラを嫌うのも、わかるような気がする。

なんだかなぁ〜。それにしても、アメリカの田舎パワーはすごいよ。ホント。そして、この分散型の田舎経済のおかげで、アメリカのテレコムやモバイルは裾野が広い。

日本の田舎の問題は、そういうわけで私は肌感覚が全くないので何を言っても滑ると思うけど、こんなアメリカの状況と比較してみると、究極的には、「『イノベーションアントレプレナーシップ』により農業の生産性とマージンをあげる」ということじゃないかな、と思ったりする。「雇用を分配するための農業」じゃなくて、「マージンを上げる農業」。まー、難しいんでしょうけど、ね・・

米国電力自由化とスマートグリッドについて

KDDI総研 R&Aに寄稿した「米国スマートグリッドの現状」が本日一般公開されました。@May_Roma さんのイギリス編に続いて米国編を、と頼まれたのですが、スマートグリッド事情を理解するためには、まず米国の電力業界のおおまかな構造と、90年代の「電力自由化」の失敗についても頭に入れておく必要があるので、前半はその話を書いています。

調査・出版情報 | KDDI総合研究所
調査・出版情報 | KDDI総合研究所

この前段として、昨年5月に日経ビジネスオンラインにも、米国電力と再生可能エネルギーについて書いていますので、ご興味のある方はこちらもあわせてお読みください。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110411/219400/
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110506/219790/

さて。

電力と通信における「自由化」の時代背景およびミクロ経済学的な動きについては、両者で共通する部分が多いように感じており、その件および通信屋から見た「スマートグリッド」の今後の可能性、というのがテーマなのだが、今回いろいろ勉強してみて、日本で話題の「脱原発」についてもいろいろ考えるところがあったので、ちょっと書いてみたい。

私はご承知のとおり、電力の専門家ではないので、電力業界や原発についてはなんら見識を持っていない。専門外のモノの見識を得るために勉強して意見を発表するのは大変な手間がかかるので、これまでやってこなかった。ただ、一個人としての漠然とした意見というのはある程度あり、それはこの1年半ぐらいでちょっと変わってきたと思う。

昨年5月に上記の記事を書いた時点では、「原発やめるなんて、そりゃー無理でしょ」というのが正直なところだった。もちろん、原発事故の後遺症について皆心配しているのはわかるし、原発が本質的に「善きもの」であるとは思っていない。しかし、原発を全部止めたら電力が足りなくなる、上記記事のように再生可能エネルギーはぜんぜん現実的じゃない、コストの高い他のエネルギーを使わざるをえない、電気料金が高くなる、貿易赤字になる、日本企業がますます海外脱出する、失業が増える、国際競争力がますます低下する・・といった、マクロ経済への影響が大きいだろう、と思った。それに、現在の発電事情はそれなりの背景があって今の状態になっているのだから、それを変えようとしたら、現状固まっている部分をいろいろと強権発動して動かさなければならず、そんなことは今の弱い政府では無理だし、それを力で動かすということは、現状維持が大好きな日本国民にはできるわけない・・・と思ったのだ。

でも、その後フェースブックで私の友人たち(お母さんが多い)の議論を聞いたり、首相官邸デモの話を読んだりすると、もしかして、一番最後の「日本国民に・・」の部分はちょっと考えなおすべきかも。

そして、今回のお勉強で強く印象に残ったのが、「発電における絶望的なほどのイノベーションのなさ」だ。別に批判しているのではなくて、とにかく「あー、そうなんだ、この業界においてはこれが現実なんだ」と納得した感じ。イノベーションには、「発電効率の上昇」と「発電素材の多様化」という二つの方向があるが、どちらもあまり進んでいない。いや、それでも、多少は進んでいて、2001年から2008年までで、再生可能エネルギーのシェアはアメリカでは2倍になっているけど。でも、2%→4%ね。それも、ずぶずぶの補助金漬けでやっと。

米国においては「基礎電力」を供給するのが石炭と原子力で、止められない代わりにコストは比較的安い。天然ガスはコストが高いが、つけたり消したりしやすいので、ピーク時のスポット電力に使う。*1石炭もやしてボイラーでお湯わかしてタービン回すなんて、「きかんしゃトーマス」と同じ原理。サー・トップハムハットの時代から続いている技術で、発電効率は60年代にほぼ成長が止まったとのことだ。

天然ガスは主要エネルギーで唯一、80〜90年代に技術革新があってコストがやや下がり、これが90年台の「自由化」につながったが、下がってもまだ石炭・原子力にはかなわない。この点が、「自由化」したら電力料金が上がり、かえって電力が不足しちゃった、というトホホな状態(特にカリフォルニア州が一番トホホだったのでもろに実感)につながったワケだが、詳しくはレポートを参照してほしい。*2

そして、原子力は石炭と比べて新しい技術であるにもかかわらず、70年代に新規建設が止まり、その後発電効率も上がらず、供給も増えず、廃棄物の処理などに関しても、大きなイノベーションが起こっていない。原子力だけでなく石炭など他の技術も同じだが、現状をベースに次の世代の技術が出てくる、とかいうこともない。「原発2.0」とか「3G原発」とか、聞いたことないし。イノベーションがない原因が、石炭のようにすでに技術的に枯れてしまってどうしようもないのか、それとも人気がなくて研究者が集まらないからそうなのか、私にはわからない。

そうやって作った電力を素材として供給していただくおかげで、わが通信やネットの世界は成立している、というのも皮肉なものだ。こちとらは2.0だの3Gだのと、次々と新しい技術が出てますます効率化が進む、というサイクルがあってこれが当たり前のように思っていたのだが、発電の世界では、本当に、画期的に効率が上がってみんながハッピーになるようなイノベーションがない。(ということで、イノベーションによる大幅な効率上昇・コスト低下・供給増加がない環境では、自由化・競争導入は効果がない、あるいは逆に悪影響がある、というのが私の意見。)

さらに。国によって多少感じが違うにしても、ほとんどの国で原発を「諸手を上げて歓迎」ではなく、「必要悪」的な扱われ方で、もう30〜40年やってきている。技術者が集まらないという話も同じ流れだ。これだけ長期にわたってみんなの意見がそうだということは、どうも原発という技術は、誰も面倒を見てくれない「オーファン・テクノロジー」というか、次の技術を生まないという意味で「ユーナック・テクノロジー」というか、そういうものに見えてきた。

だから、長期的に見ると、やはり原発はなくす方向になるのが自然なのだろう、と思えてきた。ただ、「いつ」「どうやって」というところが問題。日経ビジネスに書いたように、「短期的には節電、中期的には蓄電、長期的には発電」という段階になるのかなぁ、というのが私の漠然とした印象で、アメリカのスマートメーターを使ったスマートグリッドの「第一歩」は、この「短期的には節電」の部分をまずやろうとしている。そこまでなら私も多少は感じがわかるが、中長期の基礎技術に関してはまるでわからない。たとえば太陽光発電って、本当に今後、画期的に効率が上がることがあるのかな?原発ぐらいのボリュームを供給できる代替エネルギーが本当にあるのかな?補助金なしでも成立するのかな?どうして家庭のプラグインハイブリッド車に蓄電をさせようとしてるのか、なんで産業用のでかい蓄電装置、たとえば電話局やデータセンターにある、あれじゃダメなのかな?など、わからないことだらけだ。

・・というわけで、結局オチがなくて、これ以上勉強してる暇がなく、ここまでですいませんごめんなさい。

蛇足。この記事の資料として読んだ米国議会報告書の中で「スマート家電」が言及されているが、これは「スマートメーター」と呼応して動かせる家電のことで、某社の「スマホ(トホホ)洗濯機」のことではない。

もうひとつ蛇足。レポート執筆のために使った資料は、すべてレポートの脚注にリンクを入れてあるのでそちらを参照のこと。

*1:石油は、70年代の石油危機以来、安全保障目的で発電に石油を使わないように政策的に誘導して、現在ではほとんどなし。

*2:カンケイないが、昨日も我が家は数時間ブラックアウトしたらしい。私はいなかったからよく知らないが。

「ビッグデータ」新シリーズ開始しました

ビッグデータクラウド・ストレージ」に関するよもやま話新シリーズを開始いたしました。ZDNetと、クラウディアン社サイトの両方で読めます。

【海部美知 for Cloudian】「ビッグデータとクラウド・ストレージ」 連載 第一回 - トピックス - ZDNet Japan
http://www.gemini-bigdata.com/2012/09/blog-post_18.html

今回のシリーズは、一般的な記事ではなく、クラウディアン社から依頼を受けて、同社の広報の一環として執筆する、いわば「ホワイトペーパー」のようなものです。クラウディアン社は、クラウドストレージ向けソフトウェアを提供する企業です。詳しくは下記をご参照ください。

http://cloudian.jp/

直接の製品宣伝ではなく、「企業によるビッグデータの活用、そのためのクラウドストレージ」という動向について、より多くの方に興味を持っていただき、同社製品のターゲットとする市場を広げようというのが目的ですので、できるだけ読んで楽しいものにしたいと考えています。

連載といっても、半年ほどの「短期シリーズ」になる予定です。2週間に一度の頻度で更新です。どうぞ宜しくお願いいたします。

主婦が欲しいのは、「メイド」じゃなくて「執事」(または「秘書」)

いや違う、秋葉原の喫茶の話ではない。昨日、パナソニックのスマート家電戦略として、「洗剤や柔軟剤を入れる量が自動的にスマホでわかるスマート洗濯機」という記事にツイッターで「アホかいな」とツッコミを入れたら、けっこう私と同じように感じた人が多かったらしいので、勇気をもってこの話を蒸し返したい。

パナソニックのスマート家電をシリコンバレー在住者たちがコキおろしていた - Togetter

振り返ってみると、このブログでこ「家事の一番のペイン・ポイントは、肉体労働ではなくマネージメントである」という話を最初に書いたのはもう2007年と大昔の話。

父の日雑感 - マネージメントとしてのお父さん、お母さん - Tech Mom from Silicon Valley

だいたい、家事とか育児とかいう言葉が間違いの元。このタグのように「家庭経営」というべきなんだろう。主婦の最大のタスクは、家事でも育児でもなく、実は家庭経営であり、大変なのは毎日延々と続く小さな決断のストレスである。経営というのは、ヒト・モノ・カネのリソース配分を決めるということで、人事(作業の配分、後進=子供の育成など)総務(ロジスティクス、スケジューリング、医療・介護・義家族・近所付き合い・冠婚葬祭など)財務(予算配分、資産管理など)といったところが、料理洗濯掃除の肉体労働の部分よりも、実は重要だしストレスフルなのだ。

肉体労働は便利な道具のおかげで、かなり軽減されている。その作業の中でも、例えば上記のツイッターやりとりの中で、「洗濯機を回すなんて、楽なもの。本当に欲しい機能は、家の中に散らばる衣類の中で洗濯が必要なものを選んで集めて洗濯機に放り込み、洗濯・乾燥が終わったらたたんで靴下のペアを作りしまう、という機能」という発言があり、これも洗濯という作業の前後に発生する「マネージメント的なタスク」。食事も、作る作業そのものより、献立を考えるほうが大変。買い物は何を買うかよりも、どこで何が買えるからいつそこに行って、いやそんなヒマない、どうしよう・・というスケジューリングのほうが大変。育児ではオムツ替えなんて2-3年で終わるが、子供の学校選択やお稽古事や宿題対策や友達とのトラブル対策などの総合戦略のほうが大変。

つまり、主婦が欲しいのは、こっちが全部指示したとおりに肉体労働をする「メイド」ではなく、かなりの判断業務を伴い家庭経営の「総務部長」的な役割を担う「執事」(そこまでいかなくても、優秀な「秘書」)なのだ、と、少なくとも私は思っている。

また、スマートフォンクラウドビッグデータが担うべき仕事は、少なくともスマート家電については、メイドではなく執事または秘書の役割、と、ユーザーの一人として思っている。

超わかりやすいNOSQL入門書「NOSQLの基礎知識」

NOSQLの基礎知識 (ビッグデータを活かすデータベース技術)

NOSQLの基礎知識 (ビッグデータを活かすデータベース技術)

ビッグデータ勉強中のところ、ちょうどこの本の著者の一人である本橋さんにこの本をいただきました。ありがとうございます!

私はエンジニアでも専門家でもないが、営業・企画的な立場からビッグデータの技術に興味を持っている。この本は、ちょうどそんな立場の人が、ビッグデータ向け技術の重要な一要素である、「データベース」の世界を理解するのに超オススメである。Hadoopのオーバービュー的な説明もはいっていて、Hadoopの適用領域と、各種NOSQLの位置づけがよくわかる。

最初にNOSQL(「Not Only SQL」、従来型のリレーショナル・データベース「以外」のものとの意味)のオーバービュー、次にその中でいくつかの視点からの分類と定義を示し、そのマトリックスの中にNOSQLの代表的なものを位置づけていくというやり方で、さすがデータベース屋さんだけあって(?)、定義と分類がキレイにできて、体系的に積み上げられているので、とても理解しやすく、サクサク読める。後半はかなり専門用語が連打されるが、ちゃんとついていけてるので自分でもビックリした。

専門家でない方が、ビッグデータ関連の文献を読んだり、カンファレンスでの議論を理解したり、エンジニアの話を理解して評価するなどの場面に、とてもよい体系的な参考書である。

周波数の需給関係と相場の感覚

今日はクソ真面目なエントリーなので頭痛にご注意。

私は、これまでもいろいろな場面で、通信における需要と供給の関係というのを分析の引き合いに出している。まぁ、あまりおもしろくない話なのでブログにはあまり書かないけれど、本業のほうでは、現状の分析やこの先どうなるかを考えるときに、需給関係がどうなるか、というのが大きな時代の流れの底辺にあることをいつも念頭におく。

固定幹線網の需給関係の変化点が「5」のつく年に10年おきに起こる「景気10年循環説」は私が勝手に唱えている説で、ちゃんと学問的に立証した訳ではないが、1985年以来30年近くの間はだいたいこんな感じで合ってると思う。通信の設備寿命がほぼ10年なので、それほど無茶ではないと思っている。この循環に沿って、通信の料金は上がったり下がったりする。認可料金で硬直的なエンドユーザー向け料金と異なり、ホールセールの料金は自由に動くので、そこで需要と供給がバランスするように揺れ動き、それに応じて上のレイヤーのサービスが動いてきている。この動きを無視したタイミングや、需給変化の起こっていない部分で、無理やり競争導入をしようと思ってもうまくいかない。

無線に関してはこれほどキレイには循環していないけれど、やはり供給の爆発と需要の爆発のトレンドがある。供給爆発が起こる要因は「技術革新」と「周波数帯域の放出」のふたつで、例えばアナログからデジタルになれば、設備投資単位当たりの回線数が増えて供給が急増する。周波数については、使いやすいものと使いづらいものがあり、単純に量で測れないので難しいが、それでも需給関係に影響を与える。

米国では周波数のオークション価格と、周波数を持っている企業を買収する価格が、需給を反映してバランスをとる。最初のオークションの前は煽られて相場感が上がったが、大量の周波数が放出されるとだぶつき感が出るので、その後暴落する。Nextwaveだけでなく、このPCS Cブロックオークションに参加したベンチャーは、みなこの大波に飲まれてほとんどが溺れてしまった。欧州の3Gもしかり。米国ではすでにこのフェーズでものすごく痛い目にあっているので、最近では実際の需給以上にオークション相場が釣り上がることはない。因みに、暴落した後は、安くなった帯域をじゃぶじゃぶ使うように、新しい料金プランやサービスが出て、みんながどんどん使うようになり、需要が増えて均衡に達する。

ここしばらくは、3G携帯はほぼ需給が釣り合って平衡状態だったところに、iPhoneによるデータ通信需要急増でバランスが崩れた。需給がタイトになって周波数相場が釣り上がっているのが昨今。会社のオペレーションがクソでも、周波数を持っていればおっけ、ということでAT&T-Tmobileがくっつきそうになったがそれがダメになった。その余波が、このAT&TによるNextwaveの買収。詳細は下記記事を参照。ご存知の方も多いだろうが、Nextwaveは、私が15年以上前に勤めていた古巣でもある。

AT&Tがついにネクストウェーブを買収 ~"電波利権の亡者"がたどった数奇な運命(小池 良次) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

例えば不動産バブルで都内の地価が高くなりすぎると、周辺の二等地・三等地まで余波が行くのと同じで、まぁなんと、2.3GHzなんて使いづらい場末の荒地まで買い手がつくようになってしまった・・と、私などは周波数相場の乱高下に伴う諸々の思い出に、感慨深くなってしまう。Nextwaveというのは、「オークション」という市場原理を初めて導入した米国の壮大な実験が生み出した、ゴジラみたいな会社だったのかなぁ、とも思う。また、もしかしたら、ユーザーに対する重大な責任を負った既存キャリアにはできない、捨て身の需給調節の役割を果たす存在に(自らの意思とは関係なく)なったとも言えるかもしれない。(私がいた頃は、本気で設備建設の準備してて、バックエンドの構築も営業もしてたんです、ホントっす。)

日本の周波数オークションの話は、そろそろみんな喉元過ぎて忘れてしまったようだが、蒸し返すと、周波数の需要と供給は「相場」のうねりが必ずあり、一本調子には行かないので、そこを自然に調節するためには、二次取引は必ず認めないといけないし、またオークションへの参加資格はある程度ゆるくして、出たり入ったりがかなり自由にできないといけないだろうなー、と思う。

いや、当たり前のことでしたね、ハイ。1995年からの長い長いサーカスが終わったもので、ちょっと感慨があっただけです。あ、でも、まだ買収がクローズするまでわかりませんな。AT&TとTmobileもその後ポシャりましたから。

オリンピックをTVEverywhereで見て思ったこと

アメリカでは、有料テレビ各社(ケーブル、衛星、電話会社系)が「TVEverywhere」と呼ばれる方式を熱心に推進している。アメリカの有料テレビ業界の動向については下記参照。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101126/217294/

ギョーカイ人としてその存在は知っていたが、私自身はあまりテレビを見ないので、そのありがたみがイマイチわかっていなかった。でも、今回オリンピックで、ようやくちゃんと使ってみた。

アメリカではNBCがオリンピックの権利を持っているので、傘下の8つのチャンネル(地上波+ケーブル専門チャンネル)を使ってたくさんの番組をテレビ放映している。

今回はこれに加えて、NBCウェブサイトでかなり多くのライブおよび録画ストリーミングが見られるが、無条件では見られないのがミソ。契約している有料テレビのアカウント情報を入力しないとダメ。これが、TVEverywhere。この場合はコンテンツ・プロバイダーであるNBCが、各有料テレビ屋さんからコンテンツ料金を受け取る仕組で、ストリーミングが見られる。(有料テレビアカウントがあれば無料で見られる。有料テレビは既存の月額料金の範囲で、顧客サービスという位置づけ。)

ウェブサイトでは、availableな番組が一覧になっていて、ライブも録画もいろいろ。クリックすると認証画面が出て、アカウント情報を入れると動画が流れる。これのおかげで、アーチェリー、カヌー、卓球などといった、普通なかなかテレビには出してくれない競技も見られるし、サッカーの日本対モロッコなどという、アメリカ人的にはまるで興味のない競技でもライブで流れる。これはありがたい。まさに、ネット配信の威力が発揮されるコンテンツ。

それで男子サッカーを見ていてふと思った。この試合には、アナウンサーも解説もついていない。種々の統計や情報も出てこない。画面左上にスコアと経過時間がずっと表示され、選手交代のときに誰と誰が入れ替わるかが出てくるぐらい。一応、画面は普通のテレビ放映と同じように切り替わりながら見せるし、会場の音声は流れているし、ゴールの後はスローでリプレイするが、相当に「プレーン・バニラ」な中継である。最初は違和感があったが、これはこれでよいかも、と思ったのだ。

アメリカのスポーツ番組は、解説や情報こそが面白いと思っていたのだが、フットボールのように解説がないと何が起こっているかすらわからない番組はともかく、サッカーは見てりゃわかる。昨日の女子サッカーは、解説者がアメリカのプロ女子サッカーの選手だった人で、日本選手でもアメリカのプロリーグでプレイしていた人のことは自分の経験として話をするので、これはこれで面白かったが。

だいたい、アメリカのテレビのオリンピック番組は、選手のお涙頂戴ストーリーをドキュメンタリーにして作って流すのが大好きだが、これ超ウザい。その時間、肝心の試合やアメリカ以外の選手みせろや。とイライラするのが常だったので、それよりプレーン・バニラのネットキャストのほうがいい。

なにしろ、あまりにチャンネルも多いし、どの時間に何をやっているか調べて録画するなどという面倒なことを、私ができるわけない。ずーっと録画していたら他のものが見られない。その上、お涙頂戴。そのおかげで、すっかりオリンピックを見なくなってもう何年にもなる(いつからかすらよく覚えていない・・とにかく北京は一かけらも見なかった・・)が、今回はなんとか、見ようと思えばいつでも見られるようになったので、少しは見る気力がおきた。

まぁ、私のような視聴者はテレビとしてはあまりありがたくない視聴者なので、来て欲しくないのかもしれないけれど、ケーブルには毎月すごい料金払ってるんだから、これぐらいやってくれてもよいわな。