ギーク美男美女化の理由

マリッサ・メイヤーの記事を日経ビジネスオンラインに書いた。日本時間で金曜日にアップ予定。

マリッサはゴージャス系なギークで、ステレオタイプギークとはだいぶ違う。「お金持ち」というファクターを除いたとしても、彼女のような華やかなタイプのギークが、男女ともに最近この界隈で増えてきたように思う。

ギークのイケメン化現象」は2006年頃にここに書いたが、どうも今回はまたちょっと違うかんじ。

友人たちとの酒飲み話の中で出た結論は、「スタートアップの中心地がサンフランシスコに移動したから」。シリコンバレーの中心勢力が、昔のサンノゼ付近から年々北上し、現在はサンフランシスコのジャイアンツ・スタジアムを中心とする地域になっているのは皆様ご存知のとおり。で、かつてのシリコンバレーは、鹿と狸が徘徊する田舎で、庵を結んでひたすらコードを書く桃源郷の住人が中心だったが(そして今でもその地区にはそういう勢力もいるのだが)、最近のネットやモバイルでは、ユーザーインターフェースのデザイン感覚は大変重要で、都会のアート感覚をもつ、ナウなヤングがやらないとダメなのだ。(だーかーら、ナウなヤングって現代語ではなんといえばいいのでしょう??)

しかも、サンフランシスコで最高のアート感覚を持つ人々といえば、言わずと知れたゲイの皆さん。彼らの最近のウェブ・モバイル製品への貢献度は高い。

かくして、都会のファッショナブルな人々(ゲイもそうでない人も)がギーク世界に増殖し、そういう人々の母数が増えると美男美女も増える、というわけだ。*1

マリッサのゴージャス写真を含む英語ブログ記事はこちら参照のこと。

*1:ちなみに、マリッサ・メイヤーも、勤務先は南方面のグーグルからさらに南のヤフーだが、住んでいるのはサンフランシスコ市内。いわゆる「サンフランシスコの社交界」の華であります。

ガラスマの「囚人のジレンマ」はもうやめたら?

日本とアメリカの両方で、スマートフォン向けアプリを提供している開発者から聞いた話。とある日本だけで使われているAndroid端末(=ガラスマ)でその会社のアプリを使っているユーザーから、動かないとのクレームがあり調べてみたところ、Android OSのメーカー独自部分に重大な欠陥があることがわかったそうな。

「だいたい、日本の携帯端末って、ものすごい機種数があるから、カタログがものすごく立派で分厚い。あんだけたくさんの端末をそれぞれのメーカーが出して、ちゃんとあとのサポートができるはずがない。不具合直す気がぜんぜんないんだから。端末もカタログも、どんどんゴミ作ってるのと同じ。」

ごもっともである。確かにAndroidという同じOSを使っているが、それでも機種ごとに微妙に異なる。iOS vs. Androidという宿命の対決の中で、Androidの「細分化」というのは特に開発者にとっては大問題。先日Tweetしたように、もともとiOSのほうが何かと開発者フレンドリーなのに加えて、Android側は端末機種の細分化問題も抱える。

さて、米国の携帯キャリアはネットワークの更新など戦略的な時期に合わせ、数年に一度全力を出して端末攻勢をかけるが、それ以外の時は割に力を抜いている。少し前にAT&TiPhoneを出したのは3Gの全国展開がほぼ終わり、ようやく全体を2Gから3Gにひっくり返せる用意が整った時点だった。ベライゾンiPhone対抗のためのAndroid導入時に、Blackberryを捨ててAndroidを強力にプッシュして初速をつけ、そこからBBの凋落とAndroidの躍進が始まった。各キャリアは、数がまとまるように機種をあまりやたらに増やさにように気をつけている。

それに比べて、日本のキャリアはいつも力いっぱい。毎四半期ごとに、大量の新モデルを並べる。ただでさえ、販売量の少ない日本のメーカーが、四半期ごとにさらに細分化されて、一モデルの生産量は極小。

メーカーが儲からないだけではない。最近、日本のラインアップを詳しく見ているわけではないので(つーか追ってもあまり意味ないのでやってない)、スマホに関してはガラケーほどどんどんモデル切り替えしているわけではないのかもしれないが、それにしても上記のような状態。ただでさえ細分化問題を抱えるAndroid市場を、極小日本メーカーとキャリアがそれぞれの思惑の順列組み合わせでズタズタにしてしまっている。アプリ開発者はつきあっていられない。ますます、iPhoneが有利になる。Androidガラスマは自滅の道に突き進む。結局、日本のメーカーさんは必死になって、みんなでiPhoneのために我が身を捧げているという構図。だからiPhoneを持たない某社が苦戦する。自分の首を絞めてどうする。

四半期ごとに大量の機種を出すという、10年前にうまくいっていた習慣ながら、メーカーもキャリアもホントはそろそろやめたいのに、みんなで一緒にやめないと、結局抜け駆けしたヤツだけが勝ってしまうという、「囚人のジレンマ」になっているのではないかと思う。

もういい加減、やめたら?無駄に捨てられる資源ももったいない。いつものようにお役所が旗ふらないとなかなかやまらないのかもしれない。それも情けない。「地球環境に配慮して」とかなんとか、麗しい口実でもくっつけて、みんなでいっせーのせっでやめてくれないか、と思う。

まぁ、もうスマホで日本メーカーが今後なんとかなる見込みはどっちにしてもないのだけれど、開発者のためでもユーザーのためでもある。それに、そろそろどこかのメーカーを軸に、買収合併でメーカー数をが〜っと減らしておかないと、やがて来る次なる世界的な「たまに全力出す時期」の波にまた乗り遅れちゃうよ・・総員共倒れ討ち死に状態から抜け出せないよ・・・

<追記>
多くのRTをいただきありがとうございました。いただいた反響より、下記を追記しておきます。
(1)品質問題は特定のメーカーの問題、品質維持に努力しているメーカーさんも多い、とのご指摘ありました。
(2)現在は四半期ではなく半期ごと程度に緩和されています。
(3)メーカーによっては、すべての発売タイミングに新製品を出さず、さらにペースを落としているそうです。
(4)ただ、Androidの細分化を促進してしまっているという点は引き続き変わっておらず、また私がここで問題にしているのは「新しく出す製品の品質」ではなく「ソフトウェアのメンテナンス、開発者のサポート」という「出した後」の対応です。おそらくそういう観点から、開発者からは「共感」のツイートを多くいただきました。

日経ビジネスオンラインとKDDI R&Aに記事掲載

もう7月ですね。日経ビジネスオンラインに「ほぼ月例コラム」が掲載されました。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120625/233759/?mlp

それと、KDDI R&Aに寄稿したレポートもちょうど掲載されましたので、こちらもどうぞ。
「米国のパーソナル・コミュニケーションの今」

 息子に学ぶ米国史:南北戦争で北が勝ったワケ

老いては子に従え、ということで、米国史を「自国の歴史」として学んでいる息子たちから、ときどき目からウロコの話が聞けて面白い。

飯を食いながら、小学生のほうに「電報とは何か」ということを説明していたら、高校生のほうが、「そうそう、南北戦争北軍が勝ったのは電報のおかげなんだよ」と口をはさんできた。

南北戦争というと、「奴隷解放」の美談になってしまいがちだが、実のところ「近代工業経済」vs.「旧型農業経済」の間の軋轢であったことは皆様ご存知のとおり。で、工業経済だった北軍は、その力を駆使して「鉄道」と「電報」のインフラをがんがん敷設したのに対し、南は鉄道も電報回線(当時、電報はまだケーブルで送信していて、無線電報はなかった)も少なく、あっても北軍のスパイがケーブルをスプライスして盗聴しており、情報はダダ漏れだったのだそうだ。鉄道の人員・物資の輸送力については説明の必要もないだろう。南軍は自分で全部、銃や食糧を背負って移動していたのに対し、北軍は鉄道で武器や食糧を動かし、人は身軽に動けた。

前にも書いたように、日露戦争のとき日本軍は、その数年前に発明された無線電信をすでに取り入れていたようだ。(「坂の上の雲」の描写が正しければ、という前提で。)

私「そのちょっと前の日清戦争で日本が中国に勝ったのも、きっと日本のほうがテクノロジーが進んでいたから、なんだろうね」
息子「ウン、そうだよ。日本はアジア諸国の中で当時唯一、積極的に欧米のテクノロジーを取り入れたけれど、中国は内部抗争に明け暮れて、そういうことをしていなかった。日本はその前にすでに内部抗争に決着をつけてあった。それが、今日本が先進国になったきっかけだと学校(中学)でも習った。」

よく知ってるじゃねーか。いつの時代も、見えないところで「情報」が勝負を決するのだ。

自閉症の方のためのアプリ、Voice4Uにご協力を!

以前から時々このブログでご紹介している、自閉症など会話の不自由な方のための絵カード型アプリ「Voice4U」の中の人達が、現在、中小企業支援プログラムに応募中です。


https://www.missionsmallbusiness.com

このプログラムは、ChaseとLivingSocialが主催、米国で創業2年以上の中小企業に対し、支援金を出すというものです。Voice4Uは、すでにiPhoneAndroid向けにアプリを提供しており、このアプリでは、従来のような最初から提供されている絵のセットだけでなく、ユーザー自身や周囲の人が、好きなものの写真を撮って音声を録音することで、カスタマイズすることができるのが特徴です。このカスタマイズ・カードをバックアップするシステムを現在構築中で、そのための資金としてこの支援金に応募しています。

第一歩として、一次審査を通過するために、まず250以上の投票が必要です。現在、あと少しで到達しそうなところまで来ていますので、是非、投票にご協力をお願いいたします。

(1) https://www.missionsmallbusiness.com/ へアクセス
(2) 画面右下の "LOG IN & SUPPORT" をクリックし、Facebookアカウントでログインします。
(3) "business name" に Voice4u と入力して “SEARCH” をクリックします。
(4) "VOTE" をクリックしてください。

なお、私は中の人たちの友人であり、自分としても発達障害に関わりがあるため、会社創設以前からずっとサポートしてきています。このアプリは、昨年の日経BP主催のAndroidアプリ大賞を受賞しています。

Voice4uがAndroid Application Award大賞を受賞した折のビデオ | Voice4u VOCA アプリ

シリコンバレーの日本人起業家たちが作り、世界で利用されているこのアプリを、是非ご支援ください!

<追記 22:30>
さきほどブログにてお願いしたばかりですが、なんともう250を超えたそうです!皆様、本当にご協力ありがとうございました!!

環境vs.開発 「日本人の知らない環境問題」

日本人の知らない環境問題 (SB新書)

日本人の知らない環境問題 (SB新書)

著者大賀敏子さんは、私の大学時代の友人。もう長いこと会っていないのだが、最近同級生女子会メンバーの間でメーリングリストがまわるようになったおかげでe-再会。この本が出たときに紹介された。

大賀さんは環境庁(今は省)出身で、現在、UNEP(国連環境計画)のケニア・ナイロビにある本部で働いている。世界における「環境問題」の現実・意義・課題・取り組みなどが、「中の人」の立場から生々しく紹介されている。

ちょうど今月20日から、ブラジルのリオデジャネイロで「リオ+20(国連持続可能な開発会議)」が開催されるが、この会議のことを理解するのにも役立つだろう。

環境保護」は、貧困から脱出するための「開発」とは対立すると思われそうだが、実はそうではなく、「環境問題」はすなわち「貧困問題」である、というのが世界の場では常識となっているそうだ。その意味が、アフリカでの実際の生活の様子を通して描写される。

短期的に、また狭い範囲に関しては対立するのだろうが、長期的・広範囲に見れば確かにそうだ。しかし、過去の歴史をひきずり、長期的にわたり、国境を超えた影響が複雑にからみあう問題を、一気に解決できる方法はない。

国連の会議といえば、よくも悪くも世界規模の「政治」であり、種々のかけひきの経緯もわかりづらく、「まどろっこしい」などと批判するのは容易だが、その中の人である大賀さんの「武力を伴わずに国際合意をとりつけるには、会議は今の国際社会が使えるたった一つの方法だ」という信念が心に残る。どんなにまどろっこしくても、何十年もかかっても、淡々と仕事を続ける当事者の方々の努力に頭が下がる。

それは、本の中で紹介されているケニアノーベル平和賞受賞者の「普通のおばさん」、ワンガリ・マータイさんの言う、「火事になった森に、小鳥がくちばしで水を湖から運ぶ」ようなものかもしれない。でも、それを続けていくしかない、というのが現実なんだろう、と思う。

それから、国連や世界の舞台ではなかなか目立たない日本だが、武力を伴わない枠組みである環境問題に関しては、日本が長年にわたって力を発揮しているということも、正直言って意外な発見だった。

地味で難しいトピックだが、日々の節電努力の意義が世界の中でどういう意味を持つのか、そんな壮大なことに思いをはせられる本である。