周波数の需給関係と相場の感覚

今日はクソ真面目なエントリーなので頭痛にご注意。

私は、これまでもいろいろな場面で、通信における需要と供給の関係というのを分析の引き合いに出している。まぁ、あまりおもしろくない話なのでブログにはあまり書かないけれど、本業のほうでは、現状の分析やこの先どうなるかを考えるときに、需給関係がどうなるか、というのが大きな時代の流れの底辺にあることをいつも念頭におく。

固定幹線網の需給関係の変化点が「5」のつく年に10年おきに起こる「景気10年循環説」は私が勝手に唱えている説で、ちゃんと学問的に立証した訳ではないが、1985年以来30年近くの間はだいたいこんな感じで合ってると思う。通信の設備寿命がほぼ10年なので、それほど無茶ではないと思っている。この循環に沿って、通信の料金は上がったり下がったりする。認可料金で硬直的なエンドユーザー向け料金と異なり、ホールセールの料金は自由に動くので、そこで需要と供給がバランスするように揺れ動き、それに応じて上のレイヤーのサービスが動いてきている。この動きを無視したタイミングや、需給変化の起こっていない部分で、無理やり競争導入をしようと思ってもうまくいかない。

無線に関してはこれほどキレイには循環していないけれど、やはり供給の爆発と需要の爆発のトレンドがある。供給爆発が起こる要因は「技術革新」と「周波数帯域の放出」のふたつで、例えばアナログからデジタルになれば、設備投資単位当たりの回線数が増えて供給が急増する。周波数については、使いやすいものと使いづらいものがあり、単純に量で測れないので難しいが、それでも需給関係に影響を与える。

米国では周波数のオークション価格と、周波数を持っている企業を買収する価格が、需給を反映してバランスをとる。最初のオークションの前は煽られて相場感が上がったが、大量の周波数が放出されるとだぶつき感が出るので、その後暴落する。Nextwaveだけでなく、このPCS Cブロックオークションに参加したベンチャーは、みなこの大波に飲まれてほとんどが溺れてしまった。欧州の3Gもしかり。米国ではすでにこのフェーズでものすごく痛い目にあっているので、最近では実際の需給以上にオークション相場が釣り上がることはない。因みに、暴落した後は、安くなった帯域をじゃぶじゃぶ使うように、新しい料金プランやサービスが出て、みんながどんどん使うようになり、需要が増えて均衡に達する。

ここしばらくは、3G携帯はほぼ需給が釣り合って平衡状態だったところに、iPhoneによるデータ通信需要急増でバランスが崩れた。需給がタイトになって周波数相場が釣り上がっているのが昨今。会社のオペレーションがクソでも、周波数を持っていればおっけ、ということでAT&T-Tmobileがくっつきそうになったがそれがダメになった。その余波が、このAT&TによるNextwaveの買収。詳細は下記記事を参照。ご存知の方も多いだろうが、Nextwaveは、私が15年以上前に勤めていた古巣でもある。

AT&Tがついにネクストウェーブを買収 ~"電波利権の亡者"がたどった数奇な運命(小池 良次) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)

例えば不動産バブルで都内の地価が高くなりすぎると、周辺の二等地・三等地まで余波が行くのと同じで、まぁなんと、2.3GHzなんて使いづらい場末の荒地まで買い手がつくようになってしまった・・と、私などは周波数相場の乱高下に伴う諸々の思い出に、感慨深くなってしまう。Nextwaveというのは、「オークション」という市場原理を初めて導入した米国の壮大な実験が生み出した、ゴジラみたいな会社だったのかなぁ、とも思う。また、もしかしたら、ユーザーに対する重大な責任を負った既存キャリアにはできない、捨て身の需給調節の役割を果たす存在に(自らの意思とは関係なく)なったとも言えるかもしれない。(私がいた頃は、本気で設備建設の準備してて、バックエンドの構築も営業もしてたんです、ホントっす。)

日本の周波数オークションの話は、そろそろみんな喉元過ぎて忘れてしまったようだが、蒸し返すと、周波数の需要と供給は「相場」のうねりが必ずあり、一本調子には行かないので、そこを自然に調節するためには、二次取引は必ず認めないといけないし、またオークションへの参加資格はある程度ゆるくして、出たり入ったりがかなり自由にできないといけないだろうなー、と思う。

いや、当たり前のことでしたね、ハイ。1995年からの長い長いサーカスが終わったもので、ちょっと感慨があっただけです。あ、でも、まだ買収がクローズするまでわかりませんな。AT&TとTmobileもその後ポシャりましたから。