オーディオブックが効いた! - 学習障害と英語の勉強への参考

しばらくアップデートしていなかったが、8歳の我が家の次男坊Tは、引き続き学校で困難を抱えている。何がどう、というのがはっきりピンポイントできない「困難」なのだけれど、2歳の保育園のときから、ずーっと担任の先生の手に余っている。とにかく、団体行動に参加しない、課題を出されてもやらない、呼びかけても答えない、集中しない、ガタガタする、床に寝てしまう、机の下や部屋の隅に隠れてしまう、突然怒り出す・・・ADHDというのとも違うし、アスペルガーもちょっと疑っているけれど、それも違うかもしれない。

上の子Sの「困難」も、いろいろ試行錯誤の挙句、「ビジョン・セラピー」のおかげで基本的なところを克服できた。(詳細は「視覚発達障害」カテゴリー参照)それで、弟のTもビジョン・セラピーをやったが、あまり劇的な回復は見られなかった。音にやたら敏感で、聴覚処理の問題もあると指摘され、その一部である「ハイパーアキューシズ」のセラピーも受けて、音の過敏はだいぶ改善して、生活に支障が出るほどではなくなった。(「聴覚発達障害」カテゴリー参照)しかし、根本的な一連の「問題行動」は全く治らなかった。

今は、学校のセラピストの先生から「Sensory Processing Disorder」に関する本を薦められて読んでいる。これは外部からはいってくる「知覚の刺激」を処理する種々の機能の障害で、上記の「聴覚」もその一つに含まれる。Tを見ていると、例えば言われたことを音として受け取っているけれど、それの「意味」を理解し、さらにそれを「では自分はそれを受けてどうするか」という考えにつなげる、いくつかの思考のステップをつなぐ「回路」が詰まっているような感じがする。私でも、ひどく疲れているときなど、自分に対して言われたことがすーっと頭にはいってこなかったり、意味はわかっても、ではそれで自分はどうするか、という判断をする気力がなくてイヤになるときがある。あんな感じなのでは、と思ったりしている。この点については、まだ研究中である。

行動全体についてはそういうわけでまだ考え中だが、「読む」ことについて、一つブレークスルーがあった。

彼の場合、まずはアルファベットと音をつなげる(フォニックス)ことがなかなかできず、次にアルファベットのまとまりをぱっと見て単語と認識し、意味をとることが苦手だった。面倒だから、最初の2文字ぐらいで「あてずっぽう」してしまう。視覚と聴覚のセラピーに加え、学校では専門のセラピストの先生が、アルファベットと音のつながりの訓練を繰り返しやってくれた。*1

そのおかげで、夏休み前には、「学年相当」の単語については、だいたい読めるようになってきた。しかし、今度はその単語をつなげ、文にして頭に入れ、ストーリーを追うという、次の階段がまた険しかった。「拾い読み」状態なのだ。私は非ネイティブなので、英語はいったん頭の中で音にして読んでいる感じだが、それだとやはり読むのが遅い。同じようにTの場合も、まず「音」にするのに苦労して、次にその「意味」を理解し、「前後の関連で意味をとる」「それを長くつなげて意味のあるストーリーを頭の中で構築する」と積み上げることが、とても労力がいる。お話が面白く感じられるほどノッてくる前に、疲れ果ててしまう。

夏休みに読む練習をしようとしたが、時間と労力がかかるので、最初からやる気がおきない。本は挿絵しか見ない。仕方ないので、文章が少なく簡単な本を読ませようとするが、今度はその内容がつまらないので、またやる気がおきない。Sも、この段階で同じ悪循環にはいって、抜け出すのに少々時間がかかった。

夏休みも最後の1週間となったある日、そういえば、と思い出して、「オーディオブック」を買ってみた。本を朗読して録音したもので、「ブック・オン・テープ」などとも呼ばれる。以前、Sの対策会議で薦められたことがあったが、オーディオブックになっているようなまとまった本はTにはまだ無理、と思って忘れていたのだ。いつも愛聴しているポッドキャストで、スポンサーであるaudibleが「最初の2本はお試し無料!」というのを聞いて、それでは、と試してみる気にふとなったのだ。

本当ならTに適切と思われるレベルの本が我が家にいくつかあったが、そのうち子供の本として定番の「マジック・ツリー・ハウス」シリーズのオーディオがちょうどあったので、ダウンロードしてみた。Kindleに移し*2、ヘッドセットで音を聞きながら、紙の本を見られるようにした。

そうすると、「音」にするステップを自分でしなくてよいので、だいぶラクになる。目と耳がふさがれて一つのお話に集中できる。私が読み聞かせすると、ヘッドセットほど没入できない上、やはり英語はそれほどうまくないが、オーディオブックならプロの読み手で、表現も上手である。ところどころ、バックミュージックもはいり、飽きない。

最初は「えー、いやだ、こんなの読みたくない」といっていたが、やりだしたら没入した。オーディオで40分ほどの本だが、一気に最後までいった。これをもし、本だけで読ませようとしたら、一回に3−4ページがようやくなので、読了までに2週間かかるだろうな、と思っていたのが、いっぺんに終わった。

これで、彼は「本とは、面白いものである」「苦しいものじゃない」と「悟りを開いた」ような気がする。その日から、私が強制しなくても、毎日毎日、本とオーディオブックで「マジック・ツリー・ハウス」シリーズを読むようになった。幸い、このシリーズは30巻以上ある。勢いがついてきたので、本もオーディオもどんどん買って、どんどんやらせた。(なんせ、アメリカの子供用ペーパーバックは、この手の定番モノなら3ドルとか4ドルとかで買える。オーディオも似たようなもの。)

今週になって、「今度は別のを読む」といって、「キャプテン・アンダーパンツ」を今度はオーディオなしで読み始めた。少し時間はかかるが、それでも2日で読破した。軽いお笑い本だが、オーディオお試し前の彼のペースから考えると、驚くべき速度だった。しかも、読んでいるときの集中の仕方はハンパじゃない。本が面白く感じられるときというのは、脳から何かの物質が分泌されて、一種中毒になったような感じがするが、それが起こったのじゃないかと思う。

今まで、Tについては、何を試しても「劇的な効果」というのがなかったのだが、オーディオブックで初めて「劇的な効果」があった。何よりも、今まで「苦痛」でしかなかった読書が楽しくなった、Tの人生に新しい楽しみが一つ増えた、ということがものすごく嬉しい。なにかと避けて通れない「読書」だからこそ、楽しめるようになれば人生がひとつラクになる。

これで、頭の回路の詰まりが一つ、押し流されたのかな、そうならいいな、と思っている。

学習障害にはあまりにいろいろあって、一人一人違うので、すべての人に効果があるわけではないだろう。また日本ではアメリカほどオーディオブックが手軽に入手できないと思われる。でも、どこかで誰かの参考になるかもしれないので、記録しておくことにした。

それと、「英語の本+英語のオーディオブック」の組み合わせは、英語学習にいいのではないかと思うので、それもご参考に。

下記、1番目は本、2番目のものはCDにはいったオーディオブック。

Magic Tree House Volumes 1-4 Boxed Set (Magic Tree House (R))

Magic Tree House Volumes 1-4 Boxed Set (Magic Tree House (R))

The Adventures of Captain Underpants

The Adventures of Captain Underpants

*1:一般に、日本語と比べて、英語の読みの難しさはここにあるように思う。これができなくてつまずく子は多いらしく、そのための対策プログラムがたくさん用意されている。

*2:iPhoneでは他のことをやりだしてしまう