キレイゴトでないフェースブックの物語 - 「The Accidental Billionaires」

久々の書評。昨年出た本だが、休暇中にオーディオブックにて読んだ、というか聞いた。会話部分が多いので、オーディオブック鑑賞にはあっていると思う。とても面白かった!

これはフェースブック誕生の物語なのだが、フェースブックを礼賛するキレイゴトの成功譚ではない。フェースブック創業者であるMark Zackerbergを中心に、その周囲をめぐる人々の視点から見た、欲望・カネ・名誉をめぐる泥仕合を、事実をベースに描いている。映画化が決まっており、「The Social Network」という題名で、米国では今年秋頃に公開予定。私が知っている俳優としては、アメリカン・アイドル出身(?)のJustin Timberlakeが脇役で出る。

Sôsharu nettowâku (2010) - IMDb

Zackerbergという人は、あまりに「典型的」シリコンバレー的な偏った天才ギークである、と言われる。(私自身会ったことがあるわけではないのでこれは聞いた話。)本の中でも、いつもサンダルばきhoodie(日本語ではフード付きパーカー?)姿だが、確かに写真を見ると、コンファレンスの舞台上でもいつもサンダルで、どうやらトレードマークになっているようだ。人とのつきあいは苦手だが、昼夜を分かたずコードを書き続け、異常な集中力を発揮する、という「アスペルガー」的な性格のようで、最近もポッドキャスト上でJason Calacanisが「あいつは自分勝手で人の都合や感情を全く理解しない」とこきおろしているのを聞いた。

こういう人はシリコンバレーでは全く珍しくない。スティーブ・ジョブスなども似たようなところがある。むしろ、周囲がそういう人を持ち上げて成功させ、そのおこぼれにあずかるための仕組みがいろいろと整っており、こうした天才的ギークは大歓迎される。物語の後半では、シリコンバレーに移った後のZackerbergとそのおこぼれにあずかりたい人々の様子が描かれる。しかし、もともと彼は、ブレザー姿がデフォルトである、東海岸の伝統的大学、ハーバードでフェースブックを創業している。

物語は、彼にとっては場違いなハーバードでフェースブックを創業した経緯や、創業時期に関わった人々との葛藤から始まり、シリコンバレーの狂躁へと移り変わる。ギークとスーツ、アウトサイダーエスタブリッシュメント東海岸と西海岸の鮮やかな対比の中で、淡々とZackerbergが加速していく。

これを読むと、フェースブックが大学生活の中で発揮されるシンプルな「人間の欲」を非常にうまくすくいあげたサービスであることがよくわかる。他のSNSとはどう違うのか、フェースブックMySpaceのユーザーがなぜ「社会階層」ではっきり分かれたか、といった背景や、フェースブックの教師と反面教師の両方として下敷きになっている、ハーバード大学の「クラブ」文化と、それとはまた違ったシリコンバレーの「インナー・サークル」の様子もよくわかる。しかし何よりも、Zackerbergと周囲の人間ドラマが面白い。皆、それぞれに言い分があり、誰が悪者ともヒーローとも色分けされていない。

この話は「成功譚」ではない、と最初に書いた。つまり、「こうすれば成功できる」というノウハウ書ではない。誰もZackerbergの真似はできない。彼は「Accidental Billionaire」(偶然できあがった億万長者)だから。ただ、彼のようなアントレプレナーが、なぜ次々とシリコンバレーに誕生するかという仕組みのドロドロした部分というのが、この本からは垣間見える。