「sensory processing disorder」(感覚処理障害?)のお話
最近、我家の「学習障害/発達障害」関連のアップデートをしていなかったが、アフィリエートで売れる本などを見ていると、この問題に興味のある読者がけっこう多いと思われるので、最近の新しい進展について記録しておきたい。
我家の二人の息子はそれぞれに問題を抱えていたが、現在8年生(中学2年)の長男Sは数年前にビジョン・セラピーを行って劇的によくなり、今も整理整頓ができないとか、少々の「ディスグラフィア」的傾向があるとか、完全ではないが、一般的な「苦手」レベルにまで収まるようになっている。(ビジョン・セラピーについては、「視覚発達障害」のカテゴリーを参照のこと。「ディスグラフィア」はこちらのエントリー参照。)
おかげさまで、先月あった「IEP」*1ミーティングにおいて、「Sはもう個別支援の必要なし」とされ、対象から外された。(特別支援はお金がかかるので、「必要」な人にしか認められない。必要がなくなったらサッサと追い出される。)
さて、今度は4年生の次男Tである。一対一なら大丈夫なのに、大人数のクラスでは、全く言われた課題をこなせず、ガタガタしたりボーっとしたり、とにかくまるで機能しない。以前はもっとひどくて、部屋の隅や机の下に隠れて指をしゃぶって動かないとか、耳をふさいで床にごろごろ転がるとか、異常行動が多かった。これまた数年前に「ハイパーアキューシズ」(聴覚過敏)のセラピー(これについては「聴覚発達障害」のカテゴリー参照のこと。)を受けて、それほどひどい異常行動はなくなったが、それでも相変わらず教室で機能しない状態が続いている。IEPの特別支援や周囲の理解のおかげで、行動的にはほとんど問題なくなっているが、教室でまったく何も学べない状態のため、学年が上がって勉強内容のレベルが上がるにつれて成績はどんどん悪くなっている。
アスペルガーではないかと検査を受けたところ、ボーダーラインの「広汎性発達障害」と診断されたが、学校の特別支援の先生からは「sensory processing disorder(感覚処理障害、とでも訳すのだろうか、日本での正式名称は知らない、長いのでSPDと省略する)」ではないか、とかねてから言われており、その本も貸してもらって読んだ。当たるとも遠からず・・・という感じであったが、ではどう対策するか、という話になると、「accommodation(問題をなるべく小さくするために周囲が調整してあげること)」しかなく、この問題そのものを治す「セラピー」については、この本では言及されていなかった。
上記の「ハイパーアキューシズ」とは、特定の周波数に異常に敏感で、その周波数の音が体に不快感を与える現象(例えば黒板をクギでギーっとひっかく音を聞くと多くの人は不快に感じて「ぎゃぁ!」と耳をふさぐが、彼にとっては多くの人がざわざわと騒いでいる音などが同じような不快さで耳にはいってくる)。これに対して脳が自衛のために、外からはいってくる音の刺激を自発的にシャットアウトしてしまう。Tの場合も、ざわざわした教室では、脳が自衛のためにシャットダウンした状態になっている、と思われる。
SPDでは、聴覚だけでなく、触覚や嗅覚なども含めたあらゆる外界からの刺激に対して異常に敏感で、そのために受容した感覚を脳で処理する機能に問題が生じる。つまり、「ハイパーアキューシズ」はSPDの一部に含まれる。「異常に敏感」またはシャットダウン中の「異常に鈍感」という状態が両方ともあるとか、体を動かすことの快感が強いために「ガタガタする(英語でいうfidgety)」「やたらに踊る」とか、ADDと似た行動もある。(いろんな話があるので、もしこの疑いのあるお子さんをお持ちの場合、私のこの記事だけでなく、必ず他の文献も参考にしてください。英語ウィキペディアの記事はこちら。)
以前のハイパーアキューシズのセラピーを受けた先生でも、こうした脳の反応の問題について説明を受けたが、彼女のところはきちんとした設備もなく、SPDの検査を受けても、学校に「こういう対応をしてください」という手紙を書くしかできなかったので、そこまでやらなかった。ところが、地元の子育て無料情報誌の広告で、「SPD」の診断とセラピーをやっているクリニックが、以前は遠方にしかオフィスがなかったのだが、最近我家の近所にもオフィスを開設したことを知り、さっそく相談してみた。
検査では、いろいろな刺激下で、脳のどの部位がどれだけ反応しているかしていないか、ということを詳細に調べる。前回のハイパーアキューシズ検査と同じことも再度実施。その結果、まず「ハイパーアキューシズ」は完全には治っておらず、相変わらずいくつか特定の周波数帯に異常に敏感であること、特に左の耳では、雑音がある場合の聞き取り能力が極端に低下することがわかった。(前回のときのエントリーに「数年後に効果がなくなる」というケースのコメントをいただいたが、それがまさに起こっているということのようだ。)また、脳波に関しては、「アイドリング」状態の脳の活動が通常より大幅に低いことがわかった。自然に脳が起きる状態、つまり自分が好きなことをやっているときはいいのだが、好きでないことをやるのが大変困難で、「スリープモード」から起こすのに普通の子よりも大幅にエネルギーが必要になり、「ぼーっとして何も聞いていない状態」が普通の子よりも大幅に多い、ということになる。さらに、脳の部位ごとの検査では、「アスペルガー」の傾向が認められ、また感覚の処理を司る部分の活動も弱いことがわかった。
対策は、二つに分けられる。まず、ハイパーアキューシズは、前回やったものと原則的には同じことをやるが、今回はもっと細かくTに合わせた処方をし、期間は前回の「10日」ではなく「90日」にわたって行う。このため、毎回クリニックに連れてこなくてもいいように、Tに合わせて処方した音楽をCDに録音したものを、ヘッドホンで自宅で一日2回、30分ずつ聴く。2週間ごとに検査(オーディオグラム)を行い、それに合わせてまた新しい処方のCDが出される。最初の部分をちょっと聴いてみたところ、クラシック音楽だが、右左に音が行ったり来たりする。過敏な周波数もカットしてある。これは前回の経験もあり、ある程度の効果は前回もあったし、ある程度私も理解しているので、早速始めた。今回は、日にちは長くかかるが、音楽を聴いている間、会話さえしなければ、本を読んだり宿題をやったりしてもいい、ということで、生活ペースをそれほど変えなくてよい。
もう一つは、脳の活動状況の対策で、こちらはもっと時間も手間も費用も(泣)かかりそうで、まだ検討中。週3回クリニックに通い、コンピューターゲームのように仕立てたセラピーを行う。特定部位の脳を働かせるように処方されているそうだ。少なくとも、ここまでの診断結果を見ると、これで彼の問題にすべてぴったり合致しており、問題はまさにこれ、と思われるが、このセラピーが本当に効果があるのかどうか、もう少し事例を調べてみてから、決めようと思っている。学校の特別支援の先生に聞いてみたところ、「うーん、この分野はまだ確立されているとは言えなくて、議論があるらしいのよね・・」という返事だった。(これはハイパーアキューシズ・セラピーのときにも同じ返事であったが、私はそれでもいいや、ということでやってみた。)
この「sensory integration training」の説明はこちらのページを参照。事例、コメントなど、歓迎いたします。また、上記で学校の先生に勧められて読んだ本は下記です。
- 作者: Carol Kranowitz,Lucy Jane Miller
- 出版社/メーカー: TarcherPerigee
- 発売日: 2005/08/01
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (1件) を見る