視覚発達障害・ディスレクシア・学習障害(LD)・ADHDの区別と、特に「視覚」について

わが息子のビジョン・セラピーについて、何度か書いてきたが、「お子さんが読み書き障害と診断された」という方からコメントをいただいたので、少し繰り返しになるが、ここまでに自分でわかってきたことも含め、再度これらの障害について、経験的にまとめておくことにした。

読み書き障害として、ディスレクシアは日本でもだいぶ知られるようになってきたようだ。アメリカでは、ディスレクシアはすでに、ADHD注意欠陥多動性障害)と並んで、一般にも広く知られている。

ここに並べて書いた4つの発達障害は、混同されがちでもあり、また日本の文献とアメリカの定義が少し違っているような気もするので、学問的な話でなく、「とにかく、なんとか治らないのか、どう対処すればいいのか」という親の視点から、整理してみる。

1)ADHD:脳の分泌物質のバランス異常が原因と見られる行動異常。アメリカでは、単にがたがた落ち着かず集中できないだけのものをADD(Attention Deficit Disorder)、他人に対して攻撃的になったりクラスの中で破壊的行為をするような劇症のものをADHD(Attention Deficit Hyperactive Disorder)と呼び分けるようだ。これについては比較的診断ははっきりしており、また薬で症状を抑える(対症療法)ことができる、というのが大きな特徴。ADHDのほうになると、学校で他の子供にも悪影響が出るため、学校ではすぐに薬を飲ませたがるが、経験者の話を聞くと、最も一般的なリタリンは副作用が大きく、また長期的な子供への影響がまだ立証されていないため、なるべくだったら飲ませないほうがよい、と言われた。今は、リタリン以外にもいくつか薬があるようだ。しかし、いずれも対症療法で、根本的には治らないため、薬で症状を抑えながら、本人が成長して落ち着いていくのを待つ、ということになる。わが息子も、最初は学校でADDではないか、との可能性も指摘された。

2)ディスレクシア:字がゆがんだりくっついたりして見える、ことばの要素を分解して把握できない、字の形を記憶できない、などといった各種の症状があり、いずれも文字に関する脳の機能に問題があり、字を読んだり書いたりすることが極端に難しいという障害。全く読み書きができないのではないが、他の子供と比べて覚える速度が極端に遅い。原因は不明で、完全には治らない。アメリカでは症状や程度に応じた指導方法がかなり確立されており、また学校ではテストの問題や教科書をテープに吹き込んだものを使えるなどといった、いわば身体障害者にハンディをつけるのと同じような考え方で対処してくれるところが多い。なお、読むのはそれほど問題ないが、書くのが極端にダメな「ディスグラフィア」というのもあり、程度や症状の中身はいくつか種類がある。たまたま息子の話をしたアメリカ人の友人は、息子と共通の問題を自分はいくつも持っている、と驚いていたが、彼の場合は読むのはOKで書くのが全然ダメ、という典型的な「ディスグラフィア」のケースだったようだ。ちなみに、彼は現在は、ハーバードだったかMITだったかを卒業した、MBA持ちの優秀なエンジニアである。

3)学習障害(LD):LDというのは、ディスレクシアだけでなく、他の問題も含めたより広い概念のようだ。同じ読み書き障害でも、重症の場合はディスレクシア、軽症だとLDといわれたりする場合もあるようで、このあたりの正確な区別は私にもよくわからない。ウチの息子は、学校ではどの先生も「この子はディスレクシアではない」とはっきりと言い続けているにもかかわらず、ディスレクシアの子供の症例を読むと、あてはまるところが多い。だから、軽症LDかな、と当初は思った。

4)視覚発達障害:詳細は下記エントリーを参照。

読み書き障害と「目」-テレビばかり見てるとバカになるか? - Tech Mom from Silicon Valley
ビジョン・セラピーその後-行く手に光明が - Tech Mom from Silicon Valley
ビジョン・セラピー必要との診断が出た - Tech Mom from Silicon Valley

このケースでも、字の読み書きが嫌い、字がきたない、読むのが遅い、飛ばし読みや勝手読みをする、一つの行を読んでいる途中で次の行に行ってしまう、などといった、ディスレクシアと似た症状が出る。しかし、ディスレクシアではほとんど字がきちんと見えないのに比べ、それほどひどくはなく、見えているのだが、見るために普通の人よりも何倍も努力が必要、という違いがあるようだ。子供のストレスがたまり、自信をなくすので、ADDに似た症状が出ることもある。このほか、距離が正確に目測できないために、ボールを受け取ったり打ったりするのが苦手だったり、歩いていて物にぶつかることが多かったり、食べ物や飲み物をこぼしやすかったり、持ち物の整理整頓が悪いといった症状があることもあり、また乗り物に酔いやすい、というケースもある。読み書きにエネルギーを使うので、読んでいる途中で疲れてしまったり、ひどいときは寝てしまうということもあるらしい。読むときに片目をつぶる、体や首を傾ける、ということもある。視覚が原因の場合でも、遠近の調整に問題がある場合、右左のバランスに問題がある場合、トラッキング(字を目で追っていく作業)の動きに問題がある場合、などいろいろあり、複合していることもある。また、視覚単独でなく、耳で聞いたものを口で言う、目で見たものを手で書き写す、目で見たものを口で言う(朗読)といった、複数の機能の間の連携が悪い、という場合もある。日本語のディスレクシアの本(下記参照)では、視覚発達障害ディスレクシアの一部として扱っているが、アメリカでは全く別物として扱われている。ディスレクシアおよびLDと比べて、視覚の場合はビジョン・セラピーで「治る」というのが大きな特徴。

いずれも、併発しているケースもあるし、症状が似ていることもあり、区別はなかなか難しいが、経験からすると、何はともあれ、ディスレクシア的な症状が見られたら、とりあえず視覚発達障害の検査をしてみることをお勧めする。なんせ、これはこの中で唯一、「治る」のである。

私の読んだ下記の本に、大阪医大など、日本でいくつかビジョン・セラピーをやっているクリニックのことが出てきており、巻末に問合せ先もいくつか掲載されている。

このあと、具体的な経験談を書く予定です。