読み書き障害と「目」-テレビばかり見てるとバカになるか?

同じ問題を抱えたお子さんをお持ちの親御さんに、少しでもお役にたてばよいと思って書いてみる。

我が家の8歳の息子は、読み書きに問題を抱えている。学校でスクール・サイコロジストだのスピーチ・スペシャリストだのを交えたミーティングを何度もやって、対策を検討している最中である。英語のほうは、とにかく、読むのが遅い。でも、なんとか読めば、内容はきちんと理解するし、算数は問題ないので、頭が悪いのではなさそうだ。書くのはもっと苦手。ひどい字を書くし、スペルも覚えられない。本を読んだり、文章を書いたりするのをとにかく避ける。字をやたら大きく書いたり、曲がって書いたりする。日本語はもっとひどい。4歳からやらせているのに、いまだにひらがなすら完全でない。カタカナや漢字も、何度やっても覚えられない。英語も日本語も、本を読ませると、言葉や文字を飛ばしてしまう。アルファベットのbとdはごちゃまぜ、ひらがなの「つ」は右左逆に書く。それでも宿題をこなさなければいけないので無理にやらせると、キレて泣きわめく。親も子も、本当に苦痛である。

ディスレクシアではないか、と思って調べたり相談したりしたが、そうではないらしい。学校からはADHDの診断を受けろと勧められ、相談に行ったが、そこのビデオで見せられたようなADHDとは違うように思う。いわゆる、「学習障害」かもしれない。

ただ、学校のミーティングで一応、目の検査をしてみたら、と勧められた。しかし、「普通の目医者の視力検査じゃなくて、そういう専門家の検査」と言われたが、そこで言われた用語を使って小児科医に説明して紹介をもらおうとしてもラチがあかない。別の知り合いから、その人の孫が同じ症状で、目の検査をしてセラピーをやったら、きれいに問題がなくなった、と言われた。その人も、でも「そういう専門家」としか説明できない。いろいろなキーワードでググってみたあげく、ようやく「Vision Therapy」という用語をヒットした。どうも、これらしい。

文字を追って目を動かす筋肉の未発達や、左右の目をコーディネートする力の不足などから、文字を読むのが苦痛だったり、読んだものがきちんとプロセスされず理解できない、目と手のコーディネーションができず字を書けない、という症状を持った人があるという。その症状の記述に、我が息子はぴったりである。

近所にVision Therapyの専門医を見つけ出し、昨日行ってみた。普通の視力検査の他に、遠近の調整、文字を追うスピード、左右のコーディネーションなどの一次検査をした。いわく、通常の「視力」は全く問題ないのだが、近くのものを見るのに力がかかりすぎる傾向がある、遠近の切替がうまくできない、文字を追うスピードが遅い、という問題が指摘され、近くを見るためのメガネを処方され、そのほかの点は再検査となった。

もらったパンフレット類を読むと、こういうことらしい。文字を読む能力というのは、生まれつき備わっているものではなく、歩くことや話すことと同様、成長と共にだんだん発達していくものである。目をコーディネートする筋肉の発達がなんらかの理由で遅れると、文字を読むのが苦痛になり、読み書きをベースとした学校の勉強に障害が出る。どの教科でも、資料を読んだり問題を読んだりしなければ、始まらない。そうなると、自己評価が低くなり、いらいらしてキレたり、グレたり、あきらめて落ちこぼれたりする。最近は、こういう子供が増える傾向にある、と書いてある。

なぜ増えているか。それは、目の発達する時期に、テレビやコンピューターを見過ぎるからだ、とある。確かに、同じ距離にある2次元の小さい画面で、動くものをじーっと見ているだけだと、遠近の調節や自分の力で目を動かして文字を追うことができなくなる、というのは説得力がある。遠くを見たり、3次元の遊びをしたりする必要がある、ということなのだろう。

そう考えると、テレビやコンピューター(そして、また反論されそうだが、ゲームも含む)ばかり見ていると、「バカになる」という話、あるいは「ゲーム脳」の話は、そう言う意味で「間接的に」正しいのかもしれない。直接脳がおかしくなる訳ではないが、目の発達が阻害され、その結果「成績が悪くなる」場合がある、ということはありうるかもしれない。

もちろん、科学的にどの程度実証されているかは知らない。また、同じことをしていても近眼になる人とならない人がいるように、テレビを見なくてもなる人はなるのだろう。

問題は、この種の専門技術は日本よりも発達しているアメリカでさえ、vision therapyという言葉やこうした問題を知っている人が少ない、ということだ。かかりつけの小児科医もアテにならなかった。

だから、もし似たような問題を抱えて悩んでおられる親御さんがおられたら、それは「頭」の問題じゃなくて、「目」の問題である可能性もある、ということをお知らせしたい。

とにかく、来週の再検査の結果、vision therapyが必要、という診断が出て欲しい、と思っている。それなら、セラピーで治る。目を運動させて、筋肉をつけるのである。こんなにありがたいことはない。少なくとも、ここまでの情報収集活動は、私にとっては「目からウロコ」であった。