「目」のお次は「耳」の発達障害

これまで何度か、上の息子の「視覚発達障害による学習障害」についてここに書いてきた。完全に治ったわけでもないが、種々のセラピーのおかげでなんとか軌道にのってきたところで、今度は下の息子の番となった。

彼は今5歳、日本でいうと幼稚園の年長組である。我が家の学区では、年長組から公立小学校に併設されているので、アメリカの新学年である昨年9月から、お兄ちゃんであるSと同じ公立学校に通っている。この下の息子Tは、保育園で問題行動が多く、また言葉も遅くて3歳の頃「スピーチ・セラピー」にしばらく通っていた。上の子の学習障害に気づいたのが2年生のときで、そのために年長組から2年生にかけての3年間、彼は学校でとてもつらい思いをしてかわいそうだったので、下の子に問題があるならなるべく早くから対処しようと思い、幼稚園入園前から学区の学習障害対策のプログラムを申請し、種々のテストを受けさせたり、先生方と対策ミーティングをやってきた。読む能力のレベルも、年齢相応に達していないと言われ続けている。

能力テストの結果が出たということで、昨日対策チームのミーティングがあった。メンバーは、校長先生、担任の先生、それに学区のスピーチ・セラピスト(2人)、それに私と亭主である。結果はやはり思わしくない。主任セラピストの見立ては、「auditory processing problem」(日本語の用語があるのかどうか知らないが、「聴覚プロセス問題」、とでも言っておこうか)ということだった。

兄Sの場合、目で見たものの情報を脳で処理するプロセスになんらかの問題がある。このため、字を読むのが極端に遅く、見ている文字を書き写すとか、音読するなどが苦手で、字がきれいに書けず、右と左をひっくりかえしたりする、などの症状があり、そのためにフラストレーションがひどく、問題行動を起こした。弟Tでは、こういう問題はなく、字を習わせるとお兄ちゃんよりも覚えは早いしきれいに書ける。しかし、兄と同じように、字と音を結びつけるのがやや苦手である。また、自分に対して言われていることを聞いていなかったり、聞いていても覚えられなかったり、先生の話していることに長いこと集中することができなかったりする。保育園の問題行動であった、集団で何かやっているときに、仲間にはいらず隅のほうや物陰に隠れてしまう、という傾向は今でもある。耳をふさいで座り込んでいることもある。友達と一緒に遊ぶのも苦手である。明るくて誰にでも話しかけ、ぴょんぴょん跳ね回る元気な子なのに、学校では突然こういう行動に出る。テレビを見ているときに話しかけても全く気がつかない、という現象もある。

セラピストの先生によると、彼の場合は耳で聞いた情報を脳で処理するプロセスに問題を抱えているのだそうだ。なるほど、そう言われると、確かにそのとおりだ。

彼の行動に目立ったところはないか、ということで、上記のような「隠れてしまう」話などをしているときに、亭主が「そういえば彼は大きな音が嫌いだ」と気がついた。セラピストの先生いわく、それは聴覚問題のある子によくある症状で、特定の周波数や強さの音の特に敏感なのだそうだ。平気なタイプの音もあるのだが、例えば彼は映画が大嫌い。テレビ番組は平気なのに、同じ装置でDVDを見ることができない。映画で使われる「音」が、テレビよりもダイナミックレンジが広く、ずーんと低い音響があるが、これがどうもダメなようだ。それから、人がたくさんいてざわざわしているのもダメ。このため、集団を嫌って隠れてしまうのだ。こうした子供では、嫌いな種類の音を聞くと、体に痛みを感じるほどの生理的不快感があるのだそうだ。だから、そういうときは「何いってんのよ」とバカにせず、ちゃんと対応してあげなさい、と言われた。

亭主には、「あなたもそういえばそういう傾向あるよね。人ごみが嫌いだし。」といわれて、そうか、と思い当たった。別に聴覚障害の傾向はないのだが、例えば昔家にあったテレビの「ピー」という高周波音がダメで、テレビがついていてその音声すら聞こえないところにいても、この「ピー」が耳を圧迫して生理的に不快になったのを覚えている。私がテレビを嫌いになった原因の一つだ。しかし、家人にはこの音は聞こえないようで、どう説明してもわかってもらえなかった。きっと、Tが嫌いな音を聞くと、ああいう感じになるのだろうな、と納得がいった。

これから、彼はスピーチ・セラピーを学校で始めることになる。これはどちらかというと「対症療法」の範囲で、耳の問題そのものを治すものではない。Sの視覚は、原因となっている視覚能力を機能訓練で治すことができたが、今のところTの問題を根本的に治す手はまだわからない。これから、またいろいろと調べてみようと思う。

それにしても、我が家の学区など、小さな学区でそれほど金持ち学区でもないのに、こんなに経験も知識も豊富な専門の先生がいるというのは、本当に驚くべきことだと思った。兄弟ともどもお世話になり、本当にありがたいと思う。

例によって、日本ではこういった問題が知られていないかもしれないので、同じようなお子さんの問題をかかえた親御さんのための情報として、時々体験談を書いていこうと思っている。

なお、兄のほうで体験した「視覚発達障害」については、左欄のカテゴリーで「視覚発達障害」をクリックすると、関連エントリーがまとめて読めるので、ご参考に。