視覚発達障害とバイリンガル環境の間に関係はあるのか?

我が家の息子の視覚発達障害について、しばらく何も書かなかったが、それはほとんど変化がなかったからである。昨日は、当初予定の20週間の期限最後の日だった。テストの結果は正式には2週間後に医者とのミーティングで通知されるが、とりあえず10週間のセラピー期間延長をリコメンドされており、もうちょっとやらないといけないようである。

精神面ではこの数ヶ月で大きく好転した。いらいらしてキレることが少なくなったし、いったん勉強を始めれば、だいぶ長いこと集中が続くようになった。パパと賭けをするなどという即物的インセンティブがある場合に限られはするが、漢字のテストさえ、よい点を取れることもある。昨年・一昨年と、現地校で撮った写真では、無理に作り笑いしているような顔ばかりだったのが、今年は小さい頃のような、ナチュラルな笑顔に戻った。例え、学力面で大きな進歩がなかったとしても、この笑顔が戻っただけでも、よかったと私は思っている。

ただ、確かにまだ十分ではない。スペリングも相変わらず苦労しているし、字は相変わらず汚いし(その気になるときちんと書けないことはないのだが)、字の左右をまだ間違えるし、単語や行を飛ばして読むこともまだある。あと10週間やったところで、本当にこういうのが治るのだろうか。ビジョン・セラピーは、もともと苦手なことを練習してやらせるのだから、一見簡単に見える作業でも、子供にとってはたいへん神経を使う、疲労がたまる作業である。それを毎日叱咤激励してやらせる親のほうもストレスがたまる。時々、まだまだ長い先の道のりを思って、気が遠くなってしまうこともある。基本的なところはだいぶよくなったのだから、あとはビジョンセラピーのストレスを取り除き、普通のスペリングの練習とかリーディング・スペシャリストから出された課題とか、そういったものに時間とエネルギーを振り向けたほうがよいのでは・・・という疑問もふと頭をよぎる。でも、途中でやめてできるものもできなかったらそれも困る。やはり、医者を信頼して、当分続けることになる。

そんな不安の中、ときどきバイリンガル環境とこの障害は、何か関係あるのかなぁ、と漠然と考える。例えば、先日ビジョン・セラピストのテストで、該当する答えに丸をつける作業があった。それを子供がやったあと、セラピストが「やはり、どうも彼はまだダメだ。マルのつけかたが逆だ。」と言う。どういうことかと質問すると、「英語のアルファベットの動きはすべて反時計回りなのに、彼は時計回りにマルをつけている」という答え。「ん?時計回りがダメ?だって、私だってマルをつけるときは時計回り・・・」と考えて、ハッとした。日本語の文字の動きはすべて時計回りが原則だ。ひらがなの丸い部分もひねりの部分も、すべて時計回り。反対に、アルファベットはcでもsでもuでも、丸い部分は確かに反時計回りだ。

スイスでは、誰でも4ヶ国語ぐらい平気で話すではないか、と言われるだろうが、フランス語もドイツ語もイタリア語も、日本語と英語の違いに比べればたいした違いはない。同じアルファベットを使うし、文法もそれほど大きく違わない。しかし、日本語と英語は、いろいろな部分で頭の使い方が大きく違う。日本人とアメリカ人では虫の音を違う部分で聞く(どちらが右脳か左脳か忘れたが・・)とかいう話もあるし、言語をプロセスする脳の部分が、日本語と英語では違っても不思議ではない。日本語ではrとlがそもそもどちらも存在しないので、両方が脳の近いところでプロセスされてしまって混ざってしまうが、英語で育った人はこのふたつははるか離れたところに収容されていて、混乱することはない、という話もホントかウソか知らないが、聞いたことがある。手の自然な運動をつかさどる脳の部分と言語の部分がどこかで結びついているとしたら、ウチの息子のように、両方の言語の混在でこの結合が混乱をきたし、話すことも頭で考えることもできるのに、手で字に書くことができない、などということがありうるかもしれない、と思ってしまう。

日本人が英語にさらされるようになって、まだ日が浅い。スイス人は何世代にもわたって複数言語環境に住むことで、脳の構造がそれに慣れているのに対し、日本人の脳はまだバイリンガル脳になっていない、ということかもしれないな・・とふと想像する。

そういえば、下の息子もしばらく言語セラピー(こちらは、基本的に話すことの発達が遅かった)に行ったが、そのときに周囲のお母さんたちに聞いてみると、中国系や韓国系など、非アルファベット言語圏の家族では、子供(特に男の子)が同じような言語セラピーのお世話になるケースがとても多かった。いずれも、子供たちはアメリカで生まれ育っているにもかかわらず、なのである。そういえば、東洋系と言えば、アメリカでは理系専門だ。東洋系の子供といえば数学が得意というのがステレオタイプ。ウチも、英語がダメだから(第一言語は英語だし、聞くのも話すのもパーフェクトなのに)、せめて算数と理科でガンバレ、という状況だ。

また、駐在で日本からアメリカに来た家族の子供で、言語混乱で鬱のような状態になってしまったケースも知っている。どの年齢で、あるいはどういう素質でそうなるのかわからないが、ある程度の確率で問題が起こることは、海外在住日本人の間では知られている。

子供によっては全く問題のない子供もいる。何百分の一とかの確率で起こるのかもしれないし、もしかしたらバイリンガルとは全く関係ない、別の要因なのかもしれない。このあたりは、きちんと科学的に調べたものを見たことがないのでわからない。誰か、専門家が研究していないだろうか。

こちらのブログで、小学生に英語を教えるかどうかについて議論されているのを読んだ。

http://tottocobkhinata.cocolog-nifty.com/bizieizakkicho/2006/02/post_4bd8.html

日本で小さい頃から英語を勉強させるかどうか、ということについて、基本的には反対ではないし、だから苦労しながらも息子には日本語も今教えている。小さい頃から、異国の言語や文化に興味を持たせる教育、というのは絶対に必要と思う。でないと、パラダイス鎖国が拡大再生産される。で、学校で週に数時間英語をちょこっとやるぐらいなら、別にどうということはないと思う。でも、本当のバイリンガル環境になると、こうした問題があるかもしれないという認識、問題があった場合のケアというのも、ぼちぼち誰かが考えたほうがよいかもしれないと思う。

ただ・・・うーん、字が汚い、スペルがめちゃくちゃ、っていえばパパもそうだな・・単なる遺伝かなぁ?

(視覚発達障害についての説明は、以前に書いたエントリーを参照してください。左の欄にある「カテゴリー」→「視覚発達障害」をクリックすると過去の関連記事が見られます。)