「Wall-E」と「崖の上のポニョ」で考えたこと

あらかじめお断りしておくが、このタイトルは少々「釣り」。「ポニョ」については、公開直前に日本を離れてしまったので、見ていない。ブログに皆さんが書いているのを少しばかり読んだだけである。

ピクサーの新作、「Wall-E(ウォーリー)」のほうは、アメリカ公開前に日本に行ってしまったので、こちらに帰ってすぐ、子供たちと一緒に見てきた。ここにも書いたように、ピクサーの最近の作品は、CGアニメの芸術作品だと思っているので、なるべく劇場で見たいと思っている。ちなみに、日本公開は12月だそうである。

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ピクサーの映画は、「The Incredibles」あたりから急激に「芸術」っぽくなってきた、と思っている。特に、昨年の「Ratatouille(レミーのおいしいレストラン)」は、いかにも子供向け映画で定番の「アドベンチャー」「戦い」「ヒーロー」といった要素が何もなく、ただひたすら、おいしそうな料理の表現に精魂の限りを尽くすというギーク的なこだわりと、「他の人と違っていてもいいんだ、自分の好きな道を極めろ」「アントレプレナーシップでハッピーエンド」というシリコンバレー的なメッセージ、という組み合わせが面白く、ピクサーの過去の作品の中で私が一番好きなものだ。

それで、今回の「ウォーリー」は、ロボットのラブストーリーだということで期待が大きかった。なんといっても、主人公のウォーリーが、かわいくて面白くて、すごい。特に、レンズが重なった目の光の具合、その機械の目で表現される微妙な感情(特に、重大な場面で「彼は今、感情を失っている」というのがきっちり表現されているのがすごい)、アクチュエーターの音や動きなどに感心。ゴミだらけになった都市(サンフランシスコらしい・・・私はニューヨークかな、と思って見ていたが、息子はゴールデンゲート・ブリッジが見えたよ、と主張している)の感じは、ちょっと前に見た「I am Legend」を思わせるような究極の孤独なのだが、ウォーリーには「Legend」の主人公のような悲壮感がないのが良。人間も逃げ出し、仲間もみな壊れて動かなくなった地球で、毎日たった一人で、黙々とゴミを集めておなかのコンパクターで固めている。ある日宇宙からやってくる「イヴ」、イヴの故郷にいる種々のロボットたち(特に、お掃除ロボットが好き・・・ああいうのが欲しい!)もかわいい。

しかし・・・宇宙に逃げ出していった人間たちは、700年の間に無重力の中で骨が退化して赤ん坊のような体になっていて、完全に自動化された環境で、働くこともなく、動く椅子に座ったまま、画面に映し出される人と話をするだけ・・・というあたりから、現代文明への皮肉みたいなものが見えてくる。そして、大団円に向け、「エコ」的なメッセージが鼻につきだす・・・えーと、また「ハッピー・フィート」ですか?みたいな・・・

息子も同じことを感じたようだ。最近の「芸術」化したピクサーは、大人にも受ける要素をうまく盛り込んできたが、それはつまり、「もののけ姫」あたり以降の「宮崎アニメ」みたいに、「大作」「芸術」「アカデミー賞」「大人受け」「社会的メッセージ」といったものを意識する路線になってきたのかな・・・とふと思った。

Yahoo!Movieのユーザー評価を読んでも、低い評価をつけている人の批判するのはおおむね「エコのメッセージを押し付けられるのはイヤ」という点。(もうひとつの辛口評価は、特に最初の部分のペースが遅い、ということだが、私自身は「芸術を鑑賞」しているので、この点は全く悪いとは思わない。)

ただ、アンドリュー・スタントン監督のインタビュー(Hollywood Newswireのはせがわいずみさんによるもの、閲覧はメンバーオンリーです、ごめんなさい)によると、作っている人自身は全くそういうつもりはなく、「地球最後のロボット」というコンセプトから出発し、「それをどう表現するか」「ロボットと恋をどう結びつけるか」というふうにお話の要素を積み上げていっただけ、という、例によって、ギーク的こだわりのようだ。ただ、現代文明への皮肉、といった点はある程度意識していたようだが。

この構想をスタートしたのは10年以上前ということなので、今になってちょうど「エコ」が大流行になってしまったのは、そういう意味ではタイミングがよかったのか悪かったのか、微妙なところ。

一方で、「ポニョ」のほうは、宮崎駿が、このところの「大人向け」路線を修正して、本来の「子供向け」を意識して作られたもの、ということのようだ。それが成功しているのかどうかは、見ていないのでなんともいえないが、私の「ピクサーの宮崎アニメ化?」という最初の感想と逆方向なのが、ちょっと面白い、と思ったまで、ということで。

これから見る人は、私のような色眼鏡をつけず、かわいいウォーリーとイヴのラブストーリーと、ギーク的なロボットの映像表現と、「自分の足で立とう、自分の頭で考えよう」という、これまたシリコンバレー的なメッセージを面白がって見るほうが、楽しく見られると思う。