「MILK」と「イケメン市長」にみるサンフランシスコ市の政治風景

なんで突然、苦手な「政治」の話を前回書いたのかというと、ネット論壇が盛り上がっているのに便乗しようという下心に加え、このところ立て続けに「サンフランシスコ市の政治風景」2題に興味をひかれたからだ。

一つは、今年のアカデミー賞ショーン・ペンが男優賞をとった「Milk」をNetflixで見た件。米国初の「自分から公表したゲイ」の政治家、サンフランシスコ市スーパーバイザーだったハーベイ・ミルクの実話をもとにしている。最近、俳優の「演技の味」にちょっと中毒になっているのだが、この映画でのショーン・ペンもそのツボにはまりまくった、実に旨い(上手い、ではなく)演技。実際にいつも目にしている市庁舎やカストロなどのSFの街並みが出てくるし、一時70年代アメリカ現代史に興味を持って本を読んだりした私には、いろんな意味で面白い映画だった。

で、ゲイだったミルク氏は、ニューヨークからサンフランシスコにやってきて、カストロ街にカメラの店を開くのだが、地元でゲイの人々が、法律で守られているはずの人権を官憲に踏みにじられるために、自分が「官」の一部になることで、事態を改善しようとする。ヒッピー全盛時代のサンフランシスコで、ゲイ・コミュニティの熱狂的支持を得ながら彼がのしあがっていく過程はエキサイティングだ。*1見る価値ありの映画と思う。

「宗教保守」が根強いアメリカだからこそ、ゲイが「罪びと」とみなされて迫害される時代が長かったからこそ、今こうやってゲイ・ライツのキャンペーンを映画でやってるんだなぁ・・と改めて思ったりする。

もう一つの風景は、サンフランシスコの市長、ガビン・ニューサム(民主党)が次のカリフォルニア州知事選挙に出馬を宣言した件。この選挙には、共和党からはイーベイの元CEO、メグ・ホイットマンが出ることになっていて、素人地元民としてはなかなか面白い戦いだ。

2004年の市長選挙では、対抗候補(無所属のマット・ゴンサレス)もともにイケメンと評判で、「どっちがいい男か」とおおいに話題になった。政治苦手でサンフランシスコ市民でもない私は、どーでもいいやと思っていたのだが(うそばっか)、その後ニューサム氏が「ディスレクシアである」ことを知り、やや見る目が変わった。

このブログで何度か書いているように、我が家は息子が二人とも学習困難があり、一時ディスレクシア(読み書き障害)もずいぶん研究した。ちょうど、我が家の近所にはディスレクシアの子供のための専門の学校があり、そこに子供を通わせている親御さんたちからもいろいろ話を聞いたのだが、その過程で知った。ニューサム氏も時々この学校を訪れ、子供たちに話をすることがあり、「今でも、書類を読むのに人の何倍も時間がかかるので、他の人にサポートしてもらって仕事をこなしている」のだそうだ。

あまり裕福でない家庭の生まれで、ディスレクシアがかなりひどかったため、学校ではまともな成績がとれず、高校ではバスケットボールを一生懸命やり(あまり上手くなかったけれど、努力で補ったらしい)、それで地元のあまり有名でない大学に進学。そこでも、結局最後の最後まで、必須の科目の単位がとれず、目をつぶって卒業させてもらった。その後、サンフランシスコに友人とワインショップを開いて成功するのだが、そのときにつまらないことで市の職員に難癖をつけられるのに憤ったのが政治の道にはいるきっかけだったそうだ。ミルクもつとめた「スーパーバイザー」を経て市長に当選したのだが、その後も奥さんと離婚騒動→部下の奥さんと不倫→アルコール中毒になって治療、などとおミソつけっぱなし。*2にもかかわらず、実績があったからというべきかイケメンなら許されちゃうのか知らないが、再選されて、今度は州知事に出る。*3出馬宣言はTwitterだったし、選挙戦はオバマ流ネット選挙になるだろうといわれている。

ディスレクシアだけれど、絵とか音楽とかが天才的に上手くて・・・などというドラマティックな人ではなく、「普通の人」っぽくて、それでも紆余曲折を経ながらも努力で成功しているところが、同じ悩みを持つディスレクシアの子供たちにはとても勇気付けられる「ロールモデル」だろう。

で、この2件は両方とも、「サンフランシスコでなければありえない」ケースかもしれないと思う。でも、なにしろ、ふーんそうか、こういう人たちが政治家になれるんだ、こういうキャリアパスがあるんだ、と思ったわけだ。市の政治家レベルは、国政に比べればずっと「手が届きやすい」範囲の話だけれど、それでもやはり政治家になるのは勇気がいる。実際、ミルクは暗殺されてしまった。それを敢えてやろうという人たちはもちろんそれだけ、どうしても主張したいことがあってやるんだけど、それを可能にする周囲の環境がないとやっぱダメだよね・・・などと、いろいろ考えてしまったわけだ。

今回は、オチのないエントリー御免。

*1:歴史の話なのでこれはネタバレではないと思うので書くが、結局ハーベイは暗殺されてしまう。そのとき一緒に殺されたのが、当時サンフランシスコ市長だったジョージ・モスコーニ。現在、テック系展示会のメッカでもある「モスコーニ・センター」の由来。

*2:その後美人女優と再婚、子供もできた。

*3:といっても、ダイアン・ファインスタインが出るなら自分は下りる、という条件付みたいだが。