オバマのいわゆる「Twitterおよびネット戦略」の今更解説

オバマのiPhoneアプリ。今はもうない。


自民党Twitterを使おうという話に関連して、オバマTwitterを使っている云々という話が世間で取りざたされているようなので、もう一年以上前の選挙直後に作った資料がネタで恐縮(アップデートまでしてる暇が今ないので・・・)だが、昨年の大統領選においてオバマが採用した「ネット戦略」についての私の分析をご紹介しておこうと思う。

資料を作りながら、実にオバマのネット戦略は見事に全体の整合性が取れている総合的なもので、彼の陣営にはすごい知恵者がいるものだ、と感心しきりだった。やっぱり、エリック・シュミットだったんだろうか・・・?

まず、ネット・プレゼンスそのものだが、当然ながらTwitterだけでなく、FacebookMySpaceFlickrDiggEventful、LinkedInなど、凡そ一般人が考えつく限りのソーシャル・メディアに公式ページを作り、情報をアップデートしてファンを集めていた。自前のウェブサイト、YouTubeへの動画配信、モバイルサイト、iPhoneアプリ、携帯メッセージ(SMS)配信なども完璧に網羅していた。(ちなみに、Twitterユーザーが爆発的に増えるのは2009年3〜4月のことで、この時点ではまだまだユーザーは少なかった。)

日本企業の人と話していると、長いこと「xxで一発当てて大儲け」という、一点突破でブレイクするブーム体質が高度成長時代から染み付いているせいか、すぐに「どれが次にきますか」みたいなことを聞かれるので、こういう話をしても、「やっぱり、YouTubeなんですかね」とか「Twitterが一番すごいんですか」とか聞かれそうなのだけど、そういうことではない。

いまどきのこれらのネットツールは、どれも特定の用途や目的に特化しているので、一つですべてをカバーすることはできない。違う層の人(年齢層、性別、所得層、政治的指向、などなど)に広くリーチして、多くの目的を達成するためには、いろんなツールをうまく使わないとダメ。ただし、どれも使うためのコストはめちゃくちゃ低いので、下手な鉄砲を数撃っても大丈夫だ。

そして、いずれの場合も、その昔のテレビのように、「情報を発信する」というだけではダメ。ネットの双方向性を利用して、「誰がFacebookのファンになったか」「どの話題が一番RTされているか」「どんなコメントがついているか」ということが全部透明に見えるので、返ってくる情報(支持者の意見や心情)を消化して政策に生かす。そのことをまたきちんとリスポンスする。また、「自分の友達がオバマを支持している」ということがわかると、自分もついつい好意的にオバマを見るようになり、その人もファンになりやすい、という「外部性」の利用も重要だ。

でも、こうしたネットによる「クチコミ」効果だけに頼ってあぐらをかいていてはダメ。オバマ戦略の最大の特徴は、こうした各種ネット・ツールに親和性が高く、意識の高い人々(特に若年層)を「オープンソース的」(この用語を使うとまた炎上しそうだが、「的」ね、「的」。ソフトウェアの話じゃなくて、仕組みの比喩としての話ね。この記事のポイントはここじゃないからこだわらないようにお願いします)にボランティア動員したことにある。組織や義理でしばって活動させるのではなく、熱心な支持者を「個」としてたんねんに集め、彼らが自発的に核となって輪を広げるようにした。オバマのサイトには、支持者が自分で「オバマ支持サイト」を簡単につくるツールや、Google Mapのマッシュアップ・ツール(近所の人に支持を頼むのがやりやすいように)が用意され、ネットを通じて集まった支持者は、自分の電話で友達に支持依頼の電話をかけたり、場合によっては組織的に「事務所」に集まってリストを渡されてコールドコールしたりしていた。私の友人の体験によると、彼の行ったサンフランシスコの倉庫街の事務所には、はいりきれないほど人が集まってしまったので、事務所の裏に出て、水たまりのある裏通りで三々五々、皆自分の携帯で電話をかけまくっていたという。こうした方向性は、例えば「iPhoneアプリ」の画面を見てもわかる。一番上には「Call Friends」というボタンがあり、一番下には「donate」のボタンがあるのだ。

最後は「個別突破」であり、「人」なのだ、というところは、昔も今も変わらないが、その人をどうやって集めるか、が変わったのである。ただの「ボランティア」でなく「オープンソース」とあえて言ったのは、「ボランティアにきました、何やればいいですか?」という指示待ちの人々ではなく、ツールを駆使して自分でサイトを作ったり、自分の携帯から電話をかけたり、という「再発信」を自分の頭でで考えてでき、コミュニティを自分で作れる、若くて元気のある、機動力のある人々だったということがいいたかったからである。

そして、この個別突破作戦で「個人献金」も集めた。電話による集金が主体であったと思われる。一人ひとりの額は小さいけれど、すごく多くの人から集める「マイクロペイメント」式の集金方法で、マケイン陣営の倍近くの資金(オバマ$622mil.、マケイン$326mil.)を集めた。一人当たりの平均寄付額は86ドルだったという。

オバマはこの方法で、従来「無視」されてきた、組織化されていない若年層やハイテクに親和性が高い人々を主眼として、彼らに支持される政策をもともと持っており、彼らに効果的にリーチして、新しい方法で「動員(mobilize)」することができた。その歴史的意義は大きく、巨大化したがゆえに「組織」を経由しなければ集金も動員もできなかったここ何十年かの「民主主義の課題」をクリアして、おおげさにいえば、技術を使うことにより本来の民主主義の姿に一歩近づいた、ということだと思っている。ばーんと大金を積んで、組織対策とテレビ対策をすればそれで済んだ、おおざっぱな時代は終わったのである。少なくとも、アメリカにおいては。

つまり、本来の政策・ターゲット層・そこにリーチするためのツール、という、それぞれにすべて整合性があり、戦略的に連動させたから初めてうまくいった。また、そのためのプロセスは、ネットを通じて丹念に「個」と向き合う、気が遠くなるような根気のいる作業である。もし、自民党の今回の動きが、そこまでわかっていて、自分たちの本来の政策という大元の戦略からすべて整合性をとった上でやるなら、文句は言うまい。また、たとえ今そこまでできていなくても、これからTwitterなどを使って情報を得て、それらを総合して自分たちの根本的な政策に反映させて新しいネット戦略を考えていこうという気があるならばそれでもいい。しかし、ブーム体質のおじさんが「テレビの代わり」のつもりで、はやりに乗ってTwitterを食い散らかしてもうまく行くはずがなく、またそれで「ほらみい、やっぱだめじゃん」と元の旧体質に安心して戻っていくならば、むしろ害をなすのでは、という気がしている。

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