「iPhone」はベンチャー界隈で「iモード」にますます似ている

頭の小文字の「i」のせいで、「iPhoneiPod」と「iモード」はよく頭の中で混乱を招く。いや、サービスの形態だのコンセプトだの、ぜんぜん違うのは言われなくてもわかってるのだけれど、アメリカのライフスタイルの中でこの二つはかなり位置づけが似ているとずっと思っている。そして、今回のiPhoneアプリの開始で、ますます似てきたように思う。

iPodが、日本における携帯コンテンツと似た位置づけになっている、とだいぶ以前に発言したのは中島聡さん。それを読んで、なるほどー、そのとおりだなー、と感心して、その後私も持論にした。いつも持ち歩くパーソナルな機器で、ロングテールのコンテンツを効率よく販売できるマイクロペイメントのプラットフォームと一体化していて、その上で栄枯盛衰するロングテール・コンテンツのプロバイダーを数多く育てているので、膨大なコンテンツのチョイスがある。iPodでは、この場合のロングテール・コンテンツは、音楽・ポッドキャスト・オーディオブックなどにあたり、マイクロペイメントは言うまでもなくiTunes

そして、日本ではユーザーのニッチ時間が、機器を操作する双方向性に合っている(電車に乗っている間、待ち合わせしている間、パソコンを持っていない人が家で暇なとき・・・)のに対し、アメリカの最大のニッチ時間は車を運転しているときなので、双方向性の高い携帯電話端末よりも流しっぱなしのiPodをカーオーディオにつなぐほうが適していた。

iモード的な、アメリカのキャリア経由携帯コンテンツもあるのだが、どこでどう利益を取るかというコンセプトの違いで、料金回収手数料をやたら高くとり、コンテンツ・プロバイダーの数を制限したために、日本のiモードにおける「walled garden(塀に囲まれた庭)」よりもはるかに狭い庭となってしまい、ロングテールのエコシステムになることができなかった。ニッチ時間の制約もあり、アメリカではiPodにその地位を奪われてしまった格好になって現在に至る。

さて、その発展形として出てきたiPhoneだが、このアプリ・ストアというのは、従来のiPod用コンテンツよりも、「操作」を必要とする、もっとかつてのiモードに近い種類のアプリケーションやサービスを販売(無料のものもある)するお店であり、iPhoneを買おうという人はおそらく、すでにiTunesにアカウントを持っているだろうから、すでにマイクロペイメントのプラットフォームとして機能している。ますます、iモードに似ている。

そして、iPhoneアプリを提供するプロバイダーや開発者にとっては、「販売ルート」と「代金回収」という、ベンチャーにとって最も厄介でお金がかかり、しばしばアキレス腱となる部分をプラットフォーム屋さんが代わりにやってくれる、という大変大きなメリットがある。*1iモードが成功した最大の理由はこれと同じ部分にあると思っている。

そうすると、どうなるかというと、わーっとベンチャーをはじめる人が集まる。チャンスと思って投資する人も集まる。人とお金が集まると、だめになるものも多いけれど、生き残るものも出てくる。iモードのときも、当時のベンチャー育成のための種々の新政策ともあいまって、わーっと人とお金が集まってきた。その中から、インデックス、ドワンゴ、サイバードなどが出てきたわけだ。そして、この熱気がその後の「携帯王国ニッポン」の文化や産業を形作ってきた。

今、iPhoneアプリでフィーチャーされているのは、実はGoogleFacebook、Pandoraなど、すでにある程度ウェブで知名度の高い、エスタブリッシュされたものが多いという批判もあるが、ベンチャー界隈を見ていると、「チャーンス!」とばかりに盛んにうごめいているベンチャー企業がものすごくたくさんある。また、シリコンバレーでも最高級のステータスをもつベンチャーキャピタルKleiner Perkins Caulfield Byers*2が、iFundという、iPhone専用のファンドを作っているのに見られるように、ベンチャーキャピタルも群がっている。

この熱気は、iモードベンチャー全盛期の日本の雰囲気によく似ている。この中から、いずれ生き残るものが出てくるだろう。そしてこの熱気は、何か新しい「iPhone文化」なのか「スマートフォン文化」なのか、なんなのか知らないが、何かを作り出すんじゃないか。そんな気がしている。

*1:これも中島さんがブログの中でご自分で仰っている点。

*2:グーグルの初期インベスターとして有名。