ふたつの「駅前事情」

前回の突っ込みどころ満載のエントリーのついでにもう一つ、日本の電車系思い出話を。下記、まじめに分析したワケではなく、「住民」としての単なる感想です。ハイ。念のため。

日本滞在中、一回だけ映画を見に行くことができた。実家のある駅の近くには、昔は3−4軒映画館があったのだけれど、今はついに一つしか残っていない。昔からの駅前商店街の中にある、2つしかスクリーンのない、昔ながらの映画館である。*1

この映画館は、夏休みの「ポケモン」映画みたいなのだけで生き延びていると思われるのだが、日本の家族はポケモンを見るのに、この映画館には行かず、もっと遠くのシネコンに車で行く。なぜかというと、この映画館、今は禁煙だが、何十年にもわたってタバコの匂いがしみこんでいて、子供が気分悪くなるからだ、という。日本全体を見ても、昔ながらの小さい映画館からシネコンへと人が移りつつある。

一方、「車で行く郊外シネコン」の発祥地であるアメリカの、我が家の近くでは、ここ数年ちょっと変化がある。10年前に引っ越してきた頃は、Redwood Cityの高速道路の出口すぐ、埋立地の何もないところにある12スクリーンのシネコンしかなかったのだが、その後San MateoとRedwood Cityの「駅前」に、それぞれ12スクリーンと20スクリーンのシネコンができた。Redwood Cityの20スクリーンなんかは超巨大で、おかげで、浅野忠信が主演して、ロシア人監督が作って、今年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされた、「モンゴル」というマイナーな映画まで、ここでやってくれている。*2やっぱり巨大シネコンだけれど、「郊外」じゃなくて「駅前」「街中」に回帰しているのだ。

アメリカで駅前といえば、寂れているのがデフォルトである。この近所では、Palo AltoとかBurlingameのような高級住宅街の例外もあるけれど、全体としてはやはり寂れている。電車も駅も、定時に通勤する人だけのもので、ピーク時間以外はたまにしか電車が来ないので、みんな使わない。特に、San MateoやRedwood Cityのように、低所得の人も多く住んでいる街では、「(通勤時以外に)電車やバスを使うのは、車をもてない人だけ」という悲しい状況もあり、駅の近くというのはすさんだ雰囲気のところが多い。

それで、どこからどういう補助金が出たのかは知らないが、大規模な駅前再開発をやって、その目玉に巨大シネコンを据えた。シネコンとセットで、巨大パーキングタワーも、駅前にできた。シネコンの周囲は、カフェやレストランを集めて、タイルで舗装して、カッコよくした。週末にはえらい人だかりで、とりあえず、再開発で人を駅前に集めることには成功しているように見える。近くの商店も潤っていることだろう。とはいえ、これが可能だったのは、駅前がすでにすさんでいて、地価が安かったという事情もあったんじゃないかな、とも思う。

日本と逆だなぁ、と思いつつ、また故郷の駅のことを考えた。そういえば、子供の自転車や文具を買おうとしたら、駅前ではいくら探しても見つからなかった。駅前って、年配の人用のものばかり売っている気がする。昔たくさんあったデパートはどんどん撤退して、残っているところはお客は年配の人が多い。デパートの屋上にはもはや、100円入れてがーっと動くような子供の乗り物はない。そういう乗り物やガチャポンがあるのも、おもちゃや子供服や児童書やキャラクター文具や子供用自転車を買えるのも、今は駅前じゃなくて、車に乗って行く遠くの郊外モール。*3駅前は、別の形で「車を使わない人用」になっちゃっている。駅前では、もっぱら地下の食料品しか買わなかった。日本で車を持っていない私には不便だし、ガソリン高いし、困る。

まだまだ、そこそこ賑わっている郊外の駅ですらこの状況。地価が高いからだろうけれど、この駅の近くには大きな駐車場はない。車で送り迎えをしようにも待っている場所がなく、わが故郷の駅は、車でのアクセスが本当にやりにくい。「車」と「電車+駅」は「別体系」として扱われていて、車組(=子供づれの若い家族)はコストの安い郊外モールに押しやられ、駅の近くはプレミアムを負担できる優雅な年配層が独占、若い家族や子供は敬遠するようになってしまう。これで本当にいいのだろうか??

いわゆる「シャッター街」が問題になっている地方の駅では、駅前に大きな駐車場はあるのだろうか?「車」と「電車」は敵同士ではなく、「近距離は車、長距離は電車」という棲み分けで、両方を統合した全体システムで考えるともっといいのかな?駅前は地価が高いからだめなんだろうな、でも駅前で再開発したビルを売ろうとしたら買い手がつかなくて大変だったという話もあったなぁ・・・うーん・・・

私が子供の頃、「駅前」に行くのが楽しみだったことと、今の様子を比べて、こんなことをいろいろ考えてしまったのだった。

*1:ちなみに、見たのは「マジック・アワー」。私の好きな俳優さんがいっぱい出てるし、楽しくて笑える映画。

*2:これも面白かった!!浅野忠信がカッコいいと初めて思った。

*3:そういえば、駅前の本屋でも子供の本を売っているのだが、「おばあちゃんが孫に買おうと思うような昔ながらの教育的な本」が多く、モールだと「子供は欲しがるが親は悩んでしまうような本」が多いような気がする。