アメリカで「従量制」復活の兆し??- ネットに「資源インフレ」は来るか

タイムワーナーが、テキサスでブロードバンド・アクセス・サービスに「利用量上限」を設けるサービス*1を試験的に開始したそうだ。前からBitTorrent*2ユーザーのトラフィックを制限するということで槍玉にあがっていたコムキャストも、ちょっとやり方を変えて制限を続けているし、AT&Tも同じことを考えていると発言。

New York Times記事

もちろん、メディアでは叩かれているのだけれど、コムキャストの話はずいぶん前からくすぶっているのに、やめない。そういうことをすると、お客が競合相手のベライゾンAT&Tに流れるかも知れないのに、やめない。それを見て競合相手も、だからやめるのではなく、やっぱり上限料金の方向に向かう。

これはどういうことなんだろう?

内情を知っているわけではないが、それだけ、本当に苦しいということなんじゃないかと思う。まぁ、どこからかは「赤信号、みんなで渡れば・・・」になるのかもしれないけれど。

ネットの定額制料金は、ネットの普及に大いに寄与した。アメリカでブロードバンドの普及が遅れたのは、ダイヤルアップですでに定額制だったからで、一方ダイヤルアップが従量制で初期のネット普及に出遅れた日本では、ブロードバンドで定額制に移行したおかげで、逆に現在のブロードバンド大国になった。「ネット」とは、定額で好きなだけ使えることが圧倒的に使い勝手がよい。

しかし、それはネット接続の「物理的な素材コスト」が十分に安いことによって支えられている構造でもある。このところ、世界的にネット需要が爆発して、動画やP2Pトラフィックがすごい勢いで流れている一方、データセンターのコストがエネルギー高で高くなっている上、データセンターでのトラフィックをさばくルーター技術が、需要の爆発に追いついていない・・・といった状況が現実にはある。新興国の需要急増で需給が逼迫してインフレに・・・という話は、最近どこでも聞くシナリオと似ている。ネットでは新興国だけじゃなく、先進国ですら、需要が爆発している。データセンターを中心に「ネット資源インフレ」が起こる可能性だって否定できないのじゃないか、と思う。

そのあたりの話は、前にここにも書いている。

「あちら側」の物理的限界 - Tech Mom from Silicon Valley

今のところ、アメリカのキャリアがターゲットにしているのは、BitTorrentユーザー。タイムワーナーの場合だと、全体の5%の数のユーザーが50%以上のトラフィックを占有しているという。それで、大多数の「普通」のユーザーには影響がないレベルに上限を設定しようというワケ。

こういう話では、定額制というのは「幽霊会員の払う会費でヘビーユーザーが支えられる」という構造になるので、それがフェアかどうかとか、でも心理的にネットが使いづらくなるから自由が奪われるとか、そういう結論になりがちなのだけれど、私としては、「なんであれだけ叩かれても、タイムワーナーやコムキャストは使用量を制限しようとするか」という内幕のほうが関心がある。

距離無制限、利用量無制限の方向へと限りなく進んできたネット・通信の業界に、小さいけれど、逆の現象が出現し始めている。それも、一つじゃない。いくつか、塊で。何か、潮目が変わるのだろうか?それとも、こういったキャリアは、単に時代に逆行する、自分勝手な人たちだということなのだろうか??

*1:携帯電話と同じように、制限を越えると従量制になる

*2:動画などの大容量ファイルを交換するために使われるP2P技術