周波数オークション問題=ソフトバンク問題

こちとらが感謝祭で苦手な料理に忙殺されている間に、日本では3.9G周波数オークション(700/900MHz)が「仕分け」で復活したらしい。日本人らしくww、周回遅れでこの話に反応しておく。

政策仕分けで葬られた「電波社会主義」 市場原理を導入しないと通信インフラがパンクする(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス)

震災復興財源問題もあり、いよいよ背に腹は代えられない民主党が、周波数に目をつけたということではないかと思う。それでも本当に実現するのかどうか、私には今だに信じられないが(どうせ今騒いでも実現は10年後だと思っていたので)、ちょっとこれまでと流れが変わってきたらしい。

原住民のたくさんいる貴重な周波数帯なので原住民が立ち退きを拒否するとか、免許料の負担がユーザーに転嫁されるとか、なぜ総務省が抵抗するとか、いろいろと議論があったわけだが、かなりの部分が公になって、「テクニカル」に解決できる見通しが出てきているのではないかと思う。

「電波使用料が総務省のヘソクリになっている件」
「立ち退き料を逆オークションする件」

そして最後、今は結局「ソフトバンクが死ぬか生きるか」の問題に煮詰まってきていると思う。

周波数オークションの最大の問題は、「新規参入を排除してしまう」ことだ。逆のように思えるだろうが、オープンのように見えて、実は「札束で殴りあう」仕組みなので、プレーンにやったらカネのあるところが勝つに決まっている。カネのないベンチャーは無理。新規参入が可能なのは、カネのある「異業種大手」か、または「外資」というのが通り相場だ。米国の1990年代のPCS(デジタル携帯)では「異業種」(当時は携帯事業を持っていない長距離通信事業者などが数多くあったので、資金力のある「通信事業者」の新規参入ということが可能だった)、2000年代初頭の欧州では「外資」(1998年ITUによる世界的通信自由化の流れで、汎欧州事業に向け最大のチャンスだったため、欧州内での外資相互参入がヒートアップ、これを機に大手4社が全欧州をほぼカバーする寡占体制ができた)の参入で盛り上がったわけだ。一方日本では、ベンチャーであるイーモバイルアイピーモバイルなどにタダで電波をあげることで新規参入させた。

しかし、実際には免許をとってもその後の設備建設はどっちにしてもカネがかかる。そもそも、携帯事業は「お金持ちのゲーム」なのだ。上記のような特殊な事情でもない限り、ある程度は「出来レース」というのが悲しい現実だ。*1

米国でもその後は大幅な新規参入はなくなり、2007年の米国700MHzでは久々の異業種オオモノ、グーグルがちょっかいを出したために話題を集めたが、結局は自分の言い分を通すだけの価格までつり上がったところで脱落。(果たしてそのとき、ベライゾンと密約があったのか阿吽の呼吸だったのかは謎。)

そして、スマホによる「データ・ツナミ」が襲う中、キャリアにとっては「売り上げはあまり増えないのに設備投資負担ばかりが増える」というのが、先進国キャリアの共通の悩み、という時代になった。上位レイヤーではキラキラした端末やゲームが跋扈する中、通信のレイヤーでは皮肉なことに、設備効率のいい古い周波数帯(800MHz)も、固定ブロードバンドも、IPバックホールも持っているincumbent(既存事業者)のほうが圧倒的有利になっている。

日本だけではない。どこも同じだ。後発事業者は本当に苦しい。アメリカでも、3位(スプリント←異業種参入組)・4位(Tモバイル外資参入組)が存亡の危機にある。日本でも、後発のソフトバンクがどうしても苦しい。ソフトバンクがオークションに徹底抗戦しているのも、これでますますカネを使わされる、という危機感からだ。

一方で、ユーザーの利便という点から見て、「第三のキャリア」という選択肢は、おそらくどうしても必要だろうと思う。でもそれは、「オークションの可否」ではなく、「競争政策」という別の問題だ。

世界中のキャリアが悩んでいる問題なので、私一個人で画期的な解決策など考えつくはずがない。(アメリカでも、AT&TTモバイルの統合が「競争政策問題」で阻止されそうな形勢だが、統合してもしなくても、どこか一つは潰れそうで、一体どうすればいいのか私にも全くわからない。)

ともかく、日本のオークションに関しては、「第三の選択肢を残す」こと自体はおそらく多くの人が賛成することだと思うので、(その第三がソフトバンクかイーモバかUQかはわからないが)第三の選択肢を残すためのオークション設計をする(一社で保有できる周波数の上限を決めるとか、なんらかの特別参加枠を設けるとか)か、それとも個別にソフトバンクを救済するための仕組みか、何がいいかわからないが、とにかく別問題として考えるべきと思う。そもそも、オークションをやらなくても、900MHzに投資する資金力がソフトバンクやイーモバにあるのかという話もあり、携帯事業がますます「大金持ちのゲーム」になりつつあること自体が問題なのだ。

私がオークションという入れ物の仕組みにこだわるのは、先々、画期的な技術が出てきて情勢が大きく変わるときに、今の仕組みでは迅速に対応できないと思うからだ。その入れ物の中にどんなものを入れるかは分けて考えたほうがいいと思う。

<追記>
Twitterにて、この記事を「オークション慎重論」と読まれた方がいることがわかり、我が乏しい筆力を恥じて、追記しておきます。私は、「3.9Gからオークションをやってほしい。ソフトバンクが反対論を言っているが、それはオークションの是非とは切り離して議論し、オークションは4Gといわず、3.9Gからどんどんやってね」と言いたかったのでした。

*1:中国資本がはいってくるゾという話もあるようだが、成長が見込めず、いろいろと難しい日本市場にわざわざゼロから参入したい奇特な外資が、今の状況下で存在するのか、私にはたいへん疑問だ。