ブロードバンドは「イデオロギー」より「インセンティブ」で

「光の道」の話は、まさか本当に固定ローカルアクセスの「構造分離」が実施されることはないだろうと思って黙っていたが、一応簡単に私の意見を述べておくことにする。

基本的には、下記で電力系アクセス事業者の方々が仰ることにほぼ賛成である。

http://wirelesswire.jp/News_in_Japan/201004231130.html

「銅線」での回線卸売義務づけ(日本やアメリカ)や、完全に卸会社を別会社にする「構造分離(structural separation)」(イギリスやスウェーデン)はある程度意味がわかるが、それはすでに銅線が「ユニバーサル・サービス」として需要の少ないところまで行き渡っており、そのための新規投資はだいぶ前に終了して、現在は「保守」だけやればいい状況になっているからだ。固定回線は投資回収期間が長く、リスクが高いので、新規投資が必要な部分は当事者にかなりのインセンティブがなければやっていられない。そのやり方として、昔は「独占」を認めることで確実に回収できるようにしてやったし、最近ではアメリカのように、「光回線だったら卸売しなくていいし、その上で放送もやっていいよ、どんどん儲けていいからリスクとってね(ただしケーブル会社とはちゃんと競争してね)」といっておだてるやり方もある。

翻って、私の古巣であるNTTは、良い意味でかつての「公共サービス」意識を未だに持っている人が多く、「儲けろ」というより「天下国家のために光回線ウン千万回線を達成するぞ!おー!」というほうが頑張れる組織だと思う。そのNTTですら、光回線はこのあたりまでが限界、というところまで来てしまっている。

つまり、今からなんらかの法的縛りをかけて光回線を引かなければいけないという地域は、引いても儲からない場所。卸専門会社は、その上で小売してくれるサービスプロバイダーがたくさんあれば投資インセンティブもあるが、そんな田舎では何もインセンティブがない。無理やりやらせれば、誰も通らない無駄に豪華な村道ができる。それをやる組織は、役人の跋扈する非商業組織となる。

それよりも、私としては、例えばユニバーサル・サービス・ファンド(USF)と入札を組み合わせるのはどうか、と思う。まず、全国の通信サービスから薄く広くユニバーサル・サービス・ファンドを集めて財源とする。それから、「ブロードバンド整備困難地域」というのを定義する。その上で、無線でも固定回線でもいいので、その地域に「自分ならその財源で、これこれの期間にこれだけの回線をひきます」という計画を参加希望者に提出させる。もちろん、USFだけでなく、自社で投資してもいい。で、一番効率のいい提案をしたキャリアに、USFを渡してやらせる。方式はなんでもいいのだが、なんらかの無線が自然だろうな、と思う。UQイーモバイルなどが活躍するといいような感じ。約束やぶったら罰則だが、何年か後に成功して「困難地域」を脱しているとトクになるようなインセンティブもつけないといけない。

まぁこれは、ツッコミどころ満載の思いつき(まずはユニバで大騒ぎ)だが、なにしろ言いたいのは、僻地までのブロードバンド普及は、「構造分離」という制度の大ナタを大上段から振るうよりも、「柔軟なインセンティブ設計」によって、民間が自ら実施するように仕向けるのが、今風ではないか、と思う。先日つぶやいたように、構造分離は「イデオロギー」であって、理想は美しいけれど、実際に運用すると弊害が大きいように思う。

<参考エントリー>
BLOGOS(ブロゴス)- 意見をつなぐ。日本が変わる。
↑これについては、ひとつだけ突っ込んでおく。銅線設備をベライゾンが切り離すのは、ベライゾンの株主が「成長も安定もできる優良会社」を望むからだし、アメリカはもともと過疎地アクセス会社は別々だったのを買い集めてきたので、切り離すのが割に簡単。日本でやるなら無理やり分離売却すると上記と同じようにコストがかかりすぎると思う。それより銅線会社をNTTの子会社にして、定年後再雇用者などをどんと送り込んで、「成長しないけど、新規投資もせず、最低限の保守だけやって、毎月決まったお金がはいってきて雇用をたくさん供給する、社会主義会社」にしてしまうのが、NTTに日本の皆様が期待するあり方(=雇用製造マシーン)なのではないかと思う。「NTT成長会社」のほうは、若い人が年寄りに邪魔されずに活躍できるようになるし、「非成長会社」のほうは、最後まで銅線電話を使っている高齢のお客様のペースに合わせてまったりできて、みんなハッピーではないかと思う。あ、後半は与太話だからね、真面目に突っ込まないように。