CTIA第三日 「生ゴア」拝聴

CTIA最終日のキーノートは、例年、元政治家とか、業界外の有名人が出てきてスピーチをするのが通例。去年の「クリントン(夫)vs.ブッシュ(父)」というのはミーティングがあったために聞きそこなって残念だったので(けっこう面白かったらしいと後できいた)、今年は「アル・ゴア」をちゃんと聞こうと思い、けっこういい席にて拝聴。

意外に「環境」の話は最後だけで、前の3分の2ぐらいは「歴史的な産業の移り変わり、情報社会の意義、その中における政治と技術、現在の経済危機をそうした大きな流れからみた位置づけ」みたいな話であった。

大昔は知識が限られた人にしか存在しなかったが、印刷術の発明による知識の伝播が引き起こした「啓蒙時代」、多くの人に情報が行き渡り、お互いに入手できる情報と自分の考えに基づき議論することで現代の民主主義が成立。しかし、その後「テレビ時代」になって、情報がより広く行き渡るのはいいけれど、伝わり方は一方的になり、政治に膨大なお金がかかるようになってしまい、お金をたくさん集められる団体や人が主導権を握るという歪みが発生してしまった。そこへ、昨年オバマは、ネットが発達して初めて可能になった、「膨大な人から少しずつ集めるマイクロ選挙資金」を活用し、またネット時代は再び、みんなで双方向で議論して決めることができることができるようになったので、民主主義は本来の姿に戻りつつある・・・という点については、実は選挙直後に、私が日本の某企業幹部にプレゼンした内容と全く同じ流れだったので、ちょっとばかり「よし、私もまちがってなかったな」と安心したり。他にも、ここに書いたような、技術革新によるコストの急減とマージンの増加という点からの時代論もあったし、「いやー、話あうねぇ。」とか思っちゃったり。

それにしても、やっぱり話がうまいねぇー。他の人に言わせると、政治家時代より上手くなったらしい。かなり、専門家からコーチも受けているようだ。なんといっても、アカデミー賞受賞者だし。現在はアップルの社外取締役やサンフランシスコの映像ベンチャー「CurrentTV」などをやっていたりもするが、今回のような講演など何百回もやってきたに違いない。つまり、「しゃべくり芸」が本業みたいなところもある(というか、アメリカの政治家ってもともとしゃべくり芸がとっても必要だが)ので、テレプロンプターなしで45分ほどしゃべくりまくり。でも、話のところどころにうまく笑い話や人情をくすぐるようなところを入れてきたり、最後は持論の環境話をうまく「ワイヤレス業界の新たな活躍の場」という話につなげるなど、落ちもちゃんとあるし、飽きさせない。いやいや、感心しました。はい。

なお、今回もあまり展示が見られなかったのでそちらは別ソースを当たっていただくとして、全体的なCTIAの印象としては、今に始まったことでなく、ここ数年にわたり、だんだん存在感がなくなる傾向は続いている。そもそも、携帯の世界でアメリカが地盤沈下しているし、CTIAの1ヶ月前にWMCをやってしまうので、新製品の発表の場はバルセロナに移ってしまったし、昔はキャリアの数が多かったので、地方の中小キャリアなどにベンダーが売り込む「実質的な商売の場」だったものが、キャリアの数が減ってその意味がなくなってしまったし、ここにいない人々(=アップルとグーグル)に携帯業界の主導権が移りつつあるし。しかし一方、ここにいる人々の中心的存在であるキャリアは、全体の「冷え込み感」とは関係なく、粛々と日々の仕事をやってそれなりに儲けているし、この先かなり長い間、その状況が続くことはほぼ確実なのだが、その周囲に、何度消えても、次々別種のものが湧き上がり続けていた「バブル」が消え去って本来の規模に戻った感じがある。シリコンバレーのネットバブル崩壊時に感じた、「大騒ぎしていたお客さんがみんな帰ってしまって、寂しいけれどほっとした」「宴の後」感に似ている。

モバイル・コンテンツ関連のパネルを一つ聞いたけれど、この世界では、一時ヒップホップ歌手がやたら出てきたり映像系ベンチャーが派手にイベントをやったりした「モバイル・エンターテイメント」の宴も、Web2.0からモバイルに至る「広告モデル」の幻想もすでに消えてしまい、あとは昔からコツコツやっている「パーソナル・マーケティング」などをそのままやっている人々が少数残った。そういうのはなくならないし、中小企業として地道に続いていく。電話業界の周りには昔からそういう「ドブ板」の世界が広がっていたのだが、「一攫千金」の夢が消え、一巡してその地味なドブ板の電話世界が戻ってきたみたいな、ちょっと懐かしいみたいな感じもする。規模は縮小したと思うし、寂しさも漂うけれど、そういう意味であまり「悲観」「危機感」という感じはしなかった。

一方で、ここにいない人々主導で、アメリカの携帯業界はこれから復活して、世界的な地位は上昇していくだろう。日本のケータイ業界人がアメリカのことをバカにしていた時代ももう終わり。

時代はめぐる。