「スーザン・ボイルは孔明の罠?」とケータイ業界的雑感想

話題沸騰のYouTubeセンセーション、「スーザン・ボイルさん」が面白かったので、いろいろクリックして遊んだりしていた。

ネットで彼女について読んでいる人は、このイギリスの「Britain's Got Talent」という同じ番組で、2007年のシーズンに優勝したポール・ポッツ氏のこともおそらく知っているだろう。彼も全く同じパターンで、さえない小太りの携帯ショップのセールスマンが、驚くべき歌唱を披露して一躍スターになった。そのときもYouTubeで話題になって、私も見た記憶がある。いやー、イギリスには歌のうまい人がたくさん埋もれているもんだなー。

それっきり忘れていたのだが、スーザン・ボイルのYouTubeビデオを紹介したらばQの「関連リンク」にポール・ポッツの記事があって、そこには彼のCDへのアフィリエートが貼ってある。実は私は、彼のような「オペラ的ポップ歌唱」みたいなのが結構好きで、数年前はジョッシュ・グローバンにはまりまくったりしたので、いいね、ほんじゃ何曲か買ってみるか、と見事に釣られて、アマゾンのMP3でダウンロード*1した。それで気がついたが、ポール・ポッツの新しいアルバムがまもなく5月5日に発売予定、という事実。

おー、こ、これはもしかして、「孔明の罠」か!!

YouTubeでスーザンが話題になれば、必ず2年前のシーズンのポールのビデオも「ロングテール」式に復活してみんな思い出して見る。そうすると、新しいアルバムが売れる、という次第。実は、スーザンの登場は巧みにしかけられた罠なのかも・・・なーんちゃっていうのは考えすぎだろうが、それにしても、番組を作っている人が「二匹目のどじょう」を狙って、見かけと歌唱力のギャップの大きい人を探しだしてきた、ということは十分ありうる。ということで、逆にポール氏サイドが、新アルバム発売をこの時期(同番組の新シーズンが始まる時期)に持ってきた、というべきか。いずれにしても、なかなかの「孔明の罠」だにゃ。

ところで、アメリカでは「アメリカン・アイドル」、元祖イギリスでは「ポップ・アイドル」という、似たようなフォーマットで、同じ毒舌ジャッジ、サイモン・コウェルがこきおろしまくるスター登竜門番組がある。「アメリカン・アイドル」は、この国では珍しく、日本でよくあるような「国民的大ブーム」になった番組。Wikiってみると、スーザンやポールが出た「Britain's Got Talent」は、このサイモン・コウェルが制作しており、アメリカ版である「America's Got Talent」は、アメリカン・アイドルと同じFreemantleがプロデュースに関与している。(イギリスは違うプロダクション名が書いてある。)内容は少々違う*2この二つのシリーズの関係はよく知らないが、とにかく、アメリカの携帯電話関係者の間で「アメリカン・アイドル」は伝説的存在となっているのだ。なぜかというと、ヨーロッパ風の「SMS(テキスト・メッセージ)」を使っていろいろやる、という文化をアメリカで最初に広め、一般人が音声以外の用途に携帯を使うという時代を切り開いたからだ。最終合否を決めるのはファン投票なのだが、従来からある「電話投票」のほかに、この番組ではスポンサーであるAT&Tワイヤレスの携帯電話から「SMSテキストで投票する」という方式を採用。当時アメリカではまだ知られていなかった、「携帯からテキストを送る」というやり方が、これで一気に普及した。

この後、同種のフォーマットの視聴者投票番組が増え、いずれも携帯投票が標準的に採用されている。例えば、踊るテレタビーズSteve Wozniakダンス番組からついに敗退 | On Off and Beyondで紹介されている、スティーブ・ウォズニアックがエントリーして大騒ぎになった「Dancing with the stars」もそうだ。3人のジャッジのうち一人が、めちゃくちゃ辛辣であるところまで、同じフォーマットを踏襲している。ウェブサイトからも投票できるが、テレビの画面に映し出される投票先番号を、手元の携帯で入力するのがやはり簡単。さらに言えば、日本式「iモード」と、それを使える携帯端末の普及をアメリカで仕掛けようとしたドコモや日本メーカーが、欧州型テキスト・メッセージ文化に決定的に敗退したのは、この「アメリカン・アイドル」がきっかけだったともいえる。

その後、世界のケータイ勢力図の中で、新興国だけでなくこうしてアメリカもある程度勢力範囲に入れた欧州勢が「世界の主流」となり、久々のアメリカ発ケータイ文化「スマートフォン」との合わせ技で、「日韓」がじりじり追い詰められている、というのはさらに後の話。

というわけで、アメリカとイギリス(および欧州)では、相変わらず、「毒舌ジャッジと携帯投票」をプラットフォームにした番組が花盛りだなー、との雑感でした。

*1:私は最近、ブラックベリーでも聞けるように、iTunesでなくアマゾンにしている。ちょっと作業は面倒だが、用は足りている。

*2:「アイドル」が文字通り、若いアイドル歌手対象であるのに対し、「タレント」は、マジシャンやダンサーなども含めた広い範囲のタレントを扱う。