strikes back 4 嫉妬のドライブがなくなったとき

元旦のNHKスペシャルの私の登場部分だけ、妹が録画して送ってくれたので、自分の一瞬芸がどういうふうに使われたのかわかった。雑種路線さんでも書かれているように、ほぼ思ったとおりの使われ方だった。短い時間の中でわかりやすくするためにこうなるだろうとは思っていたが、とにかくも私の本を画面に見せてくれたことは、本当にありがたいと思っている。テレビを見た人のうち、何万分の一かの人は、私の本やブログにたどりついて、私の話を聞いてくれるだろう。ともあれ、まずは本を知ってもらいたかったので、これは覚悟の上。NHKの方には、こんな大きな番組に、一介のブロガーを取り上げていただいた御礼を申し上げたい。

さて、コメント欄を見ると、実際にテレビを見てブログに来てくださった方もおられるし、本を書いたのはもう一年前で、それからまたいろいろ考えも変わっているので、私が言いたかったことのもう一つの側面を書いておこう。これだけでも一部なので、テレビの一瞬芸で表現するのは、どだい無理なのだ。仕方ない。とにかく、私が言いたかったのは、「イマドキの若者は・・・」という話ではない、ということを、せめてここに来てくださった方には理解していただきたいと思う。

パラダイス鎖国」は、一種の「平衡状態」であると思っている。

自分の身の上を考えると、子供の頃に自分がこうなりたい、と思っていたことがいろいろある。外国に行きたいとか、海外との仕事がしたいとか、子供ができても働きたいとか、そのためにはモノを書く仕事がいいだろうとか。いずれも、子供の頃考えていた形とは違うが、今はなんとなくそうなってしまった。ここに至るために、例えば「外国に行きたい」と思っても、お金がなかったので、英語を勉強して奨学生試験に受かるとか、死に物狂いでバイトして貯金する、といったプロセスを経ていて、ここまでの間は「欠けているものを満たすために頑張る」時期だった。

そんな人生のプロセスの間に、「こんなすごい人がいるのか!」と口をあんぐり開けてしまうような人と何人も出会った。そういうとき、以前は「それに比べて私は情けない」と思ったものだが、これはある意味で、「自分も本当ならあのぐらいになれるに違いない」という若気の至りでもあったし、だからこその若気のエネルギーでもあったし、ある意味で「嫉妬」であった。それが、頑張るためのドライブにもなった。

それが、40代も半ばを過ぎ、目指していた具体的なものがほとんど実現した頃、すごい人に会っても口をあんぐり開けるだけになって、そのあとの「嫉妬のエネルギー」が続かなくなった。自分が満たされてしまったからでもあるだろうし、「自分はこの程度」という一種の諦観に至ったからでもある。ある意味で、平衡状態の、心安らかな幸せな気持ちになった。そりゃ、今だって足りないものはいろいろあるけれど、「ちょこちょこ」したものであって、人生のエネルギーを賭けて、といったものではなくなっている。

私が本に書いた「パラダイス鎖国」の日本は、今ちょうど、同じような状況ではないか、と思うのだ。

おじさんたちになじみの深い、戦後から高度成長にかけての日本のドライブとは、「欠けているものを満たしたい」という強烈かつわかりやすい欲求だった。そんなとき、「嫉妬」の対象であった欧米先進国は「自分だって本当ならあのぐらいなれる」という若気のエネルギーの元になった。

でも、今は違う。目だって欠けているものがなくなり、欧米先進国は嫉妬の対象ではなくなった。だから、若者だけじゃなく、企業の経営者になっている年配の人も含め、今現在、過去のような自然な「ドライブ」はなくなってしまったのだ。同じようにはいかない。

日本人は「嫉妬深い」気質があるように思う、という話は以前も書き、いろいろと批判もいただいたが、こういった時代背景もあるのかもしれない。「誰でも○○になれる」という時代には、そこに至らない自分を叱咤するドライブもわかりやすい代わりに、そのエネルギーの使い方を間違えると、その相手を自分のレベルにまで引きずりおろすという、ネガティブな行動を引き起こすこともある。

今でも、「嫉妬」時代のネガティブな影響は、日本のあちこちに残っているようにも思うが、大きな時代の流れとしては「欠けているものを満たす」時代が去ってしまい、嫉妬をポジティブなドライブに振り向けにくくなっているのかもしれない、と思う。少なくとも、いまどき、欧米先進国がうらやましくて、自分もそういうふうになりたくて頑張る、という話は、強烈に時代遅れに聞こえる。もう、そういう時代ではない。

では、どうするのか。とういことで、続きはまた後ほど。

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