人をうまく叩く技術

中山「元」国交相の話のおかげで、すっかり日本じゃかき消えているようだが、アメリカでは先週末のオバマvs.マケインの討論の世論調査の結果がぼちぼち出て、オバマがやや優勢と伝えられている。

私の住む北カリフォルニアは、前の選挙のときから一貫して反ブッシュの空気が強く、今も道沿いに見る家々の庭先の看板や、車のバンパーステッカーには「Obama Baiden」しか見かけない。だから、相当にバイアスがかかっているというのをまずお断りした上で、金曜日にテレビで討論を見ていて、個別の政策についての感想はともかく、人の「叩き方のスタイル」において、どうもオバマのほうが上手いな、と思った。

オバマは、反論する前に、まず「John is absolutely right...」といって、マケインが言ったことの一部をまず肯定した上で、「しかし、この点は私は違うと思う」という切り返しを何度もやった。その昔どこかで習った、ディベートの基礎技術そのまま、のやり方ではある。オバマはもともとは討論が苦手らしいが、ずいぶん練習したようだ。その上で、持論の軸である、「共和党の金持ち優先政策でミドルクラスが苦しんでいる、自分は減税や財政支出でそれを是正する」「強権的な外交政策でなく仲間を増やす外交をする」というところに話をつなげることで、表面的にはやんわりと、それでいて叩く点は2点ぐらいの基本論に絞って繰り返し叩くというやり方だった。

これに対し、マケインは個別に言われることに対して「それは違う」と真っ向から一つ一つ反論し、「オバマは、今言っていることと違って、前にはこういう法律に賛成したじゃないか」などと、「個別」の事象を叩いた感じだった。自分は過去にあの政策もこの政策もやった、という「経験」を引き合いに出して「オマエは経験不足だからダメだ」という印象づけを行う戦略だったので、こうした「テクニカル」な叩き方も、自分の経験や知識をみせつけるという計算の上だっただろう。比較的何度も叩いていたのが「イヤーマーク」(ロビー勢力などが個別に押し込む、こまごまとした予算、のことのようだ)なのだが、最初は何のことを言っているのか私にはよくわからなかった。

マケインの、議員どうしの駆け引きに使われる用語や技術を駆使するスタイルは、政治のプロ同士ならいいのだろうが、普通の人相手に話を聞かせるなら、オバマのほうがわかりやすく、首尾一貫している印象を受け、上手いように思ったのだ。*1 まぁそれにしても、両方とも一定以上のコミュニケーションができる政治家である、という安心感は全体的にあるようだ。

さて、わが祖国では、そこまで至らない、人叩き技術の不足で撃沈した某大臣。人を叩くなら、なんにせよ、それなりの覚悟が必要だ。ネットで一般人が騒ぐなら何を言っても言論の自由だが、影響力を持つ政治家なら、自分の言うコトバの影響を考えた上で、誰に何を訴え、どんな成果を得るのかちゃんと考えた上で、もっとうまい叩き方をしてもらいたいものだ。特に、テレビやネットでその言動がすべてさらされる時代において、政治家というのは、今まで以上に、コトバのプロでなければならない。伝える中味そのものだけでなく、相手が誰で、どれだけの人に伝わって、どういう効果を持つのかを吟味して、コトバという作品をつむぐべきものじゃないだろうか。「小泉劇場」といわれた小泉元首相は、(これまた政策の中味はともかくとして、)この技術をうまく駆使していたということになる。

私だって、コンサルタントとしてクライアントにメッセージがちゃんと伝わらなかったら、それはクライアントじゃなくて、私が悪いのだ。だから、政治家がアマチュアっぽい言い訳をすると、情けないと思う。

プロなんだからさ。

<追記>
いや、ちゃんと考えてやってる、という分析もある。ご参考に。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20080929/171976/

*1:とはいえ、世論調査でも結構接戦だし、私の見方は一つの見方に過ぎない。アメリカの中央部に住む、保守的な人たちの心の動きは、私には測り知れない。