Chromeは「エリックのおうち」の玄関か

Chromeについての評価はすでにいろいろネットに出ているのでそちらを参照してほしい。クラウドの出口という意味でも、下記などに書いてある。

テクノロジー : 日経電子版

私も使ってみたが、その印象を当方は非技術的な面から書いてみたい。確かに、速い。特に、GmailとかDocsとか、グーグル系のサービスだと余計速いような気がするのは、たぶん気のせいだろう。でも、技術的にはそういうことが可能だと思う。

今年7月、日本にしばらくいた間、実家のYahooBB DSLが遅くて死にそうになった。去年はそんなに感じなかったので、近所で使う人が増えたのろうか?それも、日本のサイトはまだいいのだけれど、アメリカやヨーロッパのサイトへのアクセスがほとんど不可能なほど遅くて、特にSix Apartのブログなど、何度やってもタイムアウトでアクセスできず、結局書き込みがほとんどできずじまいだった。

しかし、そんな中、Gmailだけはサクサク動いた。アメリカでアカウントを持っているわけだが、これは「このアカウントは日本からアクセスした」ということがわかると、日本側にキャッシュするということだろうか?それとも太平洋回線のところに自分で何か細工をしてるんだろうか??などと、いずれにしても細い回線の向こう側に、巨大なグーグルの設備の存在をぼんやりと感じた出来事だった。

グーグルだけじゃなく、Salesforce.comなどのSaaS屋さんたちも、太平洋回線を経由したり、出先の地元で細い回線しかない場所からアクセスしたりするケースを想定して、「反応時間を速くする」ことにはものすごく神経を使っている。この神経の使い方は、ただの「閲覧」する情報サイトとは桁の違う使い方だ。

クラウドコンピューティングにおいては、「反応時間」は命。90年代の「ASP」があまり広がらなかったのは、当時のアクセス回線の細さもあって、反応時間が遅すぎたことも大きな理由の一つ。コンマ何秒の違いで、ユーザーはすぐに嫌気がさしてしまう。クラウドがデスクトップ・ソフトに勝とうと思ったら、反応時間は最重要ファクターの一つであることに間違いない。だから、クラウドの中の速度向上を、皆必死にやっている。だから、Gmailは日本でもサクサク動いた。

ユーザー側アクセス回線、ユーザーの使うPCやOSのスペックなどまでは、まだ今のところグーグルは手を出せない。でも、ブラウザーだったら可能。つまり、上記のようないろいろな話があってChromeを使ってみると、これはグーグルが着々と作りつつあるクラウドの「出口」だな、という印象を受けたわけだ。タブごとの独立性が高いことなども、「トランザクション」重視の使い方には便利。

特に、下記の記事で「Mozilla Foundationとの棲み分け」についての回答を読んでそんな気がした。つまり、「MozillaMozillaの考えがあってFirefoxを作っているけれど、グーグルが自分でやりたいことを全部押し付けるわけにはいかない」(=つまり、普通のブラウザー以上の何かを押し込みたいわけだ)ということだ。

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さらに考えると、グーグルの出発点であった、「ネット上のリンク構造の解明、あらゆる情報のインデックス化」という数学ギーク的な世界と、このところ一連のクラウド・インフラ系の動きがちょっと違う方向のような気がするのは、もしかしたら、こっちはエリック・シュミットの世界なんじゃないか、とふと思った。シュミットはサン・マイクロシステムズ出身で、「クラウドコンピューティング」と用語を最初に言い出したのも彼だ。サンというのは90年代から「ネットワーク・コンピューティング」を提唱していて、シュミットがその思想をグーグルに持ち込んだとしても不思議はない。

つまり、数学ギーク的な「ラリーとセルゲイのおうち」と基礎(=インフラ、検索技術)を共有したまま、「エリックのおうち」を2世代住宅のように建て増ししている感じ。そう考えると、一連のグーグルの動きの意味が理解できたような気がするのだ。そして、Chromeはこの「エリックのおうち」の玄関になるというわけだ。

アナリストの分析など読むと、「グーグルの新サービスは、ちょっとやってみて自然消滅するものが多すぎるし、たまたま成功しても収益には貢献しないものばかり」などという辛口批評もあり、確かに「火星の地図」とか「ブック・サーチ」などは、商売として意味あるの?と確かに思う。そういった、「ラリーとセルゲイのおうち」における動きとは一線を画して、「エリックのおうち」では着々と、ブラウザーを出したり、設備投資したり、サービス品目を増やしてアカウントを整理統合したり、企業向け営業部隊を増やしたり、といったことをやっているように思う。Androidもその路線で考えれば、方向性がわかるような気もするが、これについては実際に出てからまた考えよう。