取材するほうから取材されるほうへ−メディア・リスクとのつきあい

佐々木俊尚さんの毎日新聞関連の記事を読んで。

毎日新聞社内で何が起きているのか(上):佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan
毎日新聞社内で何が起きているのか(下):佐々木俊尚 ジャーナリストの視点 - CNET Japan

この話については、経緯を簡単に英訳してNewsvineに紹介した以外、特に私としては意見を公表していなかったのだけれど、佐々木さんの詳細な分析記事を読んで、感じたことをちょっと書いておく。

というのは、この話、あまりに「デジャヴュ」感があるのだ。はるか昔、80年代の終わり頃に、ビジネススクールで、こんなのとそっくりのケーススタディをやったことがある。その中では、攻撃のターゲットになったのは公害を出す企業で、攻撃するほうはテレビのドキュメンタリー番組(当時人気の高かった『60 Minutes』だったかどうか覚えていないが、なにしろそういった番組)の取材班である。公害企業は情報を出し渋り、結果として墓穴を掘る。では、あなたたち(生徒、ね)が将来企業の幹部になったとき、これを教訓として、メディアとどうつきあうべきなのか・・・ということを考える授業であった。

そんな昔まで遡らなくても、情報出し渋りで墓穴を掘った「原発」とか「自動車会社」とか、ケーススタディは枚挙に暇がない。不祥事がなくてすら、例えば私の古巣のNTTなど、大きいがゆえに、何があっても叩かれる立場になりやすい。

大きな会社ならば、「メディアとのつきあい」というのは、特にテレビ時代以降、いつもある意味でリスク・ファクターであり続けているし、常にこれを意識してメディアとつきあっている。まずは不祥事を起こさないことが第一だけれども、人間のやっていることだから、失敗を起こすこともある。そのときに、基本は「まず自分からできる限りの開示を行う」「真摯に対応する」のが肝心である、と授業でも教わった。「自分から」というのが大切。ここを失敗すると、問題がますます大きくなる。これは、過去のいろいろなケースを見ても、当たり前以前のことで、普通の企業の人はわかりきっているはずだ。しかし、メディア・リスクに慣れていないお役所系や慢心のためにこのことを忘れてしまった企業は、しばしば自爆する。

ところが、本来「攻撃する」ほうであるメディアは、自分が攻められる側になることに無防備なんだろうと思う。この場合、攻めているのは、新しいメディア「ネット」である。しかし、彼らはどうも、そもそもネットが「メディア」であると思っていないフシがあり、さらに墓穴は深い。

私は、ジャーナリストが本業ではないが、時々雑誌などに頼まれてインタビュー取材をする。それには慣れていたけれど、今年前半に本を出して、初めて自分が取材される立場になり、最初はとまどった。幸い、私の場合、取材する場合もされる場合も、基本はフレンドリーである。相手を攻撃するつもりで取材することも、私をけなすつもりで取材する人も、これまでのところない。だからあまり困らなかったが、もし最初から攻撃する気満々で取材されたら・・・?どんなに逃げても謝っても、メディアが攻撃の手を緩めなかったら・・・?

普通の大企業は、そういうリスクとこれまでも常に対峙してきた。メディア企業も、ついに普通の企業と同じ立場に立たされてしまった、ということだけだ。

この件では、佐々木さんの記事でも述べられているように、かねてから2ちゃんねるブロゴスフィアで、(他の伝統的メディアと比べても特に)毎日への反感が大きかったことや、電凸対象の企業がもともと「毎日に広告出すのやめたいな」と思っていた、という「堆積燃料」が大きかったという背景もある。

そういったことも含め、ここで起こっていることは、「ネットだから怖い」といった、ネットの特殊性の話ではない。いつの時代もあった、「メディア・リスク」の一つに過ぎない。

既存のメディアの権益に対し、それをチェック・アンド・バランスできる、別の新しいメディアが誕生した、ということに過ぎないのである。

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テクノロジー : 日経電子版
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