携帯の世界で欧州と新興国は「一衣帯水」という重大な事実

昨日のエントリーに、Tom-Dさんからご質問をいただいたこともあり、またちょうど関連する記事を8月15日号の日経コミュニケーション用に書いたところなので、この記事を補足する内容を書いておく。

2年前に、本を書こうとしてポシャった企画があり、そのために調べたときには、欧州全域をまとめると、米国を上回る市場規模をもつ、世界最大の通信市場だったので、驚いた記憶がある。例によって、携帯やブロードバンドの加入者数では今は中国が世界一だが、一人頭の金額が小さいため、欧州が一番ということだった。

さらに、メーカーという意味では、欧州メーカーは世界では圧倒的に強い。参考に携帯端末の世界シェア(今年第一四半期、ガートナーによる)は:

  1. ノキア 39.1%
  2. サムスン 14.4%
  3. モトローラ 10.2%
  4. LG 8.0%
  5. ソニーエリクソン 7.5%
  6. その他 20.8%

となっている。モトローラは前年の18%から大幅に落ち込み、それをノキアサムスン・LGが食っている状態。

昨日掲げたインフラ機器で、今主力なのは携帯電話向けのインフラだが、その市場では欧州方式のGSM新興国で主力になっている。つまり、欧州メーカーは、地元の強みを生かした欧州方式で、成長盛りの大型新興国にガンガン売っているワケだ。

ノキアの最新四半期財務発表では、ノキアの主要市場トップ10はこんなふうになる。

  1. 中国
  2. インド
  3. ドイツ
  4. イギリス
  5. アメリ
  6. ロシア
  7. スペイン
  8. イタリア
  9. インドネシア
  10. ブラジル

このうち、アメリカだけは大負けで落ち込みが激しく、イギリスは低成長だが、あとはどんどん伸びている。*1

欧州というのは、域内に「ロシア」*2という「BRICs」の一角を抱え、東欧やスペインなどを含め、「新興市場」を体の中に持っているようなものである。さらに、GSMという世界規格の強みを生かし、南米・アジア・アフリカなどの新興市場も「地続き」感覚なのである。

ノキアフィンランドエリクソンスウェーデンの会社であり、いずれもかつて「植民地」を持った国でもなく、ただ自国マーケットが小さいので、一生懸命国際戦略をやってきた会社。*3それが、GSMで勝ったおかげで、新興国を「一衣帯水」の状態にすることができた。

これから、新興国はますます伸び、ノキアエリクソンの物量はますます大きくなる。ニッチ・プレイヤーに対して、ますますコストの差が大きくなるし、研究開発も全方位でできる。

iPhoneに対して、日本のマスコミは「日本市場へのインパクト」などといって、相変わらずコップの中の嵐の話を騒ぎたてているが、世界で見ると、欧州と新興国の「一衣帯水」連合の勢力がこれからますます強くなる、という点は割りと見逃されているように思う。

では、ノキアiPhoneの関係は・・・という点については、来月の日経コミュニケーションを読んでね。^^

*1:アメリカもパラダイス鎖国

*2:ちなみに、欧州の中で加入者数で比べると、2000年代初め頃はイタリアが一番とか、ワケがわからなかったのだが、今はダントツでロシアがトップ。世界で見ても、ロシアはそろそろ日本を追い抜くか、近いかぐらいになっているはず。

*3:ノキアの社内公用語フィンランド語でなく英語なのだそうだ。