Auditory Integration Training(AIT)の診断

我が家の次男坊Tは、Auditory Processing Disorder(APD)、日本語でいうと「中枢性聴覚処理障害」というらしいが、どうもそれらしい、ということは以前から指摘されている。APDにもいろいろあるのだが、彼の場合特に顕著なのがHyperacusis(ハイパーアキューシズ、特定の音に異常に敏感な症状)がある。*1学校で、先生の指示に従わず、ガタガタと多動だったり、逆に課題にまったく手をつけずにボーっとしていたり、耳をふさいで床にごろりと寝てしまったり、壁にはりついて隠れたりする、というので、年がら年中先生から呼び出しを食らっている。話していると、先生は、本当は「ADHDの薬を飲ませろ」と喉まで出掛かっているのがよくわかる。しかし、家では全くこういう行動はしない。学校のノイズの多い環境がダメなだけで、ADHDではない、という意見で私と亭主は一致している。

長男のほうは、目から入った情報のプロセスに問題のある「視覚発達障害」が原因で、授業中の多動とか、フラストレーションからくる自傷行為などがあったが、ビジョンセラピーで劇的に改善された。*2それで、次男坊のほうも一応、ビジョンの検査を受けさせたところ、「トラッキング」が非常に悪い(目があちこちに飛んでしまって、文字列を追えない)ということで、ビジョンセラピーをやっている。

現在、セラピーの期間をほぼ半分過ぎたところで、進捗の検査があり、トラッキングはかなりよくなっている、との診断だった。しかし、残念ながらそれが授業中の態度の改善に全く役立っていない。先週から今週にかけても、先生が困り果てて連絡してきたので、こちらもまたあせり始めた。

APDについていろいろネットで調べたが、どうもビジョンほど確立された理論や対策があるわけではないらしいと思い、どうしようもないなら後回し、と思って、ビジョンセラピーが終ってからゆっくり考えようと思っていたが、(本も書き終わったことだし)先生からも亭主からもせかされ、San Mateoにいる専門家(Audiologist)に連絡した。ビジョンセラピーの先生からも勧められた専門家だ。

それで、今日検査をしてみた。「APD全般の包括的な検査にするか、それともとりあえずHyperacusisの対策であるAITのスクリーニング検査にするか」と聞かれ、私の直感としてはHyperacusisが一番大きな問題と思っているので、後者を選んだ。

検査は1時間半ほど。まず、異なる周波数の音を異なる大きさで聞かせる検査で、特定の音に敏感な、Hyperacusisのグラフのパターンが出た。特に敏感な周波数が、ちょうど人の声と同じあたりで、Tは「人のざわめき」が苦手なことが裏付けられた。それから、ノイズを混ぜた単語を聞き分けるテストで、特に左の耳の機能が悪いことがわかった。

専門家の説明によると、こういうことだそうだ。普通、耳からはいった音は、脳幹までは生の音が全部そのまま達するのだが、そのあと脳の中で、必要のない音をフィルターする作業が行われる。超職業病的な説明で、普通の人はかえってわからないかもしれないが、ノイズの多い環境で使う携帯電話には同じようなフィルター機能があり、例えば車の中でラジオがかかっている状態で電話しても、相手にはラジオの音はほとんど聞こえない。それと同じで、先生の声に集中して聞いているとき、隣の子供の話し声や外から聞こえるノイズなどは、無意識のうちに抑えられている。しかし、Tの脳ではこのフィルターがちゃんと機能していない。このため、ノイズが耐えられないほどのストレスになり、先生の声も含めて外界からはいってくる音を全部遮断してしまう。ノイズから逃れようとして、床や壁にはりつく。

さらに、右の脳で生まれる思考が、言語の形にプロセスされるためには左脳まで達して正しく処理されなければいけないが、この右と左の間を結ぶ幹線道路が、どうやらスローダウンしているらしい。このため、フラストレーションで多動になる。

上記のフィルター機能も、この幹線道路も、無意識のうちに行われる機能。視覚では、「目」はかなり意識的に動かすことができるので、訓練もやりやすいが、聴覚はどうするのか。

専門家のオススメは、AITというトレーニングである。ヨーロッパ発のやり方で、どうやらアメリカでもまだあまり広く知られていないようだ。短期間に集中して特別に処方した音楽を聞かせ、(1)鼓膜とその周りの小さい骨に対して、いわば「柔軟運動」をさせてフレキシビリティを増し、より多種の周波数に正常に対応できるようにする、(2)脳の中で、この無意識機能をつかさどる「奥のほう」の部分を活性化させる、というのが目的だそうだ。

こうした脳の機能問題は、だいたい複合しているので、彼女の説明では、AITをするとビジョンのトラッキング訓練や、学校のスピーチセラピーでやっている言語訓練の効果も増すことがあるのだそうだ。

Wikipediaによると、こうした方法は「医学的」に確立したものではないらしい。AITのウェブページでも、「これは教育法の一種で、医療ではありません」と謳っている。まぁ、そういうことらしい。それでも、薬でも手術でもなく、効果がないリスクはあるが害はなさそうなので、やらせてみようと思う。

2週間の集中トレーニングなので、ちょうど再来週の冬休みから始めてみよう、ということになった。

いやーしかし、子供たちの学習障害問題では、毎回目から鱗の事態が次々と起こる。本当にこれでうまくいくかどうか、やってみてまたご報告しようと思う。

中枢性聴覚処理障害の関連サイトとして、見つけたものをいくつか挙げておく。

AIT, Auditory Integration Training, Berard AIT, Auditory Integration
http://www.ashappy.net/adhd/sensory/ld6.html
http://www.hyperacusis.net/hyperacusis/home/default.asp
Central Auditory Processing; Audiology; Hearing Specialist; CAPD;Learning Disabilities Therapy; Fast ForWord: Judith W. Paton, Audiologist.

*1:詳細については、「聴覚発達障害」カテゴリーの過去エントリーを参照してほしい。

*2:視覚については、「視覚発達障害」のカテゴリーで過去のエントリーをまとめて読める