「あちら側」の物理的限界

日経の一面トップに、「地中に情報処理拠点」という記事が載っているが、これって面白い。

「あちら側」にあるネット世界は、「仮想」「サイバー」の世界のように思ってしまうが、その正体はサーバー群なわけで、サーバー君たちはカスミを食って生きているわけではなく、熱を冷却する分も含めた、膨大な電力を食っている。で、電力はカスミからできるのではなく、石油を燃やして作るのが大半なので、アメリカでもここしばらく、石油の値段が上がって電力コストが上がるにつれて、データセンターのコストが上がっている。グーグルやマイクロソフトなどが、巨大なデータセンターをオレゴン州某所に建てているが、とにかく電力コストの安いところ・・・と必死になってやっているのだ。で、日本でも(新聞では、温暖化対策、となっているけれど、なにしろ)消費電力対策のために、サーバーを地面に埋めるという構想がある、ということらしい。「え?熱がこもるじゃん?」と思ったら、地下水を使って水冷式にする、んだそうだ。そしたら、ついでにその上に「サーバー温泉」が開業できるなー♪

サーバー君たちと私のパソコンをつないでいる通信ネットワークにしても、プレゼンの図では雲の絵が使われるけれど、カスミのかたまりなのではない。地面を掘って光ファイバーを埋めたり、電柱を立てて電話線を張ったり、無線塔を建てたり、それをヘルメットかぶった人が保守したり、誰かが膨大なお金をかけてやっている。90年代後半に過剰投資で光ファイバーが余り、価格が暴落したけれど、その後業界の統合が進んだ。DWDM以後、大幅に供給が増えるような技術は実用化されていないこともあり、供給側の増加ペースは落ちていて、一方ブロードバンドアクセスの普及とネット映像の爆発的増大のおかげで需要は幾何級数的に増えている。高速道路のレーン数は増えないのに、入り口が数倍に広がって巨大なトレーラー・トラックが大量に流れ込んでいるところを想像すればよい。そうなると、ミクロ経済学の基本からいうと、価格は上がることになる。実際、アメリカでは、部分的にバックボーンのコストは上がり始めている。バックボーンの値段は、一方的に下がり続けるものではなく、市況商品と同じく、需給関係により上下するものだと思っている。

「バックボーンの景気変動10年周期説」について、詳しくは以前私がKDDI総研のレポートに寄稿したものを参照。

KDDI R&A 「Web2.0/クラウドコンピューティングと通信インフラ」

「あちら側」の仮想世界も、こういった物理的限界を抱えている。電話会社やデータセンター会社は、これと戦いながら、皆様がいつでも超低コストでブログを書いたり検索をしたり動画を見たりできるように、努力をしているワケだが、常にこうした材料が安価に提供されるという前提は、必ずしも絶対のことではなく、時と場合により、価格が変動したりする。

たとえば先日書いたWiMaxでも、こうした物理的限界やコストを考えると、どうも私の頭の中では帳尻が合わない感じがすることがある。(WiMaxの帳尻の話は、また別の記事に書きます)ネット界のみなさんからすると、電話会社は不当な利益をむさぼる仮想敵に見えるかもしれないけれど、そうばかりではない。まー、いきなりネットワーク価格が暴騰することはないと思うけれど、ちょっと長い先のことを考えるとき、「あちら側」にある物理的限界が、「ネットワークは安い」という前提に、どれほどのインパクトがあるのかな・・・と思いを馳せてしまう。1970年代、石油危機以前には、「石油は安い」というのを誰も信じて疑わなかったんだもんなー。