スプリントとクリアワイヤ破談 → WiMaxの行方がますます混迷
日本では「スプリントとクリアワイヤ」と言っても、しっかりとWiMaxを追いかけている人でないとわからないと思うし、ウォールストリート・ジャーナルでも扱いはかなり小さいのだが、個人的に「をー!」と思っちゃった。
http://www.informationweek.com/blog/main/archives/2007/11/sprint_clearwir.html
WiMaxは、ご存知、ブロードバンド無線では今世界で最も標準的と見なされている技術規格。そのうち、主に過疎地のDSL代替として使われる「固定ブロードバンド」はすでに2004年頃に規格が固まって、サービスも欧米あちこちでやっている。そのうち、米国で最大の固定ブロードバンド事業者が、スプリントとクリアワイヤの2社である。スプリントは米国第三位の携帯電話会社でもあり、また移動中でも使える「モバイル・ブロードバンド」への転用可能な2.5GHz周波数を米国で最も数多く持っている。クリアワイヤは、現在AT&Tワイヤレスの一部となっているマッコー・ワイヤレスというのを創業した、携帯業界で有名なアントレプレナーであるクレイグ・マッコーがやっているベンチャー会社。*1
少なくともアメリカではビジネスモデルが見えないモバイルWiMaxなのだが、2.5GHz周波数をめぐる政治的背景から、スプリントはWiMax推進をぶちあげた。2.5GHzは米国ではネクステルとスプリントが最大数の免許を持っていたのだが、スプリントはネクステルを買収したので、両方あわせると支配的なシェアとなる。そのため、買収の条件として、政府から「この周波数をちゃんと使え」という義務を課されたので、それじゃぁモバイルWiMaxをやる、という話になったわけだ。
ところが、ネクステルの買収と、その同じコインの裏側ともいえるWiMax推進の責任者であった、Gary Forseeが、業績悪化(その背景にはネクステル買収は失敗だった、という株主のプレッシャー)のために辞任。そのため、WiMaxの推進力が低下した。
クリアワイヤとの提携は、両方で頑張ってモバイルWiMaxを展開して、足りない地域同士を補完しましょう、というものになるはずだった。7月にMOUを締結し、60日以内に正式契約とする、となっていたのが、Forsee辞任で大幅に見直しがかかった、ということらしい。正式契約に至らず、破談となった。
スプリントが大多数の免許を持っているのだから、実質的に提携破談自体のインパクトはたいしたことないかもしれないが、スプリント内部でWiMax戦略の見直しが進んでいる=推進力が低下している、ということの象徴だと私には見えるので、そちらのほうが問題だと思う。
日本では、アメリカよりもWiMaxへの顕在需要が大きいと思われ、2.5GHzをめぐって戦いが繰り広げられているが、アメリカで勢いがなくなると、日本でのタイミングには十分注意すべきと思う。「WiMaxが今後主流になる」という前提が崩れるかもしれないからだ。
スプリントの数量がなくなると、インテルのWiMaxチップの数量が出ず、コストが十分下がらないことがありうる。また、現在米国では700MHzの周波数で大騒ぎしているが、これは携帯電話と同様に上下別の周波数がペアになっていて、2.5GHzのWiMax(上下同じ周波数を使用)はそのまま使えない。*2AT&Tワイヤレスが700MHz免許をたくさん持っているアロハ・ワイヤレスを最近買収し、来年にはそれと近い700MHzがまた競売される。LTEとか、クアルコムのUMBとか、そういった技術をここで使って、そちらのほうが主流になってしまうかもしれない。
ま、インテルは一応こう言っているが。
InformationWeek, serving the information needs of the Business Technology Community
WiMaxの技術そのものの良し悪しは、はっきり言って私にはわからない。例えばUMBのモトになったフラリオンの技術ならば、2002年頃から動態デモをやっていて何度も見ているので、技術屋でない私にも、どういう良さと限界があるのか、というのが感覚的にわかるのだが、WiMaxではまだ展示会などで動態展示に出会っていないからだ。(最近は、実際にモノが出ているらしいけれど。どなたか、見せてくださる方があれば是非お願いします!)
ただ、繰り返すが、日本でのWiMax推進については、ちょっと慎重に、様子を見極めてから、と思う。日本が先に行き過ぎると、またもや「ガラパゴス」とか言われてしまうので。