グーグルAndroidは「局地戦」と見る、電話屋の見方

グーグルの携帯OSの話は、プレスもブログ界もエキサイトして、たくさんカバーされているので、私としては出番がないのだが、こういう話が読みたい人も世の中には2-3人ぐらいはいるかもしれない、と思って書いてみる。

グーグルフォンの噂がぐるぐる流れる中、いったいどんな恐るべきものが・・・と期待していたところ、出たニュースを見てちょっと拍子抜け、「んー??」と思っちゃったのだ。パソコン屋ではないので、ソフトの世界はよくわからないが、「要するに、リナックスでしょ?」というのが電話屋である私の第一印象。

携帯電話の中で、OSを搭載した「スマートフォン」と呼ばれるカテゴリーがあるのは皆さんご存知のとおり。このスマートフォンのOSは、世界的には、というかもっと正確に言うと欧州では、ノキア系のシンビアンが最大のシェアを持つ。アメリカではブラックベリーの独自OSが圧倒的に強い。ただし、欧州=シンビアン勢のいう「スマートフォン」と、アメリカでの「スマートフォン」はちょっと定義が違うので、調査する会社の定義の仕方によって、シェアの数字などはかなり違ったりする。この2大勢力に、長年挑戦しながらなかなか浸透できないのがマイクロソフトWindows Mobile、かつてはアメリカではちょっとした勢力だったのがこのところ負けっぱなしなのがPalm OS

この2強2弱のうち、「弱」のマイクロソフトが2004-5年頃から猛チャージをかけていて、ちょうどこの頃、スマートフォン市場がアメリカでも「大ブレーク」の成長を見せ始めた。一方、負け続けのPalm OSは、日本のアクセスが買収して、徐々にリナックスに巻き取られている。これほかにも、スマートフォンOSにリナックスを使う試みは何度も行われていて、日本でもドコモやNECなどが試している。

で、リナックススマートフォンOSで今後徐々に力を持っていく可能性はあるだろうな、というところに、グーグルがリナックスの「大旦那」として登場した、という感じ。そして、この長年続くOS戦争に最近参戦した大物がご存知アップルで、iPhoneのおかげで、スマートフォンの大衆市場での認知度が高まり、ますますスマートフォン分野の競争と成長が促進されるだろう。先ごろのCTIA-ITでも、久々にマイクロソフトのバルマーがやってきたように、スマートフォンの成長とともにこの分野への参入と既存勢力とのせめぎあいはヒートアップしている。

速報CTIA-IT 第一日 マイクロソフト版「ダークサイドからの脱出」 - Tech Mom from Silicon Valley

・・・と、リポーター風に書くとこうなるのだが、どうも私には「コップの中の嵐」「局地戦」のように見えてしまうのだ。昨日読んだ日経新聞に、シンビアンのCEOのインタビューが載っていたが、彼が開口一番「OSを搭載している携帯電話は、全体の7%に過ぎない」と言っており、私の印象もまさにそれが原因だ。日経新聞でも「世界の年間出荷十億台の携帯電話市場うんぬん・・」と2回も枕詞に使っているが、実際にこの話が適用されるのは、そのうち7%に過ぎない。「OS」と聞いた瞬間、「なんだ、携帯電話全体の話じゃなく、この狭いスマートフォン市場にひしめきあっている中に、もう一つプレイヤーが増えるのか・・・」と思ったのだ。

確かに、スマートフォンは急成長していて、すでに飽和状態にある先進国では、ほぼ唯一の見通しの明るい分野である。先端的なものが生まれてくる可能性を持っており、それにアップルやグーグルが起爆剤となる可能性もある。

でも、そのうち7%が15%になるかもしれないけれど、それでもやはり、大多数はOSを搭載しない従来型の携帯電話が続く、と私には思える。スマートフォンがこれほどの大ブレークするちょっと前、日本で講演会をやったときに「今後、スマートフォンの値段が下がったら、これが市場の中心となるか?」という質問を受けて、「そういうことはないと思う」と答えたのだが、今でもその考えは変わっていない。先端ユーザーでない、一般大衆の隅々までが使う電話というものの性質からいって、完全な「パソコン化」はありえない、と思っている。さらに、現在、携帯電話端末市場の物量的な主戦場は、中国・インド・ロシアなどの新興マーケットであり、スマートフォンの量的拡大を上回る勢いでこうした新興市場向けの普通の携帯も増えるので、全体のバランスはあまり大きく崩れないと思う。そして、こうした「パンピー」向けの普通の携帯の世界では、メーカーとキャリアの垂直統合的な関係が続くと思う。批判はありながらも、このやり方が今のところ理にかなっているからだ。

だから、100年後にはわからないけれど、この先10年ぐらいの間の話に限定すれば、Androidは、先端的な「スマートフォン」の分野では面白いが、メーカーとキャリアの力関係や携帯端末市場の勢力図に革新的な影響力はない、つまり「局地戦」にとどまる、と私は思っている。

そういえば、その昔、シンビアンが立ち上がったときも、日本からもドコモや端末メーカーがわんさか参加して、大騒ぎだったなぁ。で、結局一人、また一人と去っていき、最後にはノキアだけが残った。「デジャヴュ」感。

ちなみに、「先進国」といったけれど、日本はカヤの外。スマートフォン市場は育っていない。それについてもいろいろ思うところもあるが、これはまた別の機会に。