日本ガラパゴス なつやすみにっき(2) ネットのアプライエンス化?

もう数日前のことだが、慶応大学デジタル・メディア・コンテンツ機構(DMC)の友人が誘ってくれた謎の会合に行ってきた。DMCの英語ウェブマガジンにはときどき寄稿させてもらっているが、動画配信システムVolumeOneを独自開発したりしているのでテック系の場所かと思いきや、この私の長年の友人、岩渕潤子は、ドがつくアート系の人間であり、今回の会合も、行ってみたらド・アート系が主。ポンピドゥー・センターから来たフランス人とか、金箔でタトゥーを作った前衛伝統工芸おにいさんとか、私の生態系にはおよそ存在しない方々とお会いすることができたが、話にはほとんどついていけなかった。

サテ、私を誘ってくれたのはなぜかというと、携帯コンテンツのサミー・ネットワークスがauで最近始めた「モバプリ」というサービスのデモがあったからだ。

このサービスは、携帯ブラウザー経由で著作権つきの画像コンテンツを有料販売し、これを赤外線経由でプリンターに出力できる、というもの。従来は著作権管理の問題があって、販売したコンテンツは携帯から外に出せなかったが、このシステムではプリンターに出す部分にも著作権管理のコントロールが利く。例えば、絵葉書大の写真を購入したとすると、プリントアウトする大きさ・解像度・枚数は携帯電話とプリンターの間で管理される。写真を提供した写真家に支払われる権利料には、枚数だけでなく、大きさや解像度もかかわるからだ。一方、どのプリンターで出力したか(機種・シリアル番号など)のデータも、携帯システム側に記録される。端末にコンテンツそのものはダウンロードされず、単にこれらの出力データを管理するだけ。写真や絵だけでなく、シールやタトゥーなども販売可能だそうだ。

仕組みそのものから言えば、パソコンのほうが同じことをもっと簡単にできそうなものだ。この仕組みでは、プリンター側にソフト対応が必要なので、現在のところエプソンの最新モデルでないとできないし、欲しいものの閲覧・選択もパソコンのほうがやりやすそう。しかし、提供側からすると、ハッキングが簡単でユーザー管理のできないパソコン・ウェブではできない、という。

Web2.0系のオープン思想からすると許しがたいクローズド・システムなのだが、面白いと思ったのが、このときの聴衆が皆「提供側」のアーティストたちであり、彼らが一様にこのやり方に大変エキサイトしたこと。ポイントは、サミーが「ロングテール型コンテンツ」を取り込む仕組みを用意していることだ。これまでの携帯コンテンツの流れから言うと、サミー側が芸能事務所と交渉して権利を獲得し、アイドル画像を販売する、みたいなものになりがちだが、今回サミーでは、「自分の作品を販売したいアーティストは、デジタルのオリジナルさえ持ち込めば、サミーがフォーマット化など全部やり、売れた分の33%(!)をアーティストに還元します」という。値段もアーティストが設定できる。正確には、YouTubeのように誰でもアップできるものではなく、きちんと著作権や肖像権をクリアできるプロの作品が対象なので、「ロングテール」というより私好みの「ミドルテール商売」ではあるが、なかなか面白い。

少し前に、ドコモUSA Labsの講演会でオックスフォード大学のJonathan Zittrain氏による「Generative Anarchy」なる講演を聴いてから、「ネットワークのアプライエンス化現象」というのを興味深く見ている。ネットやパソコンのように、上に載せるものがなければ使えない汎用的なものを「generative」と呼び、これが伸張するにつれ、generativeなために発生するアナーキーに耐えられない人のために、その反対の極にある「アプライエンス化」も一方で促進されているという話だった。(この要約の仕方は乱暴なので、なんのことやらよくわからないと思うが、適当にスルーしてください)携帯電話とその周辺は、generativeなパソコン・ネットとは一線を画した「クローズドシステム」の牙城であり、このサミーのサービスもまさにその一つ。

そして、このクローズドシステムというのが、必ずしもメーカーやキャリアのような、「強者」による金儲けだけでなく、「弱者」といっていい「ミドルテール」型コンテンツ提供者や、ユーザー自身も支持していることが多い、というのが私の感想。

日本だけの話ではない。「iPhone」や「TiVo+Amazon」など、アメリカでもいろいろある。このあたり、中島さんも書いておられる。

中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル - CNET Japan

だからどう、という話はとりあえずさておき、ここにもあった、と思ったということで。