Middle Tailコンテンツが少しは商売になる兆し?

ウェブ動画の台頭に関連して、テレビ番組や映画などの本格的メディアコンテンツ(「Head」)でもなく、ティーンエージャーが音楽に合わせて口パクしているしょーもないホームビデオ(「Long Tail」)でもなく、ちゃんとしたプロが作ったけれど現在のメディアには乗らない「Middle Tail」のコンテンツの動きに以前から注目している。

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このMiddle Tailという用語は、私が勝手に使っているのだが、最近初めて、この用語を他の人が(もちろん、私とは全く無関係に)使っているのを聞いて、ちょっと嬉しかった。テック系ポッドキャスト「TWiT」の中で、イギリスのジャーナリストが、Joostについて論評するのに使った。もちろん、意味合いは私の言っているのと全く同じだ。(Joostについては後ほど詳説)

YouTubeなどでブレークしたいわゆるViral Video(口コミで広がるビデオ)が、だんだんと「ジャンル」として定着しつつあり、「マネタイズ」する手法が広がってきた。現在のところ、このジャンルにはまりやすいのは、テレビ番組や映画などの「long form」のものより、数分程度の「short form」のものが多い。アップロードやダウンロードにもあまり時間や手間がかからず、制作費も安く、手軽なためである。

これまでは、Middle Tailコンテンツ制作者が報酬を得るための手段としては、

  1. まずはYouTubeや自主制作ポッドキャストなどで、無料で配信して固定客を集める
  2. 人気が出てきたら、番組にスポンサーを募る
  3. Revverなど、広告費を制作者に還元するサイトを利用する
  4. GoogleVideoで単品販売、ただしGoogleVideo自体があまり人気がないのであまり期待できず
  5. もっと売れてきたらDVDを制作して販売する
  6. ついでに自分のサイトでTシャツやマグカップを売る
  7. 最終的には、テレビや映画などのメジャー・メディアへの制作・出演に進出する

といった程度のことしかできなかった。自分でスポンサーを募るためにはかなりの視聴者を集めないと無理だし、Revverなどの利益還元サイトはYouTubeと比べてトラフィックが極端に小さいため、そもそも広告費収入はそれほど見込めない。そして、最終的にメジャーへの進出を目指そうと思っている人でないと、最終的にはなかなか帳尻が合わない。

そんな流れがちょっと変わってきた。このブログでも、サンフランシスコ映画祭でモバイル動画部門が設けられたことを書いたが、もっとメジャーな独立系映画の祭典、サンダンス映画祭でも、ショートフィルム部門が今年初めて設けられた。

http://festival.sundance.org/2007/

さらに、この部門の出展作品が、サイトで無料で見られる上、iTunes Music Storeで、単品販売されるようになった。サンダンス出展作となれば、Middle Tailの中でも「中の上上上」に属する、特に上質なコンテンツではある。しかし、iTMSは、短いビデオ作品を有効に販売するための現存での最上の手段として期待されながら、従来はメジャーなメディア・コンテンツばかりだったため、そこにMiddle Tail的なショートフィルムが品揃えされるということで、メディア・ギークたちはエキサイトしている。アップルは、いわゆるViral Video的なものをアグリゲートする機能を持っていないが、サンダンスのような、MiddleTailコンテンツをうまくシンジケートするメディア・プレイヤーが間にはいれば、今以上にこの分野が拡大する可能性もある。

また、ダボス会議YouTube創立者チャド・ハーレイが、YouTubeでもコンテンツ制作者になんらかの報酬を還元するという方針を発表。具体的な方法や時期はまだ明らかになっていないが、複数のプランを用意するのではないかと見られている。その裏には、良質なMiddle Tailコンテンツというのが実はそれほど多くなく、Viral videoブームで取り合いになっているという事情がありそうだ。これにより、Revverなどの中小利益還元サイトはいよいよ大幅に淘汰されると言われているが、短期的にはこれらのサイトの間でも報酬支払いが拡大して、取り合いが激しくなっているという。トラフィックのはるかに大きいYouTubeで、本格的に広告を販売して報酬を支払うようになったら、中小サイトはふっとぶかもしれないが、制作者にとっては朗報である。

http://www.chicagotribune.com/business/chi-0701300064jan30,0,3998548.story?coll=chi-bizfront-hed
http://www.businessweek.com/technology/content/feb2007/tc20070201_344549.htm?campaign_id=rss_daily

Joostについては、まだまだステルス・モードから完全に抜けておらず、評価も分かれているようだが、まぁとにかく、話題を集めていることは間違いない。KaZaASkypeを創業した二人組がやっているプロジェクトで、昨年末頃まではVenice Projectと呼ばれる秘密計画だったが、1月にJoostというブランド名で登場した。ウェブ上で、テレビ番組やショートフィルムなどのメディア・コンテンツを、DVD並みの高画質で配信するシステムだという。今のところ、ベータ・ユーザーとしてのトークンを持っていないと利用できないが、例によってテック系ポッドキャストトークンを持っている人の話を聞くと、驚くべき高画質ということで、これまたMiddleTailコンテンツの配信ルートとして期待を集めており、冒頭のイギリスのジャーナリスト、Will Harris氏も、そういう文脈で話をしていた。ただし、今のところ、この二人はテレビ番組を調達すべく、大手メディア企業ともっぱら交渉しているということで、「そりゃあお門違いだ、もっとMiddleTailに力を入れろ」という反論も聞こえる。KaZaAでもSkypeでも、音楽レーベルや電話会社などの大手既存勢力を大幅に敵にまわした二人でもあるため、この既存勢力相手の交渉がうまくいくのかどうかはなんとも言えない。

Joost Website

さて、これはMiddleTailではなく、テレビ番組の話だが、もう一つ荒唐無稽とも思えるプロジェクトの話を読んだ。SlingMediaはご存知だろう。いわゆるプレース・シフティング用の機器で、自宅のテレビに設置して、ネットにつなぐと、出張先でもネット経由でパソコンで自宅のテレビが見られる。DVRにつなげば、録画しておいたものも見られる。ケーブルテレビ会社が目の敵にしているベンチャー企業である。このSlingMediaが計画するClip+Slingサービスでは、ユーザーが自分で好きな場面を切り取ったクリップを、同社のサイトにアップロードしてシェアできるようにし、そのクリップにさらに広告を取って、元の番組を配信したテレビ会社にも還元する、のだそうだ。もちろん、そんなに話は簡単ではなく、出演者や制作者にどうやって利益を分配するか、とか、配信したテレビ局自身が著作権者でない場合はどうするか、など、いろいろな問題はある。しかし、CEOは、「まーまずは、やってみて、それがうまく行ったらあとで細かいことは考えようや」と言って、テレビ局幹部を説いて回っているとか。どうせタダで無断でYouTubeにクリップがあげられてしまうなら、それを積極的に活用する方法を見つけようや、というワケだ。いやー、好きだなー、このノリ!このノリは、絶対シリコンバレーだと思ったら、やっぱり我が地元近く、フォスターシティのSafewayスーパーの近くだ。そしてなんと、それにCBSが乗って、ベータに参加するのだそうだ。日本では、ゼッタイにありえないだろうなー。

http://www.slingcommunity.com/blog/137/18390/Fortune--YouTube-without-the-lip-synching-dudes/;jsessionid=08EA4917A066A934BE0C06D7CCE028A5

こうして、ますますアメリカのMiddleTailコンテンツは、質量ともに向上していく、日本はますます乗り遅れる・・・ような気がする。(溜息・・)