タッチスクリーン原始時代回想録とiPhone

いまさらiPhoneの話、と思うのだが、先日友人と話をしていたら、「みちさん、タッチスクリーンの電話を使ったことあるんですかっ!それって貴重な経験ですよ!」と言われたので、調子に乗ってそのときの回想録をちょっと書きとめておく。最近の大画面のスマートフォンでもおそらく、同じような感じではないかと思うが、私の話はなんせ、大昔の話だ。

最近、iPhoneの衝撃で、「これからはタッチスクリーン!」という声もあるようだ。まぁ、何事もケースバイケースなのだが、携帯電話に関してはちょっと気をつけたほうがいいと思っている。今のTreoBlackberryがああいう形をしているのも、折りたたみ式の携帯がやっぱり主流なのも、意味があると思っている。

話は1999年にさかのぼる。Palm社の創業者が自らPalmからスピンオフして作ったHandspringという会社(その後Palmと合併)が、Visorなる初代のスマートフォンを出した。これは、フラットなタッチスクリーン画面の、PalmOSPDAにドックがついていて、そこに電話モジュールを差し込むことができるようになっている代物であった。私はこれが気に入って、早速買って使い出した。電話はこのときも最初はシンギュラーしかサービスがなく、シンギュラーと契約した。PDAのアドレス帳からスタイラスで番号をタッチすれば電話がかけられるので、便利だと思った。

しかし、これがものすごく使いにくかったのだ。まず、平らなスクリーンに出てくる画像を正確に触れることが、意外に難しい。どこかに座って作業しているときなら、しっかり見ながらスタイラスで作業もできるが、車を運転していたり(この点については「それはダメよ」とのご指摘もいただいているが、現実の話として避けがたい)歩きながらなど、携帯を使う場面の多くは片手しか使えないことが多い。電話モードで大きなテンキーが出ているときですら、やりづらくてイライラしたし、PDAモードからだと細い行を正確に選ぶのは手ではまず無理。電話がかかってきて受けるときも、パッと受信ボタンを押せない。

それから、スクリーンが顔にべったりくっつくので、顔の脂が画面について汚くなってしまう。お化粧をしているとますます気になる。画面の大きいブラックベリーのユーザーでも、この問題が指摘されている。今使っているブラックベリー・パールの場合は、画面が小さめなので、スクリーン部は耳の表面積にほぼ収まり、頬につくのはボタン部だけとなる。折りたたみ式電話では、顔のカーブと電話の開く角度がちょうどよくなっており、エルゴノミクス(=しっくり感)から言うとやはり折りたたみ式はベストだと思う。

これに加えて、ハード的な問題があった(SIMまわりがなんだか不安定で、電話モードが使えなくなることが頻発)ことで、ついに電話として使うのをやめてしまった。

そのうち、Handspringでは、次の世代のスマートフォンとしてTreoを出したわけだが、どうやら私と同じ評価の人が多かったらしく、タッチスクリーンでなく固定ボタンがついた。それ以降の世代のTreoはすべて、固定ボタン式である。

iPhoneを見たときに、このときのことを思い出した。せっかくキレイな画面なのに、あのまま電話として使ったらすぐベタベタになるなー(てことは、ヘッドセットを使うのが必須!?それも面倒なんだよなー)、番号押しにくそうだなー、と思った。(顔が当たっても、画面を押したとは認識しないという機能はついているが。)スタイラスなんていらないよ、who needs stylus!?とジョブスは言ってるけど、スタイラスなしでは、アドレス帳の行をセレクトするのも、テキストをタイプするのも、ホントはできそうにない。(数少ない実際にiPhoneを触ってみたリポーターの話でも、テキスト入力はやりにくいと言っていた。)

ブラックベリーではハード的に行をスクロールできる部分(わきのダイヤルや、パールでは中央の白いボール)が必ずついているのも、やはりそのほうが片手で操作しやすいからだ。これがあれば、アドレス帳から細い行を選ぶことも簡単にできる。iPhoneでは、両手がつかえないと行の選択がやりにくそうだ。

レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ディパーテッド」では、ポケットに入れたまま携帯電話でメールを打つのがかなり重要なポイントなのだが、iPhoneだったら、あのお話は成立しないなー、などとアホなこともふと考えたり。

まーそういうわけで、私のiPhone第一報のときの、第一印象となった。

ウワサのiPhone、見てきました - Tech Mom from Silicon Valley

もう一つ、タッチスクリーンとは違う話だが、どうも落としそうでこわい、というのも私には気になる。私は乱雑な生活を送っているので、電話をハンドバッグに入れられない。子供の必需品と仕事用のガジェットをまとめて大きなバッグに入れて持ち歩く生活をしていると、バッグから電話をパッと取り出すことができない。また、家の中ではそもそもバッグなど持ち歩かない。男性は胸ポケットというのもあるが、最近は背広を着ない人も多いので、私も含めて、腰のベルトのところにクリップでつけるのがアメリカでは普通だろう。ところが、腰につけていると、車の乗り降り、かがんだとき、トイレなどで、よく落とすのである。それで、耐衝撃性のために革のカバーをつけている。

今使っている折りたたみ式の電話は、パカっとあけた中は透明のビニールなので、革のカバーを外さずに電話をそのまま使える。ブラックベリーでは、同じように革のクリップ式ケースを買ったのだが、結局いちいちケースから取り出さないと使えない。それが面倒だし、外出先で何かしながら出し入れすると落としそうで、メインの電話は結局折りたたみ式の(今や旧式)電話のままである。

iPhoneも、ブラックベリーと同じことになるだろう。流しっぱなしのiPodよりも、電話のほうが、操作が必要な回数が多く、そのたびに出し入れするのに、つるっと落とさないだろうか??あのスリムで透明な画面では、落としたら一発でパリンと行きそうだ。

もちろん、電池寿命の問題もある。そういうワケで、私のがさつなライフスタイル(+そそっかしい性格)では、iPhoneだけを電話として持ち歩くというのはありえなさそうだ。

ネット機器としてはテキスト入力が難しそうなのもやや難点。これから、特にアメリカでは携帯機器は、「Web2.0の参加型ネット・ライフへの入力デバイス」として重要度を増すのではないかと思っているので、入力がやりやすくないと、ネット機器としてはちょっとねー、と思ってしまう。

いや、ネガティブな話ばかりになってしまった。しかし、第一印象のウェブ閲覧+動画用iPodとしての魅力は、確かにあるのだ。こうしたネガティブな面が、iPhoneが市場に出るまでに、なんらかの方法で克服されるか、または気にならないほどになっていることを祈りたい。