「邦画ブーム」に見る、負け組逆転の可能性

趣味で書いている日本映画の英語ブログで、このところの「邦画ブーム」をずっと見ていて、経営学の観点からちょっと面白い点があると思っている。映画業界に関してはド素人なので、これはファンの単純な感想として読んでほしい。

どの産業でも、ほっておけばトップの企業にシェアが集中しがちなのは同じで、特にネットの世界ではこれが激しい。トップのグーグルやeBay(日本ではヤフオク)に人が集中して、それ以外の競争相手は生き残る余地がなくなっていき、「勝ち組」と「負け組」の間はほとんど逆転不可能。邦画でもずっとこの構図があって、トップの東宝にどんどんいい企画が集まり、勝ち組として固定化している。そもそもは、シネコンの勃興期に、東宝がいち早く対応して配給ルートをしっかり押さえたから、と理解しているが、とにかくその後は「勝ち組」のスパイラルにはいっているということのようだ。2006年のヒット邦画はまさに、東宝の一人勝ちだった。

ほっておけば、松竹も東映も逆転は難しい。しかし、ここにテレビ局という別の軸を入れると、話はちょっと違ってくる。フジの「踊る大捜査線」以来、大作映画は「映画会社+テレビ局」という組み合わせでやる方式が定着している。昨年でいえば、「有頂天ホテル」や「海猿2」の「フジ+東宝」が一応ゴールデンコンビなのだが、他のテレビ局もこのところ負けていない。「日本沈没」や「どろろ」のTBSも頑張っているし、外資制作会社として初のホームラン級ヒットとなったワーナーの「デスノート」シリーズは、NTVとのペアだ。

つまり、テレビ局がお金・人材・宣伝の点で影響力を伸ばしてきたおかげで、「映画会社+テレビ局」の順列組み合わせの数が増え、東宝でなくてもテレビ局がうまく力を発揮すれば、勝てるケースが出てきたのだ。

このお正月映画ラインアップで言えば、フジが「大奥」では東宝でなく東映と組んでいるし、これまでなかなかホームランを打てなかった松竹が、テレビ朝日とキムタクの協力を得て「武士の一分」で50億円ヒットをついに達成した。この先公開予定の映画でも、似たパターンで、NTVとオダギリジョーの力で「東京タワー オカンと、ボクと、時々オトン」をヒットさせようと狙っている。

現代的なアクションやコメディーの大作が多い東宝に対し、伝統的に松竹は女性映画や「寅さん」のような人情劇に強みがあったし、東映はその昔ヤクザ映画で強く、また両社ともに時代劇のノウハウもかなりあるなど、それぞれに特色がある。例えば東映では、セガのゲーム「龍の如く」の映画化というのもやっており、これはヤクザ映画のノウハウとコンソールゲームのブランド力を組み合わせた新しい試み(で、それを三池崇が監督するというのもスゴい)。テレビ局との順列組み合わせで、下位の制作会社にもチャンスがまわってきて、多種の特徴をもった映画が世に出るようになっているようなので、これは産業にとっては喜ばしいことだと思う。映画評論家の方々は、テレビ局がバックアップした大衆向けの大作には総じて批判的だし、テレビ局の力が映画業界に及んでくることに対しても、苦言ばかりが多い。芸術としての映画の評価としてはそうなのかもしれないが、産業・経営という観点からは、外の血がはいって種の多様化が進むことは、抵抗力が強くなって産業の力も強くなるという意味で、よいことだと思うのだ。

他の産業ににわかに応用できる話ではないのだが、興味深い例と思っている。

ここから先は、産業論でなく「邦画」の話。

松竹・東映よりももっと小さいプロダクションについても、最近活性化しているように思うのが面白い。「広告モデル」のテレビでは、産業自体が大きくて失うものが多い上に、広告主・広告代理店・芸能プロダクションなどの多くの利害関係がからみあって、新しいビジネスモデルを模索する力が弱い。これに対して、見る人と作って売る人の一対一の単純な関係にある映画では、パッケージ売りするための仕組みができているし、独立系クリエーターがそれなりの小さいマーケットで勝負することも比較的ゆるされる。さらに、おそらくは長いこと暗黒時代が続いて無視されてきたがゆえに、芸能プロダクションの縛りもテレビほどではないように見受けられる。このため、人材の流動性が比較的大きく、小さいプロダクションのいわゆる「単館系」とよばれる映画にも、名の売れた俳優がけっこう出ていたり、有名人が制作に関与していたりなど、話題を集めるものも多い。昨年でいえば、種々の映画賞で常連の「フラガール」と「ゆれる」、これに「寝ずの番」「佐賀のがばいばあちゃん」「かもめ食堂」を加えた5作が、ネットで見ているとやたら評価が高いし、この規模の映画としては大ヒットといえる、数億円規模の売上げをあげている。今上映しているものでは、「ユメ十夜」というのが話題のようで、監督やキャストの顔ぶれを見ただけで、よだれが出そうなほど見たくなってしまう。

あとは、このあたりから派生して、つまり、昨日書いたように、独立系のクリエーターが活性化して、デジタルメディアと親和性の高い、ショートフィルムの制作・流通の新しい動きなどが出てくると面白い、と思っているのだが、さてどうなるだろうか。