外側へと拡大するネット、そしてWeb2.0の先祖返り
梅田さんにWeb2.0という言葉を教えてもらってからそろそろ1年半、その要素をなすLong TailだのArchitecture of Participationなどまで含めるともう2年近くなるのかな。流行語として消費されるようになったWeb2.0はそろそろ飽きてきたので、もう流行遅れなんじゃないか、と思ってみたものの、まだどうもそうではないようで。
これだけ付き合いの長いコンセプトでもあり、仕事上でも偉そうに人に説明したりしていたのだが、つい先だって、なんだか初めて、この意味が腑に落ちたというか、悟りを開いたというか、まぁそれも大げさだが、なにしろ私のフレームワークに初めて、すとんと落ちた気がしたのだ。
今月前半、ソニーのPS3が日本で発売されたときのこと。行列を作っている人だの、ネットオークションで高値がついただの、そういう話でにぎやかな日経新聞の片隅に、「PS3でたんぱく質の構造を解析する分散コンピューティング」という小さな記事が載った。ふぅむ、これって、なんだかその昔、インターネットが生まれたころのコンセプトと全く同じでは・・・?
90年代初頭、インターネットの黎明期に、「インターネットとは何か」という説明をされたとき、「ネットにあなたのパソコンをつなげば、あなたのパソコンもインターネットの一部になるんですよ」という言い方をされた覚えがある。さらにさかのぼれば、初期のインターネットは、コンピューターが高価で希少だった時代、大学のスーパーコンピューター同士をつなげて、お互いに余っている処理能力を融通しあおう、というところから始まったものだ。
その後、ダイヤルアップ中心で、Web1.0企業が何かをネット上で「売る」という時代を長く経る間に、そういう考え方はすっかり忘れてしまい、ネットの「あちら側」にはたくさんの情報があるが、「私」はそこから落ちてくるものを単に消費するような気分でずっとやってきた、ように思う。
その後、ダイヤルアップからブロードバンド常時接続になり、物理的にも「私」のパソコンの「ネット距離感」が、ちょっと前の企業ネットワークぐらいになった。携帯端末はまだまだそこまでの近しさになっていないけれど、ブラックベリーは常時接続に近いし、WiFiでつないだパソコンはブロードバンド接続と同じだ。そして、今度はPS3やWiiが、ブロードバンドでネットにつながる。こういう、いろんな端末で、いろんな場面で、ネットにアクセスできる・・・
と思っていたのだけど、反対側から見ると・・そうか!これらのいろんな、膨大な数の端末が、すべてネットのリソースとして取り込まれていくのだ!ネットはすごい勢いで、外がわに向かって膨張しているのだ。
そして、「ネットにあなたのPS3をつなげば、あなたのPS3もネットの一部になる」のだ!これって、もしかしたら、インターネットの「先祖返り」なのでは!!??
So what? だからどうしたって?いや、別にどうもしない。ただ、それで、なんだかようやくわかった気がしたのだ。Web2.0の正体が。今更。
たとえば、SkypeはP2P方式を使っている。私がSkypeのユーザーになると、私のパソコンが他の人の通話を中継するのにも利用される。ちょうど、上記のPS3の分散コンピューティングと同じような仕組みである。
パソコンのレベルでは、ネット黎明期の分散コンピューティングへの先祖返りを思わせるのは、こういったP2Pぐらいしかないが、Web2.0では、パソコンよりさらに上位に位置する、人間であるユーザーの能力まで一気に飛んで、それを分散利用しているわけなのだ。
ネットにあなたの脳をつなげば、あなたの脳もネットの一部になる。
ネットは、もはや「あちら側」にあるのではない。私の脳が、すでにそこにつながっている。私がここで書いていることがネットのリソースになる。小さな小さな私の脳の働きが、はてなのブログやネット全体の価値の一部になっている。Architecture of Participation、Wisdom of Crowd、Cloud computing、folksonomy、tag、mash up、open source、そういったWeb2.0の特徴は、みんなそういうことなのだ。
だから、Web2.0というのは、画期的でも思いも寄らないことでもなく、ネットの本来的な性質がようやく発揮されたということなのだ。そうか、なるほど。
別に、どうもしないのだけど、今夜は安心してよく眠れるかもしれない。(笑)
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