Googleの後にGoogleなし、CiscoのあとにCiscoなし
YouTube−Googleの買収話が出て、「しかし、今回のWeb2.0ブームでは、ついに単独で生き残るところはなかったな〜」という感想をふと持った。すると、ここしばらくのWeb2.0がらみの買収をキレイに整理してくださった方が出現。
メディア・パブ: Web2.0企業の買収先一覧表,バブル2.0の声も
No Bubble 2.0 yet - Tristan Louis (TNL.net)
(余談だが、英語の原典は「no bubble 2.0 yet」なのに、日本語で引用しているほうは「バブル2.0の声も」って、全然逆じゃない・・・?)
大型新人として期待を集めたSkypeもYouTubeも、MySpaceもブログ系ベンチャーも、みな買収されてしまった。もちろん、たとえばDiggなどまだ残っているところもあるが、第一次ネットバブルの焼け跡に、Amazon、Google、Yahoo、Ebayなどが、大手として生き残ってきたのとはやや異なる様相を呈している。どうしてだろうか・・・?
梅田さんは、YouTubeに関して、「経営者としての資質、思想」を問われている。経営者の質、というのもその一つの理由かもしれない。
YouTubeについて(2) - My Life Between Silicon Valley and Japan
インフラ屋の私としては、下記に書いたように、ある程度以上の規模になると、単独で維持していくのが難しい、という「インフラ・コストの天井」を打ってしまったからかな、とも思う。
再び、Web2.0とインフラの制約に思いを馳せる - Tech Mom from Silicon Valley
オープンソース型無料サービスで出発したWeb2.0企業は、その性格から、いったん人気を得るとものすごいスケーラビリティでユーザーを増やせるので初速はすごい。でも、第一次バブルの時のように、光ファイバーもデータセンターも、どんどん安くなってはいない。昨年から今年にかけて、バックボーン・インフラの価格が下げ止まり、データセンターも電力危機でコストが苦しいという話があちこちで聞こえる。(Googleが本社で太陽発電を使うというのも、その話の一環だと思っている。)動画や音声などのリッチ・コンテンツを扱うためには大量の帯域(bandwidth)がいるが、そのコストは、上がらないまでも今まで以上には安くならない。一方で、広告モデルでやっていけるためには、それなりの規模がないとダメで、広告を売るための人員もいるし、閾値が高い。Google的な、薄利多売広告で儲けるにはこれまたすごい規模でないとダメ。閾値の規模に達するまで、帯域のコストをまかなう資金がもたない、ということなんじゃないかなー、と思うワケだ。買収されて、より大きなネットワークや、しっかりした広告販売部隊のある環境に組み込まれたほうが、理にかなっているということなのではないかと。
そして、もう一つは、「Googleの後にGoogleなし、CiscoのあとにCiscoなし」という話。
Googleが新手のNasdaqになった、という話があるが、それを言えば、第一次バブルのときは、Cisco Systemsが一種のNasdaqだった。当時はネット事業そのものはまだあまり発達していなかったので、有望ベンチャーと言えば、ネットワーク機器だったが、Ciscoはそういうネットワーク機器ベンチャーを次々に買収していたし、ベンチャーもCiscoなどに買われることを一つのオプションとして最初から視野に入れていた。そして、Ciscoは業界のジャイアントになって、今は交換機メーカーなどと肩を並べる存在になったけれど、それほどのビッグ・ヒッターは、Ciscoの後には出ていない。GoogleやAmazonなどは、全く別の業界だったから、その中からいくつかジャイアントが生き残ったけれど、今やGoogleの一人勝ち状態がはっきりしてきて、Googleと重なる業態のベンチャーは、もはや単独でジャイアントまで育つことはできないのではないかな、と思う。
男子プロテニスでは、今ロジャー・フェデラーが、史上最強のプレイヤーへの道を驀進中。ニッチであるクレーコートでは、クレーのスペシャリストにまだチャンスがあるけれど、それ以外のサーフェスでは、どんなに頑張ってもフェデラーにはまず勝てない。少し前には、サンプラスとアガシの2強時代だったために、アメリカ人の若い選手がなかなかチャンスがないと言われていた。ようやく世代交代でアンディ・ロディックやジェームズ・ブレークが出てきたと思ったら、今度はフェデラーの壁にぶち当たってしまい、他の選手はヤル気が出ない、若い選手が出てこられない、ということになってしまった。フェデラーはすごい選手だし、大好きだけど、他の選手にとっては、こういう時代に遭遇して、気の毒だと思う。
ネット・ベンチャーの世界でも、Googleがフェデラーになっちゃった、ということかもしれない。まぁ、テニスではテニスしかありえないけれど、シリコンバレーのベンチャーは、機器とか他の分野、というのもあるし、次の大物は、別の競技から出てくる、ということなのかもしれないと思う。