死屍累々、アメリカのMVNO

これまた、あまり最近のニュースというほどではないのだが、そういえば日本でMVNO解禁(禁止されてたわけではないのだろうが??)という話があったのを思い出したので、ご興味のある方のために、ちょっと参考までに。

来週、アメリカの携帯電話業界のお祭り、CTIA展示会のうち秋の小さいバージョンが開催されるが、今年春の本体バージョンのときに、大々的に騒がれたのが「MVNOブーム」だった。

初めての本格的なFacility Based MVNO、ディズニー・モバイルの登場 - Tech Mom from Silicon Valley

アメリカではMVNOはアナログ時代からリセラーがたくさん存在し、その後世界最大MVNO、イギリスのヴァージン・モバイルがアメリカにも進出して、順調に加入者を伸ばした。加入者数は推定300万人で、名前としては一番売れているが、実は最大の加入者を持つのは、ほとんどブランド名としては知られていない、とあるプリペイド携帯電話。私が大好きな、メキシコのテレコム大富豪カルロス・スリムの系列会社である。言われてみればスーパーや量販店でパックにはいって壁にぶら下がって、よく売られている。

ヴァージンは若年層向けの端末デザインとか音楽コンテンツとか言っているが、そのココロは結局、「プリペイド」である。アメリカのキャリアは、解約率が高く、ARPUの少ないプリペイド加入者が増えると、これらの数字が悪くなって、アナリストの評判を落として株価が下がるので、プリペイドを嫌う。それで、「MVNO」という別ブランドに切り離して、プリペイドしか買えない層に売っている、というワケだ。アメリカでプリペイドしか買えない層というのは、実はすごく多い。これらの人にリーチする最大のポイントは、広くて強い販売網である。

これに対して、昨年のホリディ・シーズンから今年にかけ、鳴り物入りで参入した、若年層向けベンチャーのアンプト・モバイル、スポーツ・コンテンツのESPNモバイル(ディズニー傘下)、家族向けの機能を満載したディズニー・モバイルなどは、プリペイド層向けというより「付加価値MVNO」であり、販売網よりもコンテンツの付加価値に重きを置いている。

しかし、半年たって、これらの付加価値MVNOは、一言で言うと全滅である。ここに例として挙げた著名なMVNOは、いずれも正式な加入者数や業績を発表していないが、業界報道では「加入者が計画の1割以下」とか、「撤退間近」とか、「抜本的な見直しを迫られている」とか、言われちゃっている。

欧州のMVNOは、アメリカとはちょっと事情が違う。隣国の大手電話会社が、その国に参入するのにブランドだけ持ってきてMVNOでやるとか、もともとプリペイドが大多数を占めるとか、複数端末を持つのに抵抗があまりない(なので、普及率が100%を超える国が多い)とか、いろいろな環境の違いがあって、MVNO市場も違う発展の仕方をしている。

アメリカではそういうワケで、今年業界が大いに期待した新型MVNOは、死屍累々状態である。こうしたアメリカとヨーロッパの状況から見て、日本では、端末に極めて高い機能を持たせてパーソナル情報を大量に入れ、一つの端末を肌身離さず持たせることで囲い込む、という戦略をとっているので、すでにここまで普及率が高くなった状態で、MVNOがはいるのはどうも難しそうだと思う。

いろいろな点で自由度が高くなるのは歓迎だし、日本独自のビジネスモデルが出てくる可能性ももちろんあるのだが、単に「競争が盛んになる」といってMVNOに過剰な期待をかけないほうがいい。自分でその昔、MVNO向けに卸売り携帯サービスを売っていた経験から言っても、この商売はそう簡単ではない、と思う。