YouTubeが進化した、「ミドルテール」系サイトたち

相変わらずYouTubeをめぐる議論がにぎやかで、ますます面白くなってきた。私としては、だいぶ前から思っていたとおりの状況になりつつあるので、さらに面白がっていたりする。

ARTIFACT ―人工事実― : 通信業界「僕たち魅力的なコンテンツを作る能力はないんだけど、君らのコンテンツは魅力的で訴求力があるから、こっちで配信させてよ」放送業界「お前ら自身で作れ!」
音楽配信メモ YouTubeコラムをNIKKEI NETに寄稿して思ったことなど

リエーターの中で、従来の枠組みでhappyだった人たちが実は全体のごく一部で、大多数はYouTube的な、「誰でも歓迎」メディアを歓迎する下地がある、という津田さんの説は大賛成。そして、流通インフラ・コンテンツ制作・受け手それぞれに、立場によりどっち側に立つかが異なるというArtifactの記事も賛成。私もこんなことを前に書いている。

「のまネコ」に見るWeb2.0時代の階級闘争 - Tech Mom from Silicon Valley
ブロードバンド、著作権と経済の雑感(その1)- ソニーrootkit事件へのシリコンバレー的感想 - Tech Mom from Silicon Valley

で、私の予測というのは、テレビ・映画みたいな「恐竜の頭」側の人たち vs. YouTube的「ロングテール」な人たちの間の中間に、「ミドルテール」と呼ぶ領域がだんだんできてくるのでは、ということ。

放送とネットの融合は「電車男型出世魚」 - Tech Mom from Silicon Valley

この領域がきちんと成立するには、既存メディアの巨大収益マシーンじゃなくて、多くの人から小さなお金をコツコツと集めて多くの人に分配するしくみ(GoogoleのAdSenseみたいなもの)ができないといけないとか、膨大なコンテンツを分類・関連づけしてサーチする仕組みがないといけないとか、いろいろと前提はあるので、そうそう簡単にはいかない。しかし、YouTubeが成功するかしないか、とマスコミが騒いでいる陰で、着々と、小さいながら新しい仕組みを考えてやっている人たちがいるらしい。7/13のウォールストリート・ジャーナルの記事によると・・

http://online.wsj.com/public/article/SB115266820411604188-mY6e1VaglNSUCBQDGStGPzWWEdc_20060810.html?mod=tff_main_tff_top

He used to upload his productions -- about 180 to date -- on the video-sharing phenomenon YouTube, but now prefers a new service called Revver. The reason: Revver pays him.

The explosive growth of Internet video is allowing people not only to find an audience for their amateur productions. Now they can actually earn money from them. San Diego-based Eefoof Inc., launched just over a week ago, shares 50% of its profits from text ads and banner ads with users who upload their own online video clips. Shares are distributed based on the number of hits a particular video receives. Recently launched Panjea.com, operated by Aware Media Inc., shares 50% of revenue from the ads appearing on profile pages to which users can upload their own video and audio files. Users can also sell their content via download at a price they set, in which case they earn 85% of the sale. In May, Blip Networks Inc.'s Blip.TV began giving members half of the ad revenue it earns from the still-photograph and video ads that users can have placed at the end of their videos. Revver affixes an ad frame to the end of a video clip and gives the users 50% of the revenue generated when the ad is clicked on, whether the video is accessed from a Web site, shared across instant-messaging services or emailed between friends.

つまり、アップロードした映像作品によってあがったバナー広告収益やダウンロード売り上げの一部(半分以上!)を、クリエーターが受け取れる、というビジネスモデルだ。収益といったって、これらのサイトはいずれもYouTubeとは比べ物にならないくらい、トラフィックも少ないし収益などといってもわずかなものだが、記事で取り上げられている人の例では、これまでに5000ドル(60万円)ぐらい稼いだ、という話もある。(おそらく数ヶ月で)5000ドルといえば、「恐竜の頭」側のクリエーターからすれば、バカバカしいくらいのはした金だが、これまでYouTubeでタダで作品を公開していたアマチュアにしてみれば、決して悪くない金額である。

実際にRevverのサイトを見てみると、今のところ映像のクオリティはYouTubeとそれほど違うようには見えない。本当に、クリエーターとサイト運営側がちゃんと成り立つぐらいのユーザーとお金がここに集まってくるのかどうかはまだなんともいえない。でも、こうした試みを試行錯誤でやろうというのが、さすがアメリカのベンチャーのいいところだと思う。こんな、はした金の集金や分配は、大企業ではオーバーヘッドばかりがかかってしまって、とてもできるものではない。ハングリーで小規模なベンチャーでないと、できない試みだ。

YouTube対抗としては、Microsoftが参入するという話も出ているが、最近特にこの分野では、MSが出てきてもそれほど怖くないだろう。そもそも、「あちら側」企業の代表格、GoogleやYahooですら、ビデオ配信ではYouTubeに先を越されてしまっているのだから。

The Times & The Sunday Times

統計を見たことがあるワケではないが、映像エンターテイメント制作人材に関しては、アメリカは日本よりずっと層が厚いような気がしている。しかも、アメリカ人の「自己表現欲」はご承知のとおり、強い。つまり、供給側における「ロングテール」部分の創作意欲圧力がきわめて大きい。こうした、「アフィリエート」的なお小遣い稼ぎのできる映像共有サイトに、ある程度の成功可能性があるのではないかと、思っている。ちなみに、これらのサイトでは、クリエーター登録する際に社会保険番号を入れて身元管理し、映像アップロードの際には、中身を見て著作権の問題がないかどうかチェックしているという。当然ではあるのだが、オーバーヘッドが大きく、人のコストがかかり、あまりスケーラビリティがない、という弱点を抱えることになるので、そこをどうやってクリアするのかが興味あるところだ。