見たい欲 vs. 所有欲

まずは業務連絡。以前書いたFlickrの「写真プリント注文数」の話がいろいろと物議をかもしてしまったので、一応下記に出典ポッドキャスト「This Week In Tech (TWiT)」を掲げておく。話している人々も出典をはっきり言っていないと記憶しているので、「シリコンバレー雀の間ではこんな噂もある」程度に聞いていただきたいし、私の書いたことも、もしそうだとしたらこんなこともあるか、という可能性の話として理解してほしい。下記にも書くように、Web企業や新しいメディアのビジネスについては、私もまだ理解できておらず、現在勉強中の段階だ。

http://twit.tv/47
再び、Web2.0とインフラの制約に思いを馳せる - Tech Mom from Silicon Valley

さて、たまたま今日、テレビ商売の話を日本とアメリカについて読み、ふーん、と思った。ネットとテレビが近くなっているように言われるにもかかわらず、本当にテレビ商売の話は私には遠い世界だと改めて思う。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060512/102117/
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/n/a/2006/05/15/entertainment/e083135D64.DTL&hw=nbc&sn=002&sc=786

ふーん、と思った点はいくつもある。日本と比べてアメリカの広告業界の規模ってものすごく大きいんだな、とか、(例はNBCだけだが)アメリカ若年層のテレビ離れというのがこれほどすごいのか、とか、ええーNBCってトップだと思ってたのに今はドンケツなの、とか、まぁとにかく、知らないことだらけ、という「無知の知」の境地である。

これを読む限り、日本ではまだ、アメリカほど本格的な視聴者のテレビ離れとそれに伴う広告売り上げ減少の脅威にさらされていない、ということなのだろうと思う。テレビ広告マーケット自体が縮小してしまったら、地方局を巻き込んだエコシステムも機能しなくなるはずだから。

で、アメリカでは、下記で言われているように、この状況に直面してYouTubeに期待を託し、ロングテールに逃げてしまった若年層をテレビに呼び戻そうという戦略、と説明されているようだ。

http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=1406
ネット映像配信のビジネスモデルが、ついに出現しつつある、のかなぁ〜 - Tech Mom from Silicon Valley

ここから先は頭の体操。テレビ屋さんは、体質が広告商売なので、YouTubeでも(YouTube自身がどう思うかでなく、テレビ屋さんがYouTubeにどういう期待をかけるか、という意味)、ディズニーやCBSのオンライン配信でも、最終的には広告で儲けるつもりのようである。だから、ディズニーなどの配信では、Piracyの問題もあるので、ストリーミング配信で、なおかつ広告を飛ばせないようにする。

ここでまたTWiTのシリコンバレー雀にご登場願うと、「そんなのダメに決まっている」と彼らは言う。なぜか。まずは、ストリーミングだと途中でバッファーのために止まってしまったりなどのトラブルが多く、品質が悪い、という話があるが、それだけではない。

BitTorrentで映画をダウンロードしている連中は、見たいからではなく、コレクションしたいからやっているのだ。ストリーミング配信ではその代わりにはならない。」

http://twit.tv/53

あ〜、ポン(とひざを打つ音)、そうかもしれない。なるほど。私自身も、映像コンテンツの商売を考えるとき、もっぱら「時間消費型」サービスとしてとらえ、一日の時間は24時間しかない限界、ということをついつい考えてしまう。「レンタルvs.購買」「ストリーミングvs.ダウンロード」というのもコストの比較や提供側の都合しか考えていないかった。

でも、違うのかもしれない。確かに、自分のDVD購買パターンを見ると、そのとおりなのだ。DVDを買うと高いので、確実に手元に置いておきたいものしか買わない。だから、最初にレンタルや劇場で見て、好きなものだけを買う。買って以来全く見ていないものも相当あるが、持っていて人に貸したりするのが楽しい。

映像コンテンツに関しては、人間には「見たい欲」と「所有欲」の二つがあるらしい。「見たい欲」だけならストリーミングでもよいが、「所有欲」のほうはダウンロードできないと満たせない。「所有欲」をうまく刺激したり満たせたりするやり方があれば、一日24時間というマーケット規模の限界を超えることができる。

一方、もしネット上の映像コンテンツ商売がもっぱら「所有欲」のほうだとすると、広告商売は成り立たない。買ったら棚やハードディスクの片隅で静かに存在するだけでは、広告は機能しない。そうだとしたら、やはりなんらかのマイクロペイメントによる「コンテンツ販売」ができるようにならないと商売にならないことになる。

ではどうすれば、というところまでまだ考えが至らないが、映像コンテンツ商売を考えるときには、このどちらの欲をターゲットとするのか、という点を見極めておく必要があるように思った。<追記>
いただいたトラックバックから、関連するこんな記事をご紹介いただきました。専門の方による、同じような趣旨の話で、とても面白いです。

人はなぜテレビ番組を“録りためる”のか (1/2) - ITmedia NEWS