カンヌ映画祭のフジテレビ「コンテンツ戦略」と「国際標準」としての映画

このところ、私の英語のブログ「Hoga Central」では、しばしば日本におけるテレビ会社と映画事業のかかわりについて取り上げている。映画自体のことはあまり詳しくない割りに、「コンテンツ経営戦略」としての映画やテレビ産業について興味があるので、本来は日本映画ブログなのだが、ついついこんな話題が多くなる。

私の日本映画ブログ(英語):http://hogacentral.blogs.com/hoganews/

その中でも、一番映画進出に積極的でかつ成功しているフジテレビの話題がどうしても多くなる。今、ちょうど世界三大国際映画祭の一つ、カンヌ国際映画祭が開催されているが、今年のカンヌでは、映画祭に併設する国際映画市場「カンヌ・マーケット」に、フジテレビは自社映画「UDON」や「西遊記」などを持ち込んで宣伝している。これに先立ち、今日本の映画業界で最大のヒットメーカー、フジの映画事業部長亀山千広氏は「国際市場への進出」を自ら宣言している。

2年ほど前になるが、ある酒の席でフジテレビのコンテンツ関連の仕事をされている方に向かって、何も知らないくせに酒の勢いで「日本の映画を海外に売ってくださいよ。え?日本人が出てる映画はダメだから、リメーク権だけ売る?そんなのダメですよ、産業の広がりができないですよ!昔と違うんだから、売る気があれば売れますよ」などとほざいた、恥ずかしい思い出がある。(一応、記憶はちゃんとある。)でも、本当にそうなってきているようなので、ちょっと嬉しい。

フジテレビは、日本のテレビ・コンテンツの世界でも最強である。他のテレビ局が、著作権だの芸能プロダクションの横暴だのを言い訳に、電波をベースとした配信の既得権益にしがみついているのを横目に、着々と「自前のコンテンツ制作・展開ノウハウ」を蓄積しているように見える。前に書いたように、「放送と通信の融合」とは、ネットが放送を飲み込むのではなく、放送とも従来のウェブとも映画とも異なる特性を持つ、新しい中間領域が形成されることだと私は思っている。同じネタを、映画やテレビに適したフォーマットに料理してそれぞれの配信ルートに流しているように、この新しい中間領域(HeadでもLong Tailでもない、Middle Tailと私は呼んでいる)に適したフォーマットに料理して流すことで、従来にはなかった新しいことができる可能性があると思っている。

放送とネットの融合は「電車男型出世魚」 - Tech Mom from Silicon Valley

このMiddleへは、Long Tail側とHead側の両方からアプローチがあるうるが、Head側の場合、「フレキシブルなコンテンツ制作能力」のあるところが有利であり、どうも日本ではフジテレビが今のところ、一番ちゃんとここを視野に入れているように見える。

さて、映画の話に戻ると、芸術として映画を愛するファンの方には怒られそうだが、通信屋としての私の目から見ると、映画というのは長年かけてできあがった、優れた国際デファクト標準フォーマットである。ペイロード(=本編)の長さはだいたい100分前後、ヘッダーと最後の部分(=クレジット)に格納されるデータも大体決まっていて、パッケージ販売するときの関連ライツもだいたい国際的に共通化されている。このため、どこの国の映画でも、映画館で上映するのに不都合はなく、入場料も一定で、DVDもだいたい同じような価格帯で売られる。国際的に流通するための条件がすでにいろいろとそろっているということになる。

ブロードバンド・コンテンツとして、よく「映画」が例として取り上げられることを不思議に思っていたが、こういった特性を考えると、なるほど、同じコンテンツを国際的に水平展開しようとしたら、映画というのは便利なフォーマットである、といえそうだ。

フジテレビの昨年の映画事業売り上げは100億円程度だそうで、1300億円を超える同社本業のテレビと比べればまだ小さいが、「国際標準」である映画に着目して、同じネタ(題材だけでなく、俳優とのつながりやキャラクターなども含め)を何度も別フォーマットに展開して高マージンを得るという、「コンテンツ商売」の王道を行く狙いは面白い。日本の映画会社は、劇場ネットワークを持ってじーっと座っている「ハコ」みたいなものなので、こうした機動的な戦略を国際市場でも動かすことができるのは、日本ではテレビ会社、特にその中でもフジテレビが一番有望と思える。すでに、国内では「踊る捜査線シリーズ」や今ヒット中の「海猿」などで、これまでいくつも成功例があり、この先、国際展開とネットへの展開をどうするのか、引き続き注目に値しそうだ。

なお、本家「HogaCentral」に、「容疑者室井慎治」の君塚監督インタビューをもとに、フジテレビと映画のかかわりについての記事を掲載している。こちらもよろしければご参考に。

邦画セントラル「君塚監督インタビュー」(英語):http://www.hogacentral.com/Special_RK_SMS.html