パラダイス鎖国に関する補足

この前のエントリーを、おもいがけず多くの方に読んでいただいたが、以前の私の一連のパラダイス鎖国に関する記事を読んでいない方に不親切だったと思い直し、遅ればせながら簡単に補足しておく。

パラダイス鎖国とは、「自国が住みやすくなりすぎ、外国のことに興味を持つ必要がなくなってしまった状態」である。昨年の夏、日本に行った時に感じたことなのだが、第一回の記事に書いたように、アメリカは世界一の鎖国パラダイスである。

悔しいことに、アメリカはそれでもコトが済んでしまう。このところの住宅バブルもあって、アメリカの消費額は全世界の消費の3分の一だと日経新聞に書いてあった。たくさん買うお客は強い。それに、アメリカには移民だの永住外国人だのがたくさんいて、それらの国とのつなぎ役の専門家集団をかかえているようなものだ。9/11まで、アメリカがテロの標的にならなかったのはそのためもある。

しかし、日本はそうはいかない。かといって、一般の日本人が住みやすい日本を離れたくないのは無理もないことだし、一般人のパラダイス鎖国状況は仕方ないと思っている。

でも、たとえば大企業の幹部や、経済メディアや、そういった人たちまでもパラダイス鎖国してしまっては困る。つなぎ役専門家集団は、いろんなところでどうしても必要だと思うのだが、どうもこういう人たちが企業の中で冷遇されていたり、自ら海外で頑張ろうという、昨日のエントリーの例でいうイチローのような「変わり者」が、冷ややかな扱われ方をして、海外で何かやろうという気を失わせるようなことがよくあるのが、気になるのである。

専門家集団を将来にわたって確保するためには、海外で頑張っている人たちを継続的に本国からサポートする必要があると思うし、またそういう立場に夢を持てるようにする必要もあると思う。「どうやって」という話までまだ至っていないが、もうちょっと考えがまとまったら、書こうと思う。

また、なぜ専門家集団が必要と思うかというと、今日本がパラダイスになっているのは、世界の中で経済的・政治的に、それなりの「relevance」(実際的な重要性だけでなく、関心を持たれること、自分と関連があると感じてもらえること)を保っているからだが、どんどん孤立していけば、長期的にはそれを失ってしまうと思うからだ。(すでに、最近失われつつある。relevanceがなくなった究極の例が「ホテル・ルワンダ」におけるルワンダだ、というのも以前の記事に書いた。)

アメリカでは、結局低視聴率だったWBCだが、それでもマスコミは一応目に付く形で報道したし、私が目にした限り、日本チームに対する論評は相当に好意的だった。もし、イチローがチームにいなかったら、もっと扱いは小さかっただろうし、これほど興味を持って好意的な論評は書かれなかったと思う。それが、私のいうrelevanceということだ。

ケシカランといったって、仕方ない。パラダイス鎖国アメリカなのだから、自国でプレーしている選手がいなければ、誰も興味なんて持たない。そして、1日たてば忘れられてしまう事柄に過ぎないが、それでも一つづつこういう「好意」イメージを積み上げていくことが、世界の中で日本というブランドを確立して、長期にわたってrelevanceを保つことになっていくと思うのだ。たとえば、ホンダはそうやって、今日のブランドを築いてきたのだ。

イチロー自身は、もちろんそんなことのためにやっているワケではない。ただ、私自身の問題意識において、この際イチローに感謝と敬意を表したいし、また多くの日本人も、そう思っていることだろう。是非、この気持ちを継続して、いろんな場面で、海外のことに興味を持つ人が一人でも増えてほしいし、海外との関連の中で何かやってみようという人が増えてほしいし、そういう人を日本からサポートする人が増えてほしいと思う。

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