陽気なIT長者 - 12月の陽光とギーク王国

このところ、あるプロジェクトの関係で、とあるIT起業家大富豪とおつきあいをいただいている。過去にいくつも会社を興し、上場したり大企業に売却したりして富を築き上げてきた、典型的な「serial entrepreneur」である。たとえばスティーブ・ジョブスとかラリー・エリソンといったレベルの有名人ではないが、最初に成功させた会社は今でもギークたちの間ではよく知られていて、彼らの間ではヒーロー扱いされている人物である。

また新しく会社を興したのだが、オフィスの工事がまだ終わっていないということで、12月に彼の自宅でミーティングをした。シリコンバレーから山を越えた太平洋岸側にあり、彼の豪邸からは、冬でも衰えないカリフォルニアの陽光が、広大な太平洋のさざ波に映える様子が一望できる。若い方はご存知ないだろうが、その昔ホンダが「ワンダー・シビック」という有名なCMで使った、岩と緑の崖が海に迫る美しい海岸線が、このあたりの「ハイウェイ1号線」だ。

この地に住んでこういう仕事をしていながら、このレベルの大富豪の自宅にお邪魔したり食事を共にしたりするという機会はあまりなかったので、私にとっては目がさめるような経験だった。彼は、陽気な大富豪である。会社を興しながら、ヨットレースにも熱中している。彼がやってくるとぱっとその場が明るくなる。彼の語ることには、なんとなく説得力があり、最初は懐疑的に見えた話が、「うーん、もしかしたらできるかもしれないな」と思えてくる。私のような、下っ端の日雇いの話もちゃんと聞いてくれて、気配りをしてくれる。「この人の言うことなら、ついていってみようかな」と思わせる。スタートアップの常として、「じゃ、明後日までにこれこれに資料を準備して」ということになると、若い衆があっさり2晩徹夜してしまうが、それを可能にするようなポジティブなエネルギーがそこにはある。

スティーブ・ウォズニアックという人のことは、アップルの共同創業者であること以外私はあまりよく知らないのだが、先日TWIT(テクノロジーポッドキャスト)にゲスト出演したのを聞いたときに、この陽気な大富豪と似ていると思った。話す内容は天然ボケで、自ら創始した「セグウェイ・ポロ」なる競技の世界選手権をやると熱心に話していた。

IT長者や起業家は、よほどエキセントリックで強欲な人でないと務まらないということはない。そして、ベンチャーの世界は断じて「楽して金持ちになるスキーム」ではない。確かに、ビル・ゲイツやジョブスやエリソンはエキセントリックだし、中にはずるいことをする人もいるが、この陽気なIT長者のような人も、このあたりにはたくさんいる。そういう人たちの下で、徹夜でプログラムを書いたりお客に渡す資料をまとめたり、身を削るようにして働いている人たちがたくさんいる。徹夜明けに外へ出ると、日の光が波と木の葉の上でちらちらときらめいている。いろいろと問題もありながら、やはりシリコンバレーは、幸せなギーク王国なのである。

梅田さんが少し前に「普通の人が普通の範囲で挑戦することができるビジネスの世界」ということを書いておられる。梅田さんがこんなことを書きたくなったのと、私がこの12月の陽光を思い出したのと、似た動機があるような気もする。

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