マイクロソフト vs. Rest of the World <携帯展示会雑感>

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今週はサンフランシスコで携帯電話の展示会に来ている。CTIA IT & Entertainment 2005といい、携帯電話の本流でなく、データ・アプリ・コンテンツなどの関連で、規模も春のメイン展示会よりだいぶ小さい。

今回は、本番の展示会の直前、昨日の朝に、ビル・ゲイツが久しぶりにCTIAにやってきた。パームのトレオにMSの次期スマートフォンOSであるWindows Mobile 5.0を搭載するという発表を行ったのである。夏頃から噂は出ていたので驚きはしなかったが、やはりゲイツが出てくるとメディアは写真を出して賑やかに報道している。

マイクロソフトシリコンバレーは長年のライバル関係にある。バブルの頃、当地のギーク達は、スターバックスのコーヒーを嫌い、地元バークレーのピーツ・コーヒーしか飲まなかったという伝説がある。スタバが地元の別のコーヒーチェーンを買収したからで、「シアトルのコーヒーなんて飲めるかい!」という、坊主憎けりゃ袈裟までの類である。

モバイル・データの世界では、マイクロソフトシリコンバレーだけでなく、世界中の端末メーカーやキャリアから、常に危険人物としてマークされている。2001年頃、ネットバブル崩壊直後に、モバイルのミニ・バブルの時期があったが、その前からモバイル端末のOSやソリューションを出しているし、その頃にはこのCTIA IT展示会にはゲイツが基調講演をやったりしていた。しかし、その後鳴かず飛ばず。欧州では現在ノキアの傘下となった携帯データ(スマートフォン)OSのシンビアン(当時はメーカー数社のコンソーシアムだった)が強力にバリアを張っている。アメリカでは、よりシンプルで手軽なブラックベリーとパームのトレオが、スマートフォンの2大勢力となった。

パームは当地では、PDAスマートフォンの世界における「サンフランシスコ49rs」(フットボールの地元チーム)であり、アップルと似たような固定ファンがついている。ニューヨークの弁護士とインベストメント・バンカー中心に地歩を確立したブラックベリーに対し、当地ではなんといってもパームのトレオが強いのは、ハードウェアそのものが車社会の当地のライフスタイルに合っていることもあるが、「ご当地」の強みも間違いなくある。

さて、パームはOS部門を最近日本のアクセス社に売却し、MSのOSを採用した。(今後もパームOSはサポートすると表明している。)少し前だったら、地元の連中はブーブー文句を言っただろう。コーヒーをぶっかけて追い出したかもしれない。しかし、今回の発表では、比較的好意的に受け入れられているように思う。

それは、もはやマイクロソフトが、昔日の無敵艦隊でなくなっている、ということなのかもしれない、とふと思った。もちろん、パームとしては戦略的に意味があってやっている。5.0をきっかけに有力メーカーからだいぶ使えそうなスマートフォンがたくさん出る予定でもあり、ブラックベリーの牙城である企業ユーザーにもっと食い込んで、現在の成長基調を生かしていくためには、どうしても必要なパズルのピースなのだろう。でも、少し前だったら、警戒感のほうが強かったのではないだろうか。交渉の上でも、いろいろ無理難題をふっかけられたりしただろう。それが、今では普通の技術パートナー関係が結べるようになったのだ。

まぁ、今回の発表は、なぜ今発表したのか(実機の発売は来年)とか、ハードウェアは現バージョンより品質の劣る液晶を使わざるを得ないとか、パームのデベロッパーは今後どうなるとか、いろいろ謎も多い。感じとしては、携帯電話事業者ベライゾンが、自分の利益(=企業ユーザーのモバイル分野への進出して、シンギュラー/SBCを出し抜く)のために、長年のライバル、パームとマイクロソフトの間のデタントを演出したという、アメリカの大統領がキャンプ・デービッドでイスラエルとエジプトに握手させるみたいなものかな・・・

・・・と私は思った。本当にそうなのかはわからないが。