選挙に見る日本の新しい時代と「集団知」

岡目八目という言葉があるが、今回の選挙の経緯や評価などをアメリカのプレスで読んでいると、日本のプレスに比べて分量が少ない分、すっきりまとまってわかりやすい。特にウォールストリート・ジャーナルは、以前からなかなか秀逸な記事を書いていると思う。

今朝のWSJの記事で「あ、なるほど・・」と思ったのが、「少子化・高齢化が最も速く進んでいる日本の動向に、先進国は注目している」という一文である。いくつか拾い読みした各種のアメリカの記事では、いずれも高齢化対策・小さな政府・公共投資依存脱却が小泉首相のメインのテーマとして指摘されているが、なるほど、各国のプレスが注目するのはこういう意味もあるのだな、と初めてわかった。

How Japan copes with these challenges will provide lessons for other industrialized nations that confront similar problems. In Germany, for example, Chancellor Gerhard Schröder next week faces an election he called after he ran into trouble enacting measures to revive that country's large economy.


もう、アメリカやヨーロッパの事例を勉強して後追いする時代が、完全に終わったということだ。「パラダイス鎖国」の一連の記事にも書いたように、携帯電話の分野では、日本が独特の発達を遂げて世界の最先端となり、アメリカのキャリアは日本の事例を勉強して後追いするようになっている。ブロードバンドのインフラも日本は韓国の次ぐらいの最先端であり、インフラ技術の会社は、まず何か新しいものができれば日本に持って行く。(ちなみに、そうは言ってもインフラの最重要技術はアメリカの会社が押さえているのが実情だが・・)

世界のどこにも、日本の少子化高齢化社会の前例はない。自分の頭で考え、手探りで解決策を探していくしかないのだ。そして、その事例を他の先進国が参考にするようになるのだ。

アメリカ人は、良くも悪くも、こういうやり方に馴れている。試行錯誤の結果として、大混乱を招いてしまうこともあるが、それは自力で前に進んでいくための必要なコストと割り切っている。例えば、10年ほど前に、携帯電話の周波数割り当てを「オークション」で行う、という試みを始めた。当初、資金潤沢な大企業偏重にならないよう中小企業優遇枠を設けてみたけれど、結局中小企業にはライセンス料と設備投資の両方を担いきれずに倒産が相次いで泥沼になったが、こうした混乱を経て、現在はすでにオークション方式は欧米で定着している。携帯電話の方式も、政府が決めるのではなく、民間の競争に任せ、そのためにデジタル化が遅れ、複数方式が乱立して、日欧に遅れをとるようになったが、競争に任せたこと自体を批判する声は業界でそれほど多くない。

Wisdom of Crowds 集団知」という考え方がネット業界ではよく論じられる。少数の権威者の意見よりも、多数の一般人の意見を総合したもののほうが、事態を正しく言い当てている、という考え方である。考えてみれば、そもそも民主主義はこうした考え方の上に成り立っているワケでもあり、またポートフォリオ理論というのも、ある意味では集団知を投資に応用したもので、特に新しい考え方ではないと思うが、ネットでは膨大な意見を集積するのが簡単なために、ネット業界では重要なのである。選挙にかかわる日本の「評論家」の言っていることと、アンケートなどで引用されている一般国民の意見やブログでの発言をネットで見て比較すると、「あぁ、集団知だなぁ」と思う。後者のほうが、はるかに私には納得いくのである。そして、選挙の結果はそのとおりとなった。

集団知については、下記Yamaguchi氏のサイトに詳しい)
H-Yamaguchi.net

お役所や評論家が、外国の事例を勉強して、次の施策を考える時代は終わったのだ。これからは、日本の国民が「集団知」を結集して、次にどうするかを考える時代となるのだ。試行錯誤しなければならないから、時には混乱も招くが、それはコストとして割り切るしかない。そして、その経過を、どんどん世界に対してオープンにしていくべきなのだ。他の国の参考となるように。世界が、よりよい「知」にたどりつくことができるように。