ニューオーリンズ、通信災害の謎

今朝のウォールストリート・ジャーナルに、ハリケーン被害を受けたニューオーリンズの市当局が、すべての通信手段を絶たれてしまい、いかにしてそれを回復したか、という苦労話が載っていた。テレコムオタクとしてはめちゃくちゃ面白い話なので、思わずまたいろいろと想像をめぐらせてしまった。

それによると、市当局の緊急チームは、市役所からほど近いハイアット・ホテルに陣取った。ホテルなら、電力や食料の調達が容易と考えられたからである。ハリケーンは8/27から29にかけて同市に襲来。チームのいるホテルの建物の一部は暴風で破壊された。さらにその翌日、堤防が決壊してニューオーリンズ市の零メートル地帯は水没してしまった。堤防決壊から1週間経った現在も、まだ排水は完了していない。

さて、通信手段として想定されていたものがどうなったかをまとめると、以下にようになる。

  • 固定電話:ベルサウスの電話局が、停電と交換機への被害のため、通信不能となった。ベルサウスは、市庁舎近くの電話局は、通常どおり機能しつづけたと言っている。<んー???記事ではこのような漠然とした書き方しかしていないので、具体的には何がどうなったのか不明。>
  • 携帯電話:基地局のタワーが暴風で倒壊したため、通信不能となった。<うん、そりゃそうだろうな。>
  • 衛星電話:最初のうちは使えたが、市の予算不足で長いこと買い換えておらず、すぐに電池がなくなり、充電しようとしてもできなかった。<あ、私のボロ携帯と同じだ。バッテリーがヘタっていたんだ。私も早く買い換えておこう・・・>
  • 市庁舎の緊急コマンドオフィス:最初のうちは、緊急用のディーゼル発電機で電力を確保して使えていたが、まもなくディーゼル燃料を使い果たし、補充ができないため、使用不能となった。
  • ホテルの電話・電力設備:こちらも停電ですべてアウト。<普通の固定電話は交換機から電話線を通じて通電があるので、停電中でも使えるが、ホテルやオフィスビルでは、PBX(構内交換機)は電気がないと動かないので電話が通じなくなる。PBXには緊急用電源(UPS)をつけていることも多いが、これは普通数十分しかもたない。>しかし、31日になんとか電力供給が回復した。

そして、ホテルの給電が回復したところで、市のCTOグレッグ・メフェート氏は、VonageのVoIP(インターネット電話)アカウントを持っていたことを思い出し、ネットにパソコンをつないでVoIPを立ち上げたところ、見事につながった。そして、しばらくの間、このたった一本のVoIP回線が、ニューオーリンズ市の命綱となった。そしてここに、ブッシュ大統領の専用機からの電話もかかってきたのである。

おー、なんと劇的なVonageの宣伝!これを読んで、普通の人なら、「VoIPは災害に強いんだ」と思うだろうな・・・確かに、通信経路はフレキシブルに変わるので、ノードが一個壊れても迂回が簡単にできるのは確かだが、そもそもパソコンからノードまでの接続をどうやって確保したのだろう?ホテル内部のネットワークは給電回復で動いており、そこから外へ出るルーターも動いていたはずで、ホテルだったら、おそらく専用線でつないであったはずだ。

つまり、「VoIP」が強かったのではなく、「専用線」が強かった、と言うべきだと思う。

一般家庭だったら、電話も通じない状態で、DSLやケーブルモデムがつながるだろうか?被害の中味にもよるが、電話だけダメでDSLが助かるはずはない気がする。ケーブルなんて、ハリケーンじゃなくても年がら年中調子が悪くなるのに、到底無理な気がする。DSLもケーブルもダメなら、VoIPだってつながらない。

ニューオーリンズでも、緊急通信対策は、通常の電話が使えることをベースに作られてあった。普通なら、こういうときに固定電話ほど頼りになるものはないはずだ。電話局は、そのために要塞のように堅固な作りになっており、緊急用超大型電池やディーゼル発電機を備えて、数日間は電力が止まっても動くようになっている。ただ、暴風で電柱が倒壊したり、冠水で地中回線がショートしたりして、建物から電話局までの電話線が切れてしまったらアウト。

大きなオフィスビルや政府の建物などは、普通こういう事態を避けるために、経路は二重化してある。しかし、広域災害で両方の経路がやられてしまったらアウト。

でも、そういう事態だったら、ホテルの専用線も動いていなかったはずだ。ネットがつながるのに、なぜ、電話はダメだったのだろう?

輻輳、という要因もある。災害時は、その地に住む人の安否を尋ねるための電話が集中するが、そうすると交換機が動かなくなるので、外からの電話は自動的にある比率でシャットアウトするように設定する。しかし、普通は中から外への電話はシャットアウトしない。だから、中から外へとかける電話が輻輳対策でダメだったとうことはないはずだ。

なぜ電話がダメだったのか?ネット接続の専用線経路はなんとか生き残り、電話線の経路はなぜか被害を受けた、としか考えられない。とすると、Vonageが使えたのは、偶然の幸運だったことになる。

うーん・・・なんだかよくわからない。

いずれにしても、緊急対策の衛星電話のバッテリーは、いつもちゃんと新しいものに買い換えておいたほうがよいでしょうね。(なんだかなぁ〜・・・)

あと、面白かったエピソード。電話やネットの機能を回復するため、CTOメフェート氏は、警察署長を従えて、ホテルからほど近いオフィス・ディポ(オフィス用品店)に侵入し、電話機・ファックスなどを盗んできた。(あ、それは違うか・・あとでお金は払うんだろうな・・)その最中、泥棒がはいってきたので、警察署長が怒鳴りつけて追い散らした。(がはは・・盗人猛々しい!)サーバーが必要だったが、商品の中にはなかったので、お店が自分用に使っているサーバーを持ち出した。ラックからはずすための道具もなかったので、警察署長が素手で力づくでひっぱがして持ち去った。(ひっひっひ!!)

そして、こういうときには必ず登場するヤツが、なかなか記事には出てこないな・・と思ったら、最後にやはり登場!ネクステル、というか、今や合併してスプリント・ネクステルとなった、黄色いヤツである。普通の携帯電話に、ウォーキートーキー(トランシーバー)機能も搭載して、電話回線がなくてもお互いに無線連絡ができるという電話機を寄付してきたのである。旧ネクステルのプッシュ・ツー・トーク(トランシーバーと携帯電話の中間、みたいなもの)では、基地局がぶっ倒れていては使えないはずなので、多分普通に売られているネクステル電話でなく、特殊な緊急用電話なのだろう。(同社のプレスリリースを読むと、どうもそういうことらしい。)もっと早く、あげればよかったのに。タイミングが遅れたため、主役の座をVonageに奪われてしまった。(だはは)今は、ブラックベリーも活躍しているらしい。きっと今頃、いろんな会社が、いろんなハイテク・ガジェットを、ニューオーリンズにどんどん流し込んでいるだろうな。もう遅いんだけどねー。

それにしても、救援の初動が遅れたのは、通信が確保できなかったせい、というのは本当のようだ。最初のうちはなんとかできたとして、市庁舎の発電機が止まり、衛星電話が使えなくなったあと、おそらくまる2日ほど、市当局は完全に孤立していたということだ。いまどき、世界の大先進国アメリカで、どうしてこういうことになるんだろう?謎だ・・・

私にはわからないことが多いので、専門家の方のコメント、歓迎いたします。宜しくお願いします。