ベライゾン-MCI : 既得権益へのエクソダス


予想どおり、ベライゾンがMCIを買収した。SBCがAT&Tを買収したのだから、対抗上当然。マイケル・カペラスはうまく敗戦処理をした。

アメリカの通信業界は、2000年以降、新しいステージにはいっている。かつての「長距離・ローカル・無線」の棲み分けから、無線/携帯電話を核として、そのまわりに他のものがくっつく構造への移行である。日本では、アメリカの通信業界の動きが日本の先を行っている時代の感覚がまだ抜けず、「アメリカの動きの、日本への影響は?」とすぐ気にするが、実はこの携帯核構造は、日本の動きをアメリカがあとから追っているのである。

日本では、3G携帯の免許が3つしかなかったので、DDIとKDDIDOがくっつき、3社体制になった。(その後日本テレコムグループが分裂して、また状況は変わったが。)アメリカも、形は少々違うが、携帯の周波数免許を持つ事業者が、磁石のように周りの別種事業者を吸い寄せて続けている。今回も、MCIは携帯事業を持たないクウェストの誘いを蹴り、より低いオファーのベライゾンを選んだ。ベライゾン傘下のベライゾン・ワイヤレスは、AT&Tワイヤレスを買収したあとのシンギュラーと比べ、加入者数こそ2番になったが、成長率はより高く、サービス品質への評価もよく、業界内ではみなやっぱりベライゾンがトップだと思っている。AT&Tを買収したSBCもシンギュラーを傘下に持ち、昨年ネクステルをスプリントが買収したのも、携帯電話が核となった話である。

つまり、一生懸命に規制緩和や新規参入をやって、血で血を洗う激戦になってしまった長距離やIPインフラの戦場から、周波数免許という「既得権益」に守られた、最後の砦である携帯電話に、キャリアが必死で逃げ込んでいる「エクソダス」なのである。

これで、AT&TとMCIの落ち着き先が決まった。ここ数年地盤沈下の激しいアメリカの企業通信の世界に、再び春は来るのだろうか。