テニスは「Long Tail型」スポーツ

Long Tail」とは、従来の大量生産・大量販売の「マス型」経済では成り立たなかったような、ニッチなモノやサービスが、ネット・ビジネスでは十分に商売として成立する、という現象。店舗が必要ないため在庫コストが安くすみ、広い地域を対象とすることで薄く広く散らばった顧客を集めることができ、検索機能を使って膨大なデータベースから必要なものを探し出すことができる、といったネット・ビジネスの特徴をもって、初めて成り立つ商売である。

私は、テニスが好きで、自分でもやるし、見るのも好きだ。アメリカでのフットボール、日本での野球やサッカーのようなメジャー・スポーツに比べて、マイナーな扱いを受けているスポーツである。しかし、最近はネットのおかげで、マイナー・スポーツも以前よりずっと手軽に楽しめるようになった。

メジャー・スポーツはいずれも、大規模なチーム編成が必要で、チームの運営や移動のコストを考えると、どうしても転戦範囲は国内が中心となり、通常リーグは大体ひとつの国の中で運営される。サッカーのワールドカップのような場合、大規模チームを編成できるのは層の厚い大国が中心となり、小国はなかなか勝てない。運営コストも大きいが、ファンの数も多く、放送権料やスポンサー料も多くはいる。マーケットは、特定の国に偏る傾向がある。

これに対し、テニスは一人でよいので、小国でも強い選手が一人出れば、世界のトップに立てる。(男子テニスで現在「無敵の帝王」とよばれるロジャー・フェデラーはスイス、一昨年2つのグランドスラム・タイトルを獲得した女子のジュスティーヌ・エナンはベルギーの選手である。)選手もファンも、薄く広く世界に広がっており、トーナメントも世界中で行われ、選手は一人でラケットバッグをかかえて、身軽に世界を転戦する。トップに位置するグランド・スラム大会ぐらいは、テレビでも放映するし賞金額も高いが、それ以下の試合はなかなかマス型経済的な大きな利益の出ない規模である。つまり、「Long Tail型」のスポーツなのである。

こうしたLong Tail型スポーツでは、特にネットが威力を発揮する。ファンは、マスメディアで見られない情報を、ネットの公式サイト、ファンサイト、掲示板、ブログなどで獲得する。大きな大会の公式サイトでは、選手の試合後のインタビューをビデオ配信している。国別対抗のデビス・カップの公式サイトでは、試合を音声で実況中継する。日本では、先月の全豪オープンのとき、某有名女子選手のことしかテレビニュースでカバーせず、数多くあった名勝負については、ファンはもっぱらブログで情報収集していた。ネット以前と比べて、こうした付加情報が飛躍的に増加して、楽しみ方が多彩になった。物理的な自分の近所では見つからない、特定選手のファン仲間も、ネットなら世界中から集まってきている。もちろん、選手達ががんばり、テニスの質が高くなっているせいもあるのだが、こうした付加価値がついたため、テニスを見るのが最近ますます面白くなった。

アメリカでは、ケーブルの専門チャンネル「テニス・チャンネル」というのがあるが、地域密着型の各ケーブル運営会社から見ると、十分な数の顧客が見込めないため、苦戦している。本当は、それよりもネットの「Long Tail型」放映が、このスポーツには適している。もう少し世界中でブロードバンドが普及すれば、いずれはネットで試合が見られるようになるだろう。そうなってほしい。