ノマドというコインの裏側、「クライアントの存在」

なんか、ノマドという言葉が流行ってるみたい。私も、パソコン一つで仕事してる自営業者だからノマドといえるんじゃないかと思う。

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愛と幻想のノマド論 食いっぱぐれない生き方のぶっちゃけ話 – アゴラ

ノマドはやめとけとか言っているが、私は仕事を続けようとしたらこれしかやり方がなかったから仕方なくやっている。2000年を目前にして、史上空前のバブルだったシリコンバレーですら、就職しようとして面接受けても、幼児をかかえて身動きも取れない国際事業担当者なんてどの会社も雇ってくれなかった。

この手の「論」でいつも感じるのだが、ノマドがいいとか悪いとか、そんなの人によるのだし、その状況の中で自分はどうする、という話しかないのに、一般的に全体の話をしてもあまり意味ないんじゃないかと思う。特に、女性であるとか出産したとか子育てだとか、あるいは障害があるとか病気だとか、そういう制約的な状況を抱えている人は、与えられた条件の中で最大限やるにはどうしたらいいか、といつも考えている。私の場合でいえば、ノマド生活の中で最大限に自分のやりたい仕事をするにはどうするか、ノマドのいいところをどう活かすか、ということだけしか考えてない。ノマドがいいか悪いか、考えるだけ無駄なので考えたこともない。

ただ、一つだけ「全体の話」として言えると思うことがある。それは「ノマドというコインの裏側」、つまり「ノマドである私を雇ってくれるクライアント」のことだ。私の身の回り、ここシリコンバレーでは、女性で私と同じように自営でコンサルやコントラクターとして仕事をしている人が多い。私と全く同じ条件を抱えているからだ。もちろん、男性でも多い。そして、それが可能なのは、いろいろな分野において、自営業者を雇うクライアントがたくさん存在するからだ。

人事や広報、ウェブやプロダクトのデザイン、マーケティング、調査、特定の国や産業に強いコンサルタントなど、各種の「専門家」がそれぞれのやり方で仕事をしている。クライアントである企業のほうも、事業立ち上げ・起業のフェーズで先のことを約束できないときや、特定の短期的ニーズが発生したときに、プロジェクト・ベースでやってくれる専門家の存在を活用するニーズがある。

日本では、一般的に言ってこういうニーズが顕在化しづらいと思う。資金的に余裕のある大企業では、多かれ少なかれ「常態的に余分な人を抱えている」のが終身雇用という戦後的仕組みの残滓なので、「まずその人達を食わせる」ことが優先したら、こういった短期の仕事を外部の専門家に切り出してやってもらうというニーズが生まれにくい。幸いにして、私の場合は「アメリカに住んでいる」という、フィジカルなわかりやすいアドバンテージがあるので、社内の他の人とは違う仕事ができるとわかってもらいやすかったのがラッキーだった。

ただ、最近では日本企業も、雇用を抱え込まないように苦労しているようだし、だから「派遣」のニーズも高いわけで。この先、アメリカのように、もっとプロフェッショナル的な分野でも、コントラクターのニーズが増えるのでは、そうすると子育て中の女性でももっと仕事がやりやすくなるのでは、などと少々期待をしている。

幸いに、私の専門分野である「通信・IT」においては、女性プロフェッショナルに対する抵抗感は少ない。それでも、私が今の仕事を立ち上げた最初の頃、まだ本も出してない、ブログも書いていない、マッキンゼーなどの著名コンサルティング会社の経験もない、ただの無名な泡沫コンサルタントだった私に、継続的に仕事を出し、育ててくださったクライアントには、いつも感謝している。

就職難の昨今、日本では若い方でも私と同様に「他の選択肢がない」ということでノマドライフに突入する人も今後多くなるだろう。そんな中、ノマドになった人には、とにかく「誰の許可を得なくても費用は自己責任で使える」というメリットを最大限に活用して、自分の勉強にきちんと継続的に投資することをお薦めする。どんなにお金が苦しくても、決してここをけちってはいけない。勉強していれば、時代の流れも読めて、次にどんな知識やスキルが必要か、敏感にわかるだろう。

それと同時に、日本企業クライアント側でも、多くの分野で外部専門家を雇うように、柔軟に考えてほしいと思う。仕組みがまだまだ整っていない部分は確かにある。こういう場合には結局「口コミ」や「紹介」が一番合ったやり方なのだが、アメリカならば「LinkedIn」や、種々の人的ネットワークで適切な人を探す仕組みがいろいろあるのに対し、日本ではまだそれが足りない。でも、ニーズがあれば仕組みはできていく。四角四面な「雇用」でなく、ノマドを使いこなすほうが、いろいろとメリットがある世の中になっていると思うので。

<追記>
Twitterのコメントで気づいたのですが、上記に書いた私を雇ってくださっているクライアントは日本企業が多いです。念の為、付け加えておきます。