プレゼンだけじゃない、世界進出の心得「何の問題を解決するのか」

地元の友人でもある起業家、柴田尚樹さんが、テッククランチに寄稿している。とてもよい記事なのでぜひ読んでほしい。

シリコンバレーで起業した日本人が語るスタートアップガイド――受け入れられる投資家へのプレゼンとは | TechCrunch Japan

彼は「プレゼン」の話として書いているが、実は「プレゼン=見せ方」だけの話ではなく、また「ベンチャー」だけでなくどんな事業でも、そもそものスピリットというか、ミッションというか、そういったところからこの順番を心に置き、特に「何の問題を解決したいのか」にフォーカスしていないと、結局はユーザーに受け入れてもらえないし、成功もできないだろうなと思う。

地震以降、日本の将来に不安を持つ若い人が増えたせいなのか、この夏は「シリコンバレーに進出したい」という人が日本からずいぶんたくさんやってきた。それ自体はいいことだが、「事業をこちらで展開」という話になると、この「スピリット」の部分が私が聞いてもなんだかよくわからないことも多い。自分が面白いことをやりたい、儲けたいのは結構だが、こちらのユーザーから見て「ああ、自分のこういう問題を解決してくれるのね」ということがわからなければ「ふーん」で終わりだ。

例えば、柴田さんの古巣である楽天。三木谷さんにはなんとかグローバルに成功してほしいとずっと思っているのだが、英語の会社紹介ウェブページにある「Mission Statement」にこんなふうに書いてあるのがずっと気になっている。

Our Goal is to become the No. 1 Internet Service in the World

これが社内のスローガンなら話はわかるんだけど、特に楽天に思い入れもない、外部のユーザーや業界関係者から見たら「So what?まぁがんばってね。」で終わってしまう。共感は得られない。

日本であれだけ成功しているのだから、必ず何かしら、スピリットがあり、実際になんらかの問題を解決しており、多くの人が共感するユニバーサルな価値を提供しているはずだと思う。それを恥ずかしがらずにどんと表に出せばいいと思うのに。そもそもそこを考えていなければ、表面だけつくろっても長続きしないが、たとえあっても、日本的な阿吽の呼吸が通用しないところでは、ちゃんと煮詰めてエッセンスにして、わかりやすく表現しないと、わかってもらえない。

一方、例えば任天堂Wiiが提供する価値は、アメリカ人にも非常にわかりやすい。「ゲーム好きの子供とそれを嫌う大人の間の溝を解消する」というものだった。子供だけが楽しむのでもなく、親が押し付けて子供がガマンしてつきあってやるのでもなく、みんなが一緒に楽しむ時間という、ユニバーサルな価値を提供していた。トヨタプリウスも、「環境に優しいけれど、ガマン車ではないステータス」という価値を提供していた。最近の日本企業のアメリカでの大きな成功例としては、この2つがまず思いつくが、他に何かあったら教えてほしい。

ベンチャーでも大企業でも、ユーザーから見て「何の問題を解決してくれるのか」という、ユニバーサルな価値を中心に据えて事業を構築すること、それをユーザーや協力者(投資家・提携先・販売チャンネルなど)にわかりやすく提示すること、そしてそれを実現するために頑張ること。経営の中では当たり前の話なのだけど、「そんなキレイゴトを言っていたら儲からない」ということで儲けのテクニックにばかり心を奪われたり、「日本型パラダイス社会主義*1の中で「雇用を守るための現状維持」がお客様よりも優先事項というメンタリティが染み付いたりしがちだ。

当地に進出したいベンチャーだったら、資金調達や法務のテクニックもある程度知らないと困るが、いざとなれば専門家が助けてくれる。それよりも起業家本人は、自分しかできない、ユーザーや関係者が共感して応援してくれるような「価値」を、研ぎ澄ますところから、すべてが始まる、と思う。

*1:この話はまた近々別に書きます。