ティナ・フェイ、米メディアの「男性優位」を痛快におちょくるの巻

Bossypants

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ティナ・フェイといえば、サタデーナイト・ライブでのサラ・ペイリンのモノマネで一躍有名になったコメディエンヌであり、アレック・ボールドウィンと共演しているコメディドラマ「30 Rock」の脚本・制作・主演をやっている人でもある。映画にもいろいろ出ている。私もサラ・ペイリンからしか知らなかったが、これを読んでみると、強烈な「フェミニスト(女性の権利擁護論者)」なのだそうだ。

この本は、ティナの半生記でもあるが、一方では彼女のいるメディアの世界で、男性が自分では意識せずに女性を差別している状況を、サタデーナイト・ライブ流の毒のある笑いで味付けしておちょくる、というのが言いたいことなんだろうと思う。

冒頭。「自分は、30Rockの制作では最高責任者なのだが、よく『女性がボスであるという状況にどう対応しているのか』といった趣旨の質問をよく受ける。男にそんなこと聞かないでしょ、なんで私には聞くのよ!?」という話から始まる。

少し前に書いた「なでしこジャパン」報道への批判の話と全く同じ話だし(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110726/221679/?rt=nocnt)、またついさきほど、ちきりんさんが「NHKの討論会で、女性出演者だけ母であることに言及されるのだが、あれはなんでじゃ?男だって父である人もいるだろうに!」とTweetしていた件とも全く同じ。

本の中では、子供の頃から現在まで、彼女の生活の中で経験した、こうした「たぶん本人は悪気ないんだが、深いところにある無意識の女性差別がさせている発言、行動(それも、男に限らず、女性自身に染み付いているものもあり)」といったものを、鋭く、皮肉と毒をたっぷり盛って、おちょくっている。私には、非常に共感するところが多く、大笑いした。こんなこと、真正面から私が言ったら、このブログが大炎上して大変なことになるだろうが、コメディとはいいなぁ、とつくづく思う。

例えば、女性版下ネタ(生理に関する話など)が満載されているが、これらは女性なら顔をしかめながらも「あー、それってあるよねー、ワハハ」と笑うが、男性が聞いたらたぶん「気持ち悪い」と思うだろう。男性がこれを読むと、男性の下ネタを女性が聞いたときの気持ちがよくわかるだろう。表紙の写真で、顔はティナだがなぜ腕と手が違うのか・・というのも、中身を読むとわかる。

一番感動(?)したのは最後の部分。彼女は子供が一人いて、40歳になり、もう一人子供をつくるか、それとも仕事を優先してそれをあきらめるか、ですごく悩んでいるという。そして、彼女の場合、単に「自分がお金が欲しいから仕事をする」とか「好きだから仕事をする」という話だけではなく、「こうしたメディアでの男性優位の歪みの原因は、番組を作る側に女性があまりに少ないからだ、それを是正するために、今その場を与えられた自分は頑張らなければいけない」という使命感をマジに吐露している。本の中では解決していない。ずっと、迷い悩んでいる。

「(男性優位な)世間が求める女性の姿」と、「自分の中で自然に女性として表れてくる部分」と、「女性だからといって差別されているのに反発する部分」と、「自分で思い込んで作っている部分」と、「女性としての役割と共存しにくい仕事の部分」と・・・などなど、いろいろなもののバランスの中で、最適なものを求めて葛藤する、というのは、働く女性も働いていない女性も、それぞれに日々経験していることである。快刀乱麻の毒舌ジョークをかますティナも、実は私と同じように悩んでいるんだなぁ、としみじみ。

日本語版は出ていないようだし、この先も出ない(?)と思うが、なるべく多くの人に読んでほしい。私は例によってオーディオブックで聞いたが、これはティナ自身があの歯切れよいセリフまわしで演じていて、これまた面白かった。

<直後追記>
Twitterにて、ティナが今月第二子を出産したという情報をいただきました。ありがとうございます!そうか、結局それを彼女は選んだんだなぁ。でも相変わらずサラ・ペイリンもやってるようだし、頑張っているようです。