韓流に見るスーパーニッチ戦略の落とし穴
今週初めにアップされた日経ビジネスオンライン記事「電子書籍」は、おかげさまでアクセスランキング4位をいただきました。お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110726/221682/
さてこの中で、日本とアメリカの電子書籍市場の違いとして、規模は今でも日本のほうが大きいながら、日本は「携帯コミック」というニッチ、米国は紙の書籍と同じベストセラー本が中心の「メインストリーム」を指向している、ということを書いた。
ニッチといってもこれだけの規模があるというのは大したもので、これが日本市場のスゴいところである。実際に私の周辺で、携帯コミックが好きという人はおらず、どういう人なのだかわからないが、おそらくは数は少ないながら、一人あたりの購入額の大きいマニアということなのだろう。一方、米国でKindleやiPadで電子書籍を読んでいる人は身の回りに何人もおり、医者の待合室やカフェテリアなどでもよく見かける。
この「かなり大きな市場のはずなのだが、ユーザーの姿が見えない、客単価がおそらく極端に大きい」という謎のスーパーニッチは、実はあちこちに存在する。習慣性が高く、マニアになるとマニア仲間との相乗効果でどんどんお金をつぎ込んでくれれば、いい商売になる。ビジネスモデルとしてはこれもアリだと思う。
例えば、アメリカならZyngaのFarmvilleなどのゲームがこれに近い。ただし、あまりにユーザー数が多くなって、かなりメインストリームになってきてしまったようにも見える。コミック・アニメ・コンソールゲームなどは、アメリカもその点で日本と同じ状況だ。
携帯業界ならばモバゲーが典型だ。すごい売り上げがあるのだが、「一体誰がやってるのだろう?」と不思議に思っている。そして、ユーザー一人あたりすごいARPUを叩き出している。ニッチといっても、それほど「少数」ではなく、ちゃんと「respectable」な数がいるのだが、なんだか姿がいまいち見えない。
そして、今話題の「韓流」はまさにこれなのだろう。下記の記事では、AKB48やジャニーズもそうだと指摘していて、私的には腑に落ちる。
スーパーニッチが成立するには、ユーザー一人あたりの単価が高いことがカギで、それを実現するには相当に「はまって」もらう必要があり、そのためには同好の士どうしでの相互フィードが最も効果がある。まさに「ソーシャル」の世界であり、モバゲーやZyngaがSNSであることは自然な成り行きだ。韓流やAKBのファンも一種の「SNS」であるともいえる。
しかし、客単価を上げるべく相互フィードを強化して「はまり」感を強めるほど、それ以外の「一般人」から乖離してしまう危険性がある。さらに、テレビのケースでいうと、この「スーパーニッチ」をメディアで繰り返し露出することで、メインストリームの「流行」にまで持って行こうすると、やり方を間違うと逆に一般ユーザーを「疎外(alienate)」してしまうことになり、今回のような反発を招いてしまう。韓流は、テレビ局にとっては低コスト・高マージンのおいしいコンテンツでありながら、多くの日本人にとって感情的に微妙なモノであるという利害の乖離が大きかったために特に反発も大きかったが、程度は違えどテレビが流行らせようとしているアイドルなどはどれも似たようなところがある。
スーパーニッチ戦略は、ベンチャーや中小プレイヤーの戦略としては大いにアリだと思う。しかし、幅広いユーザーを持つ大プレイヤーの場合には、大多数の一般ユーザーを「疎外」してしまう危険性があるため、この「金のなる木」に安住するのは長い目で見てあまりよい経営戦略とは思えない。このような大プレイヤーならば、大多数のユーザーにも認められるメインストリームを最初から指向するか、または多くのニッチやスーパーニッチを上にのっける中立的な「プラットフォーム」となる、というのが最近流行のやり方。Farmvilleやモバゲーはスーパーニッチだが、それが乗っているフェースブックやimodeは「プラットフォーム」という違いだ。
これがもしフジテレビでなく、ケーブル専門の「韓流チャンネル」か何かだったら、全く問題なかったはずだし、昔のようにメディアが細分化しておらず、テレビで繰り返し露出すればみんな素直に好きになってくれる時代だったら上手くいったのかもしれない。
きょうび、スーパーニッチという「麻薬」は、扱いに注意が必要なのだ。